2012 Fiscal Year Research-status Report
新規時計機能欠損マウスを用いた生物時計の階層性とリズム調整薬の探求
Project/Area Number |
23590107
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山口 賀章 京都大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (30467427)
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Keywords | 視交叉上核 / 概日リズム / 時計遺伝子 / 組織特異的ノックアウト |
Research Abstract |
ヒトも含めて、地球上のほぼ全ての生物は、約24時間周期の体内時計を持つ。この体内時計は、時計遺伝子による転写・翻訳のフィードバック機構によって生み出されており、ホルモン分泌、血圧、体温、代謝の日周リズムを制御している。この概日リズムを統括・制御する中枢は脳の視交叉上核(SCN)である。1997年の最初の哺乳類時計遺伝子の発見から、世界中で続々と時計遺伝子がクローニングされ、24時間周期の転写翻訳リズムを生みだす細胞内分子メカニズムの解明はほぼ完了した。この時計の分子機構は、SCNの細胞のみならず、ほぼ全身の末梢の細胞にも普遍的に存在する。しかしながら、SCNの細胞が、明暗環境といった外界の時刻情報の入力をどのように処理し、末梢臓器へと出力するのかはほとんどわかっていない。従って、本研究は、SCN細胞の入出力の分子メカニズムとその機能を解明することを目的としている。 この機構に関わる分子として、私は、SCN特異的に発現し、その発現に24時間の周期が見られる、機能未知の低分子量Gタンパク質(ここではGXと記す)を見出した。そこで私は、SCN特異的GXノックアウトマウスを作製し、概日行動リズム解析、遺伝子発現制御、シグナル伝達、生理機能といった点から、GXの生物時計制御システムにおける機能を解明する。また近年、末梢臓器にも生物時計が存在し、その機能の破綻が種々の病態を引き起こすことが分かった。このGXは、SCNのみならず、腎臓や脾臓、肝臓、生殖組織など、多くの末梢組織でも発現していることから、末梢組織特異的GXノックアウトマウスを作製することで、末梢臓器特異的な時計機能を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
私は、GXのコンディショナルノックアウトマウスと全身でCreを発現するマウスを交配させ、全身性GXホモノックアウトマウス (GX-/-マウス)を作製した。この変異マウスが計画通りにGXを欠損しているかを、Southern blotting法、RT-PCR法やin situ hybridization法により確認した。本来マウスは明暗周期と同調した24時間周期の行動リズムを示すが、GX-/-マウスは明暗とは関係なくランダムに行動した。今年度は、この行動リズム異常の原因を解明する。 また、SCNにおけるGxのmRNAの発現量は、明期にピーク値をとる24時間周期のリズムを示す。私は、このGXの発現がE-box配列によって制御されていることを見出した。これまでの時計制御遺伝子プロモーターの解析から、E-box配列の制御下にある遺伝子の発現は、Clockによって活性化され、Cryによって抑制されることが知られている。それ故、Clock遺伝子変異マウスでは、E-boxを介した転写活性が抑制される一方で、Cry遺伝子欠損マウスでは、E-boxによる転写は抑制されず活性化される。脳を明期と暗期に採取し、SCNにおけるGx mRNAの発現リズムを検討したところ、Clock変異マウスにおいて、Gxは常時低かったが、Cry欠損マウスにおいては予想に反して、常時中程度の発現であった。この結果より、Gxの発現はE-boxによる制御に加えて、未知の制御機構があるものと考えられる。そこで、Gxの転写調節領域を再度検討したところ、Gxの転写開始点の近傍に、新たな転写調節領域があることを発見した。この配列はCryを介したシグナルによって、Gxの転写が活性化されると考えられため、Cry欠損マウスでGxの発現が予想より低かったことと辻褄が合う。従って、今年度はこの転写調節配列が真に機能的であるかを検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、GX-/-マウスの行動リズム異常が確認された。一般に、行動リズムの異常は、SCNにおける時計遺伝子の発現リズムの異常に起因するため、GX-/-マウスのSCNにおける時計遺伝子の発現を解析する。SCNは1mmにも及ばない程度の非常に微細な神経核であるため、SCNのみの単離は困難である。そこで、通常はin situ hybridization法を用いて時計遺伝子の発現を画像化した後、SCNのみの値を定量化して発現量を解析する。しかしこの方法では定量性に欠ける上に、複数の遺伝子を一度に解析することは事実上不可能である。そこで私は、顕微鏡下でレーザー光により組織を切り分けるレーザーマイクロダイセクション法を用いてSCNのみを単離し、mRNAを抽出してRT-PCR法により多数の時計遺伝子を定量的に解析する。また、SCNは2万個ほどの神経細胞からなる集合体であるが、それぞれの細胞がSCN内の神経ネットワーク機構を介してその活動が時空間的に制御されている。GX-/-マウスのSCNでは、このような細胞-細胞間コミュニケーションが破綻していることも想定される。そこで、時計遺伝子Per1のプロモーターでルシフェラーゼを発現させるトランスジェニックマウス(Per1-lucレポーターマウス)からSCNを取り出し、組織スライス培養系にて単細胞レベルで観察することで、GX-/-マウスのSCN内ネットワークにどのような異常があるかを解明する。既に研究に必要なGX-/-背景のPer1-lucレポーターマウスを得ている。さらに、GX-/-マウスの行動異常がSCNのGXによるものかを、SCN特異的GXノックアウトマウスを用いて検討する。加えて、末梢組織特異的GXノックアウトマウスを作出することで、組織ごとのGXの機能の解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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