2011 Fiscal Year Research-status Report
炎症性腸疾患における増悪因子としての鉄の役割-腸内細菌および鉄関連分子からの解析
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23590940
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松浦 稔 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30402910)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 炎症性腸疾患 / 環境因子 / 鉄 |
Research Abstract |
【目的】炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease; 以下IBD)の病態形成には様々な環境因子が深く関与することが示されている。鉄は細菌の増殖・生存および毒性維持に必須の因子であることが知られているが、近年、経口的な鉄摂取がIBDの発症リスクと相関することが報告され、IBDの環境因子として食事に含有される鉄が注目されている。そこで、IBD動物モデルとして腸内細菌の存在下に慢性腸炎が自然発症するInterleukin-10欠損(以下,IL-10KO)マウスを用いて、経口的な鉄摂取が腸炎および腸内細菌に与える影響を検討した。【方法】4週齢のIL-10KOマウスに鉄含有量の異なる食餌(Low-iron diet、High-iron diet)を与え、食餌投与4週間後にマウスを屠殺し、1) 組織学的所見、2) サイトカイン産生、3) 定量的細菌培養(全好気性および全嫌気性培養,CFU assay)、について検討した。【結果】1) 組織学的所見;High-iron diet群と比較し、Low-iron diet群で組織学的炎症所見の改善およびHistologic scoreの低下を認めた。2) サイトカイン産生;Low-iron diet群で腸間膜リンパ節細胞からのIL-17産生の低下を認めたが、腸管組織からのIL-12p40産生については有意な差を認めなかった。3) 盲腸内の糞便を用いた細菌培養では、両群間における腸内細菌総数に有意差を認めなかった。【考察】以上より、経口的な鉄摂取が腸炎の増悪因子として関与する可能性はあるが、腸内細菌数への影響は少ないことが示唆された。今後、経口的な鉄摂取が腸炎に与える影響をより長期的に検討すること、腸内細菌叢のバランス(population)に与える影響を検討することが必要であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で用いるIL-10KOマウスはSPF(specific pathogenic bacteria free)環境下で腸内細菌の存在下に慢性腸炎が誘導されるIBD動物モデルであるが、無菌環境下に飼育したIL-10KOマウスに腸内細菌(SPF Bacteria)を直接inoculationして腸炎を誘導する場合と異なり、腸炎の発症が緩徐で、かつ腸炎発症時期の個体差が大きい。従って、本研究計画では離乳が完了する生後4週齢から鉄含有量の異なる食餌を与え、腸炎および腸内細菌叢への影響を経時的に解析しているが、上記の解析を行うのに適切な時期を決定するためのpreliminaryな検討が必要となっている。加えて、これまでの検討から、鉄含有量の異なる食餌を摂取した場合、腸内細菌総数に有意差を認めなかったことから、腸内細菌叢のバランス(population)への影響を解析することが重要と考えられる。しかしながら、同一ケージにおいて同じ食餌を与えてマウスを飼育することで、ある程度、個々のマウス間の腸内細菌叢の均一化を図ることができるが、個々のマウスにおける腸内細菌叢は非常に多様であることが推測され、腸内細菌叢への影響を如何に評価するかという点が問題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)腸炎への影響についての解析SPF環境下で飼育したIL-10KOマウスにおける腸炎発症時期の個体差の影響を可及的に少なくするため、経口的な鉄摂取が腸炎に与える影響をより長期的に検討することが必要であり、食餌投与開始8~12週後の組織学的所見および炎症性サイトカイン産生を検討する。2)腸内細菌への影響についての解析経口的な鉄摂取が腸内細菌に与える影響については、今後、分子生物学的手法を用いた解析を進めていく。これまでに施行した細菌学的手法による解析では腸内細菌総数に有意差を認めなかったことから腸内細菌叢のバランスの解析が必要であり、従来の細菌学的手法による解析では限界がある。従って、マウスの盲腸内容物から細菌のgenomic DNAを抽出し、T-RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)解析や代表的なcolitogenic bacteriaやprotective bacteriaに特異的なprimerを用いて定量的PCRを行い、腸内細菌叢の変化を検討する。3)細菌毒性への影響についての解析経口的な鉄摂取が腸炎の病態形成に関与するメカニズム解明のため、細菌毒性に与える影響をマクロファージ細胞株などを用いたin vitroの系で検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の本研究遂行に必要とされる研究経費は、1)実験マウスの飼育・管理、2)マウス食餌、3)各種抗体および試薬、4)旅費、に当てられる。1) 実験マウスの飼育・管理に要する費用今後は8~12週間にわたる経時的な解析を要すると考えられることから、少なくとも3-4ヶ月単位の実験マウスの維持管理が必要となる。また1回の実験あたり各群6-8匹で4群(計25-30匹/回)の実験マウスおよびその管理が必要と予測される。2)マウス食餌:本研究では当動物実験施設で日常的に使用されている食餌と異なり、含有される鉄濃度をあらかじめ調整したマウス食餌を準備する必要があり、研究費の一部を充当する。3)各種抗体および試薬:これまでと同様、病理組織学的解析やサイトカイン測定に必要な試薬・抗体に加え、今後は分子生物学的手法を用いた腸内細菌の解析を行うため、細菌の分離・培養に必要な試薬、腸管内のBacterial DNAの抽出・精製およびPCR関連試薬(primerなど)が必要になる。4)旅費:本研究に関する情報収集および成果発表のための旅費が必要になり、研究費の一部を充当する。
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