2012 Fiscal Year Research-status Report
酪酸菌を用いたNASHの進展・発癌阻止を目指した予防法の開発
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23590755
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
渡辺 哲 東海大学, 医学部, 教授 (10129744)
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Keywords | NASH / 酪酸菌 / Nrf2 |
Research Abstract |
人のNAFLD/NASHモデルとして、コリン欠乏アミノ酸置換食(CDAA食)投与ラットを用い、脂肪肝から肝線維症、肝硬変、肝臓癌への進展過程に対する酪酸菌の予防効果を検討した。Fisherラット(6~7週齢)にCDAA食を投与し、2週後、8週後、16週後、50週後にラットを屠殺し、血液(尾静脈及び門脈)、肝臓、大腸、糞便を採取し検討した。酪酸菌は、肝臓に脂肪沈着が著明となる2週目よりCDAA食に原末を10%の割で混ぜ投与した(酪酸菌群)。CDAA群は、投与開始後8週目では肝線維化に、16週目で肝硬変に進行し、50週では肉眼的に腫瘍がみられた。酪酸菌群では、8週目の肝臓の脂肪沈着が著明に減少しており、肝線維化の程度も軽かった。16週目でも線維の沈着は軽度で、50週での腫瘍の個数、大きさともCDAA群と比べ有意に抑制されていた。 8週目では、CDAA群と比べ、酪酸菌群では血液検査でインスリン抵抗性の改善(HOMA-IR)や肝臓の中性脂肪の減少がみられた。また、門脈中のエンドトキシン濃度も低下していた。肝臓ではAMPKの活性化がみられた。大腸粘膜では、CDAA食により低下したtight junctionタンパクであるZO-1やOccludinの増加がみられた。さらに、解毒や抗酸化の鍵となるNrf2の誘導と、その標的酵素であるHO-1やNQO-1の誘導が酪酸菌群で観察された。また、炎症の指標となるNF-κB、TNF-α、ALTの低下を認めた。CDAA食でみられた脂質過酸化のマーカーである4-HNEは、酪酸菌群はほとんど観察されなかった。 酪酸菌群の糞便検査では、酪酸菌群で全例腸管内での酪酸菌の発芽増殖が確認された。腸内細菌叢の解析では、CDAA群に比べて酪酸菌群ではClostridium coccoidesグループおよびE. cylindroidesグループの菌数が有意に低かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、CDAA食投与によるNASHモデルを作成し、脂肪肝から肝硬変、肝臓癌への進展機序の解明と、それに基づく病変進行阻止を目指した予防戦略の樹立が目的である。1年目にはCDAA食投与2週、8週、16週のラットより血液、肝臓、大腸、糞便の採取などを行い、当初の計画通り肝組織や血液を用い、肝病変の進行具合を確認するとともに、酸化ストレス、エンドトキシン、炎症の面より検討した。本年度はさらに50週まで経過を観察し、検体を採取した。 CDAA食開始2週目の脂肪肝完成時より、酪酸菌をCDAA食に混ぜで経口投与し、NASHの進行阻止効果を検討した。酪酸菌投与による肝病変進展阻止効果は、肝組織の検討で評価し、その結果は予想通り顕著にみられ、最終的に肝腫瘍の発生の抑制が認められた。 脂肪の沈着改善、インスリン抵抗性の改善、門脈血中エンドトキシン濃度の低下、炎症反応の低下がみられた。その機序として、酪酸菌投与による大腸や肝臓におけるAMPKの活性化やNrf2の誘導があり、その結果大腸粘膜のtight junctionの回復や酸化ストレスの抑制につながり、肝線維化や肝発癌の抑制に関与したと考えられる。また、酪酸菌は本来整腸剤であり、その投与による腸内細菌叢の変化が顕著に認められたことも、エンドトキシン産生の低下に関連していることが示唆された。 現在までのところ、in vivoの解析はほぼ予定通り達成された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、CDAA食投与によるラットNASHモデルにおける酪酸菌経口投与の、肝病変進行阻止の機序の解明に重点を置く。昨年度までの研究で、酪酸菌投与による肝臓や大腸粘膜でのAMPKとNrf2の活性化が、現象面では酸化ストレスの抑制、肝での炎症の抑制、脂質・糖代謝改善につながり、結果として肝線維化抑制、肝発癌抑制へとつながったと考えられる。その機序の解明のため、in vitroで培養細胞を用いて、酢酸菌の産生する酪酸を用い、インスリンシグナル改善に着目して解析を行う。特に、in vivoで観察された酪酸菌投与によるNASHの進展阻止効果と脂質代謝やインスリンシグナルの改善を一元的に制御する候補遺伝子としてNrf2に的を絞り、AMPK活性化からNrf2活性化に至るシグナルの経路を明らかにする。 Nrf2は酸化ストレスの軽減や解毒に重要であるが、Nrf2の活性化がどのように肝線維化や肝発癌抑制に作用したかを、採取した肝組織を用いて解析する。 これまでは、CDAA食投与によるNASHモデルを用いて酪酸菌の効果を検討したが、これはコリン欠乏という特殊な餌によるものである。そこで、今後は他のモデル、特に高脂肪食投与マウスや遺伝子改変マウス(ob/ob、db/dbマウス)を用いて、酪酸菌投与による肝病変の進展阻止効果や、レプチンシグナルとの関連を検討する。 酪酸菌は、これまで30年以上にわたり人で整腸剤として使用され、安全性には問題ないので、これらの成果をもとに、人への応用を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
In vitroでの酪酸シグナルの解析を行う。ヒト肝癌細胞株HepG2を用い、インスリン抵抗性モデルを作成し、そこに酪酸を添加し、酪酸シグナル伝達を解析する。特に、AMPKからNrf2活性に至る経路を解明するため、その途中で働くと考えられるSirt1、PI3K、mTOR2、AKTの変化を解明する。これまでの肝臓での解析で、酪酸菌投与によりAKTのser 473が特異的にリン酸化されていたことより、AMPKとAKTをつなぐ経路として、上記の可能性が十分考えられる。 Nrf2の活性化の機序を解明するため、転写量やタンパクの半減期を検討する。一般に、Nrf2はKeap1と結合し、ユビキチン化され分解されるので、酪酸添加によるユビキチン化の程度を検討する。 肝組織におけるNrf2の発現パターを、共晶点レーザー顕微鏡を用いて検討する。特に、肝星細胞のマーカーであるdesminやα-SMAとの共発現や、前癌病変であるGST-Pとの共発現を検討する。 肥満者や肥満モデルマウスでは、肝臓のみならず脂肪組織、筋肉においても活性酸素が過剰に増加することが知られている。肥満が全身を酸化ストレスにさらす要因と言っても過言ではなく、慢性的な肥満がNrf2 による酸化ストレス防御機構を破綻させている可能性が考えられる。事実、酸化ストレスは、メタボリックシンドロームをはじめ、脂肪肝、動脈硬化、糖尿病、癌にいたるまで様々な疾患の原因となる。我々は昨年度までですでに酪酸菌投与がNrf2を活性化することを明らかにした。そこで、次年度では、高脂肪食投与マウスやdb/dbマウスを用い、Nrf2活性化による酸化ストレスの抑制が脂肪肝や糖代謝の改善に寄与するかを明らかにする。
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Research Products
(2 results)