2013 Fiscal Year Research-status Report
多様な嗜癖行動(薬物と薬物によらない依存)の脳内機序と新規治療薬開発に関する研究
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23591682
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
宮田 久嗣 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (70239416)
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Keywords | 物質依存 / 物質によらない依存 / 摂取欲求 / 衝動性 / 脳内報酬系 / 脳内自己刺激実験 / レバーホールディング課題 / ラット |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、“物質による依存(アルコール、覚醒剤依存など)”と“物質によらない依存(ギャンブル、インターネット依存など)”が、共通の病態や神経学的基盤を持つのか否かを明らかにし、共通の治療薬の開発が可能であるのかを検討することである。 平成23年度と24年度の研究から得られた新たな知見は、依存の中核症状である「物資の欲求」には、従来から提唱されていた脳内報酬系に機能亢進ではなく、逆に“報酬系の代償性機能低下”が重要であることを明らかにした。さらに、報酬系の機能低下は、依存で問題となる衝動性の発現に関係していること、さらに、本研究の最終目標である、物質と物質によらない依存の共通の神経学的機序である可能性が示唆された。 このため、平成25年度には、平成24年度に作成した衝動性の新たな評価系である“レバーホールディング課題”を用いて、“依存衝動のモデル”をラットで作成し、依存における衝動性の機序を明らかにするとともに、治療薬開発の可能性を検討した。まず、ヒトで依存衝動の副作用が報告されている、パーキンソン病治療薬であるドパミンD3/D2刺激薬(プラミペキソールとロピニロール)を用いて、衝動性の動物モデルを作成した。この結果、D3/D2刺激薬は、本モデルの衝動性の指標である“行動の維持障害”と“行動のリセット障害”を発現させた。そして、①D3受容体への親和性が高いプラミペキソールにおいて、衝動性が有意に強く出現していることからD3受容体が関係していること、②同モデルにおいて少量のアポモルヒネは自発運動量を減少させることから、衝動性の発現には脳内ドパミン神経の機能低下が関係していること、さらに、③治療薬として、ヒトにおける衝動性治療薬である選択的セロトニン再取り込阻害薬であるパロキセチンが、プラミペキソールによる衝動性を改善させたことから、セロトニン神経系の関与が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来は、依存臨床の対象は物質だけであったが、最近は、ギャンブルやインターネットなどの物質によらない依存も対象となっている。このような考え方は、両者に症候学的な類似性があることや、共通の治療技法が有効であることが根拠となっている。一方、物質と物質によらない依存に共通した神経学的基盤は明らかではない。しかし、有効な薬物療法開発のためには、この神経学的機序の解明は不可避である。このような状況を受けて、本研究では、物質と物質によらない依存に共通の神経学的基盤を検討し、両者に有効な薬物療法を開発することを目的とする。 初年度である平成23年度には、動物実験を用いて、依存の中核症状である摂取欲求(精神依存)には、一次性強化効果、離脱症状の不快感、環境刺激の二次性強化効果獲得の三種類の要因が関係していることを明らかにした。一方、物質と物質によらない依存の相違点として、物質による依存では一次性強化効果を数量的に測定できるのに対して、物質によらない依存では測定が困難なことがあげられる。しかし、平成23、24年度の研究で、新たな視点から、物質と生体の相互作用の結果生じる報酬系の代償性機能低下に注目することによって、物質と物質によらない依存に共通の神経学的基盤を見出すことができた。しかも、報酬系の代償性機能低下は、欲求の発現や依存衝動に関係していることから、新たな薬物療法開発の手がかりとなる。このような観点から、平成24、25年度の研究で依存衝動の新たな動物モデル(レバーホールディング課題)をラットで作成し、脳内神経学的機構の検索を開始した。 以上のことから、本研究課題で新たに作成した依存衝動を評価できる新規動物モデルを作成し、物質と物質によらない依存に共通した神経学的機序を検討することが可能となった。このため、平成23年度から25年度までの達成度は「当初の計画以上に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度から25年度の3年間の研究を通して、依存の神経学的機序として従来考えられていた物質の一次性強化効果(脳内報酬系の刺激効果)ではなく、物質の効果を受けて生体側に生じる変化(報酬系の代償性機能低下)に注目することによって、物質と物質によらない依存に共通した神経学的機構を見出すことが可能となった。さらに、この報酬系ドパミン神経の代償性機能低下が依存衝動に関係していることを裏付ける動物モデルの作成にも成功した。 このような研究成果を踏まえて、平成26年度においては、依存衝動の動物モデル(レバーホールディング課題)を用いて、物質や物質によらない依存のモデル動物を作成し、脳内神経学的機序の検索を行う。すなわち、物質によらない依存のモデル動物として、80%の餌制限したラットにおける“食事(餌)”を用いる。一方、物質依存のモデル動物として、嗜好品であり精神障害を起こさないニコチン、嗜好品であるが振戦せん妄などの精神障害を起こすアルコール、違法性物質であり重大な精神障害を起こす覚醒剤を用いる。これらによる依存衝動の行動学的変化と、脳内ドパミン神経系を中心とした神経学的検索を行う。なお、脳内報酬系の機能は、脳内自己刺激実験を用いて測定する。 平成27年度においては、依存の発現機序が脳内報酬系の機能低下にあるとする本研究課題の作業仮説に基づく治療薬の検索を行う。すなわち、脳内報酬系ドパミン神経の代償性機能低下を阻止または回復させる薬物の候補として、第一にドパミンD3/D2パーシャルアゴニスト、第二に、扁桃体を経由して二次性強化効果を介してドパミン神経の代償性機能低下を回復させる薬物としてカンナビノイドCB1受容体拮抗薬、第三に、衝動性の非特異的治療薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬の効果を依存衝動の動物モデル(レバーホールディング課題)で検証し、脳内神経学検索を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究では、オペラント実験箱、脳内自己刺激実験装置など、平成24年度に使用した実験装置を用いたことから、購入したものは、実験動物(ラット)、実験動物の飼育費、薬品など949,551円であり、209,106円を次年度に繰り越した。 平成26年度の研究では、動物はSD系雄性ラットを用い、報酬として餌、ニコチン、アルコール、覚醒剤の投与群、および対象群の5群で、1群20匹として100匹購入する。ラットの使用数の根拠は、電極植え込み手術の成功率が約75%であることから算出した。消耗品としては、埋込型双極電極、埋込型ダストキャップ、埋込型電極ケーブル、アンカービス、フリームービングアーム、薬品としては、エタノール、麻酔薬を購入する。また、衝動性の実験の解析プログラム・ソフトを購入する。本年度から実験補助者をアルバイトとして雇うことから、実験補助費(時給950円)が発生する。以上の研究経費として、平成25年度の繰り越し金209,106円と、平成26年度の研究経費500,000円の合計である709,106円を計上する。 平成26年度までの研究を発展させて計画された平成27年度の研究費については600,000円を計上している。
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Research Products
(7 results)