2011 Fiscal Year Research-status Report
細胞内シグナルと代謝物リガンドによる核内受容体活性制御
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23590324
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
白木 琢磨 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (10311747)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 核内受容体 |
Research Abstract |
細胞外シグナル伝達物質であるセロトニンが細胞内に取り込まれる事により出来る代謝物が、核内受容体PPARgリガンドとして作用する。本研究では、細胞膜にある受容体からのシグナル伝達と核内受容体として作用する2重の制御の分子機構と疾患との関係を明らかにする事を目標としている。 核内受容体PPARgを内在性に発現しているヒトマクロファージ様細胞THP-1細胞において、セロトニンを投与するとPPARg標的遺伝子であるFABP4の発現誘導が見られた。この誘導はセロトニンの細胞への取り込み阻害剤を同時に投与することにより消失したことから、セロトニン受容体を介した作用ではなく、細胞内に取り込まれた出来た代謝物がPPARgリガンドとして作用した結果であると考えられる。従って、セロトニンの代謝とPPARgの活性化は連動していることが明らかになった。 一方、細胞膜上にある受容体により引き起こされる細胞内シグナル伝達、特にMAPキナーゼによりPPARgはリン酸化されることが知られている。PPARgのアミノ末端側に存在するリン酸化部位は肥満・糖尿病との関連性が既にマウスの分子遺伝学で示唆されている。このリン酸化部位に点変異を導入するとPPARgの活性は上昇することから、リン酸化はPPARg活性を負に制御していることがわかった。しかし、リン酸化修飾はプロリンイソメラーゼPin1を介して逆に蛋白質の安定化を引き起こしていることがわかった。従って、PPARgの活性は蛋白質量に相関するのではなくタンパク質の代謝回転に依存していると考えられる。これまで酵素などの蛋白質は、蛋白質量が上昇することで活性が上昇すると一般的に考えられてきた。しかし、核内受容体はDNA上での転写制御に際して、既に働いた蛋白質が新たに作られた蛋白質に入れ替わることが重要なのかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は平成23年度に東北大学から近畿大学へ異動し、独立研究室を持つに至った。しかし3月11日の震災による研究機器のダメージと、引っ越しの遅延など多くの困難に直面した。被災した研究機器に関しては東北大学から移設したため、震災復興のサポートを得られれず、自前での修理とセットアップを余儀なくされた。赴任後も今年度は実験室のセットアップに多くの時間を取られてしまった。しかし、研究機器特に顕微鏡のセットアップに際して新しいシステムの導入をすることが出来た。平成24年度には活性の時間的・空間的変化の視覚化を目標としているため、導入した新しい顕微鏡システムが利用になった。 当初の予定では機能連携を共発現で評価することを予定していたが、蛋白質の発現量と活性は核内受容体に関しては相関しないという事実を見いだしたため、若干軌道修正が必要になっている。しかし、次年度以降の活性評価システムへとつなげるという意味では、蛋白質の量ではなくその代謝回転をモニターするという新しい視野が開けたと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は活性の時間的・空間的変化の視覚化を目標とする。当初の計画とは異なり、蛋白質量が活性と逆に相関するという今年度の知見から、蛍光蛋白質に融合した核内受容体の蛍光強度をモニターすることで活性の指標とすることも視野に入れる。現在蛍光強度の変化を定量するシステムの構築を始めたところである。またセロトニンの合成と分解に関わる酵素群に関しては、すでに遺伝子のクローニングを終えているため、スムーズにクロストークの解析に移ることが出来る。 修飾状態の視覚化に関しては、若干の変更を行う予定である。当初の予定では蛍光エネルギー共鳴を利用したイメージングを計画していたが、上記のように活性変化に伴い蛍光蛋白質を融合した核内受容体の蛋白質量が変化し、蛍光強度自体が変動してしまうことが予想される。従ってFRET効率の変化なのか蛋白質量の変化なのかを判定できないという問題点がある。そこで、修飾状態の視覚化に関しては修飾を引き起こす細胞内シグナルの変動に代替することでクロストークを視覚化する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は研究室のセットアップで時間を費やしたため、当初予定していた消耗品費を100万円ほど未消化のまま次年度に繰り越すことになった。科研費の基金化に伴い、フレキシビリティーが良くなったことに感謝している。平成24年度は、平成23年度にセットアップした顕微鏡を用い、活性のイメージングによる視覚化とをすすめる。さらに96穴の蛍光・発光プレートリーダーについても稼働するようにしたため、活性の定量を同時に進行する。従って、当初予定していた細胞培養器具に加え、イメージング用培養ディッシュや96穴の培養プレートなどが必要になると考えられる。また、FRETを用いた修飾のモニターに代わり細胞内シグナルの変動をモニターする必要があるため、市販のイメージング用プローブを新たに購入する予定である。 平成24年度はイメージングに特化した研究計画であるため、顕微鏡システムを駆動するソフトウェアおよび画像解析ソフトを入れ替えることで効率化を図りたい。
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Research Products
(3 results)