2012 Fiscal Year Research-status Report
多様な嗜癖行動(薬物と薬物によらない依存)の脳内機序と新規治療薬開発に関する研究
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23591682
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
宮田 久嗣 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (70239416)
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Keywords | 物質依存 / 物質によらない依存 / 摂取欲求 / 精神依存 / 衝動性 / 脳内報酬系 / 脳内自己刺激実験 / ラット |
Research Abstract |
本研究の目的は、“物質(アルコール、覚醒剤など)”と“物質によらない(ギャンブル、インターネットなど)”依存が、共通の病態や神経学的基盤を持つのか否かを明らかにして、それによって、共通の治療薬の開発が可能であるのかを明らかにすることである。 平成24年度には二種類の研究を行った。まず、平成23年度(初年度)の追加実験を行い、依存の中核症状である摂取欲求(精神依存)は、①一次性強化効果に基づく欲求の発現、②離脱症状の不快感による欲求の増強、③環境刺激の二次性強化効果獲得による欲求の増強の三種類の要素から構成されることを明らかにした。同時に、欲求発現時には、脳内報酬系機能が代償性に低下し、このことが衝動性に関係している可能性が示唆された。 このため、平成24年度の第二の研究は“依存衝動のモデル”を作成し、依存における衝動性の機序を明らかにした。依存欲求にともなう衝動性は、依存の重症化因子や治療阻害因子として重要である。実験では、脳内自己刺激実験により、ラットがレバーを一定時間押し続けると報酬を獲得できるが、報酬獲得後はレバーを速やかに放すことが求められる行動を形成させた。そして、衝動性を“行動の維持障害(待てない行動)”と“行動のリセット障害(とめられない行動)”の二種類の指標から評価した。この結果、嗜好品のタバコに含まれ、精神障害を起こさないニコチンは、“行動のリセット障害”で反映される衝動性を軽減させた。一方、精神障害を起こし、違法薬物である覚醒剤ではいずれの衝動性も増強させた。 以上のことから、同じ依存性物質であっても、薬理作用の違いによって依存衝動におよぼす影響は異なることが明らかになった。依存衝動は、依存の重症化因子として、また、治療抵抗因子となることから、次年度の研究課題として、物質によらない依存における衝動性の特性を明らかにすることが必要と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来は、依存臨床の対象は物質(アルコール、覚醒剤など)だけであったが、最近は、国際診断基準においてもギャンブルやインターネットなどの物質によらない依存も対象となっている。このような状況を受けて、本研究では、依存の病態や神経学的機構を解明し、物質と物質によらない依存が共通のメカニズムを持つのか否かを検討し、両タイプの依存に共通の治療法が存在するのか明らかにする。 初年度である平成23年度には、動物実験を用いて、依存の中核症状である摂取欲求(精神依存)に焦点を当て、欲求の発現には、一次性強化効果、離脱症状の不快感、環境刺激の二次性強化効果獲得の三種類の要因が関係し、これらの相互作用として欲求が生じることを明らかにした。いずれの要因も、欲求形成に重要であることは知られているが、本研究のように同一の系で包括的に評価できる方法はなかった。加えて、平成23年度の研究を行うなかで、欲求の発現時に脳内報酬系が代償性に機能低下を示すことが、依存衝動の発現に関係していることが示唆された。衝動性は依存の重症化因子や治療抵抗性因子となることから、平成24年度には衝動性のモデルをラットで作成し、依存性物質でも日常嗜好品のタバコに含まれるニコチンと、違法性物質で精神障害を起こす覚醒剤では衝動性に対して質的に異なる影響をおよぼすことを明らかにした。 このように、本研究は開始して2年間であるが、依存の中核症状である欲求の精神薬理学的構造が明らかになり、自然報酬に質的に近いとされる嗜好品のニコチンと、違法性物質である覚醒剤の差異がとらえられた。このことから、本研究で開発された評価系は妥当性が高く、感度も高いことが確認された。この評価系を用いることによって、物質と物質によらない依存の特徴を包括的に把握することが可能になる。したがって、現在までの達成度は「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度、24年度の2年間で、依存の中核症状である摂取欲求の精神薬理学的構造(一次性強化効果、離脱症状、環境刺激の二次性強化効果獲得による欲求の発現)と、付随する依存衝動の評価系を動物実験で作成した。また、この評価系を用いて、依存性物質のなかで嗜好品であるニコチンと、違法性薬物である覚醒剤の相違を検出することができた。 このことから、平成25年度には、依存性物質間の精神薬理学的特徴の相違を明らかにする目的で、自然報酬として80%の餌制限したラットにおける“食事(餌)”、嗜好品ではあるがニコチンと異なり精神障害を起こす“アルコール”、従来の動物実験では依存性の評価が困難であった“幻覚薬(大麻成分のデルタ9-テトラハイドロカンナビノール)”の三種類の依存を起こす対象物について、上記のモデルでその薬理学的特性の差異を検討する。この研究において、“依存”の本質にかかわる特性は共通した作用として検出されることが予想される。 平成26年度には、最終目標である「依存の治療薬」の開発を目指して、今回の依存の動物モデルを用いて治療薬の候補を検討する。まず、一次性強化効果による報酬系の代償性機能低下に対してはドパミン・パーシャルアゴニスト、環境刺激の二次性強化効果獲得に対してはドパミンD3受容体アンタゴニストやカンナビノイド受容体アンタゴニスト、衝動性に対しては選択的セロトニン再取り込み阻害薬を治療薬の候補として検討する。 最終年度である平成25年度には、それまでの4年間で得られた基礎研究の知見を臨床研究によって検証する。方法は、ニコチン、アルコール、ギャンブルの依存者を被験者として、対象群は健康被験者とする(各群20名)。依存にかかわる指標(精神依存:欲求度、身体依存:離脱症状、衝動性、日常生活への影響など)を臨床評価尺度で判定し、脳機能を近赤外線スペクトロスコピーで測定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究では、オペラント実験箱、脳内自己刺激実験装置など、平成23年度に使用した実験装置を用いたことから、購入したものは、実験動物(ラット)、実験動物の飼育費、薬品など247,720円であり、355,660円を次年度に繰り越した。 平成25年度の研究では、動物はSD系雄性ラットを用い、報酬として餌投与群、アルコール投与群、Δ9-テトラハイドロカンナビノール投与群、および対象群の4群で、1群20匹として80匹購入する。ラットの使用数の根拠は、内側前脳束への電極植え込み手術の成功率が約75%であることから算出した。オペラント実験箱と脳内自己刺激実験の装置はすでに当実験室に設置されていることから、動物関係としてラットの購入費と飼料費が必要となる。消耗品としては、埋込型双極電極、埋込型ダストキャップ、埋込型電極ケーブル、アンカービス、フリームービングアーム、薬品としては、エタノール、麻酔薬(ソムノペンチル)を購入する。また、衝動性の実験の解析プログラム・ソフトを購入する。本年度から実験補助者をアルバイトとして雇うことから、実験補助費(時給950円)が発生する。以上の研究経費として、平成24年度の繰り越し金355,660円と、平成24年度の研究経費800,000円の合計である1,155,660円を計上する。 平成25年度までの研究を発展させて計画された平成26年度と27年度の研究費については、平成26年度は動物実験費として500,000円、平成27年度は臨床研究費として600,000円を計上している。
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Research Products
(5 results)