2011 Fiscal Year Research-status Report
法医剖検脳における脳機能評価法の開発に向けた基礎的研究
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23590851
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
西村 明儒 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (60283561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳永 逸夫 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 准教授 (30116842)
石上 安希子 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (60359916)
主田 英之 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (90335448)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | レクチン / アルツハイマー / Gallias-Braak / 海馬歯状回 |
Research Abstract |
徳島大学法医学分野で行った法医剖検例79例の脳を試料とし、法医学会倫理規定に従った。ホルマリン固定した海馬をパラフィンで包埋、厚さ5μmに薄切した。各切片にGallias-Braakの鍍銀染色を施し、Braak Stage分類により、老人斑や原線維変化、グリアの変性などのアルツハイマー類縁疾患で見られる所見の出現範囲・程度によって病理組織学的評価を行ったところ、Stage 0:58例、I:7例、II:2例、III:8例、IV:3例、V:1例、VI:0例であった。これらに対して、DBA、GS-I-B4、UEA-Iのレクチンによる染色を行い、レクチン陽性球場沈着物(SPD)の海馬歯状回分子層における出現程度を-:なし、+:10個未満、++:10~50個、+++:50~100個で評価した。 死因との比較では、外傷、内因死、溺水では、SPDが比較的多くの例で認められたが、死因による著明な差は見られなかった。急死と遷延死についてはSPDの検出頻度は急死86%、遷延死79%と著明な差は見られなかった。生前の精神症状の有無については、有ではSPD検出が96%、無ではSPD検出が77%と生前の精神症状がある方が多い傾向にあった。Braak Stageとの比較では、SPDの出現頻度が比較的多い+や+++のものはBraak Stageの低い症例に多く見られ、-のものがBraak Stageの高い症例に見られた。 SPDの出現頻度には、死因や急死・遷延死などの死亡の態様に関する要因は関係しないと考えられた。Braak StageとSPDの出現とが平行しないのは、SPDがニューロンやグリアの変性過程に関係している可能性があり、変性の進行しきった状態では、SPDの出現頻度が変性過程の活発な状態よりむしろ低下すると示唆された。これは以前の研究でSPDがapoptosisとの関係すると示したことと合致している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、既得検体に加えて新たに取得した検体を固定保存し病理学的に分類し、これらの検体を試料として、蛍光多重染色を施し、共焦点レーザー顕微鏡で観察することによって、レクチン陽性球状沈着物におけるABO式血液型から適当と考えられるレクチン(A型はGSI-B4、B型はDBA、AB型はUEA-I、O型はGSI-B4またはDBA)と各種抗体との反応を調べることによって、本沈着物と認知症性変性疾患における変性所見との関係を明らかにしたい。と計画していたが、新たな検体の死後変化による影響が少なからずあり、染色性の維持が困難であった。そのため、蛍光多重染色や共焦点レーザー顕微鏡による観察を完遂するには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、新たに承諾を得て固定・保存した症例に対して、初年度と同様にレクチン組織化学染色法ならびに蛍光多重染色による検索を行うとともに免疫電顕による検討を平行して行う。初年度の申請時の計画では、これらの組織学的検討は、死後経過時間の比較的短い、組織の死後変化の軽度の症例を用いて行う予定であったが、前年度は、既にこの時点で死後変化の影響が無視できない状態となっていた。今年度は、申請時点では、実際の鑑定への応用の段階で検討する予定であった、蟻酸処理、オートクレーブ処理、マイクロウェーブ処理などの抗原の賦活化法の検討を行うことで当初の計画を遂行する予定である。免疫電顕による超微細構造における検討では、死後変化の強い検体では実施困難であるので、比較的状態の良い検体を選択して行う予定である。レクチンおよび糖鎖抗原に対する抗体に加えて、astrocyte関連抗原(GFAP)に対する抗体、microglia関連抗原(LCA、s-100)に対する抗体、神経伝達物質合成酵素(Tyrosine水酸化酵素、Tryptophan水酸化酵素、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素、NOS、神経伝達物質(dopamine、serotonin、acetylcholine、glutamate、NO)受容体分子に対する抗体などを用いて免疫染色を行い抗原の局在を検討したいと考えている。また、昨年度、実施し得なかったレクチンと各種抗体を用いた蛍光多重染色による評価も行いたいと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、先ず、剖検脳の固定・保存に使用する、パラホルムアルデヒド、リン酸緩衝溶液用試薬、シュークロース等の試薬、ならびに、蛍光多重染色に用いる蛍光標識したレクチンや各種抗体、免疫電顕に用いる種々の大きさの金粒子を結合したレクチンや各種抗体、各種試薬、電顕用樹脂包埋材料、抗原賦活化用の試薬等を購入する予定である。その際、昨年度からの繰越金94,133円も抗体や試薬購入に充てる予定である。研究用機材については、新たに購入する予定はなく、申請者の研究室に現有あるいは徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部の共同機材として現有のもので対応する予定である。
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