2011 Fiscal Year Research-status Report
歯周病原菌代謝産物のエピジェネティク制御遺伝子への作用と難治性全身疾患への影響
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23592714
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
落合 邦康 日本大学, 歯学部, 教授 (50095444)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 健一 日本大学, 歯学部, 講師 (60381810)
田村 宗明 日本大学, 歯学部, 助教 (30227293)
津田 啓方 日本大学, 歯学部, 助教 (60325470)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 歯周病 / 短鎖脂肪酸 / n-酪酸 / エピジェネティク制御 / HIV / 腸内細菌叢 / 膣内細菌 |
Research Abstract |
われわれは、歯周病原因菌P. gingivalisの代謝産物・n-酪酸がHIVプロモーターのクロマチン構造を変換し潜伏感染HIVを再活性化することにより、歯周病がAIDS進展の危険因子となる可能性を示した (J. Immunol. 2009)。n-酪酸は腸内細菌の主な代謝産物の一つで、当該年度では潜伏感染HIV再活性化における腸内および膣内の常在嫌気性細菌の影響を検討した。その結果、腸内細菌ではClostridium属、Eubacterium属、Fusobacterium属菌株において顕著なHIV複製と転写活性化が認められた。膣内細菌のAnaerococcus tetradius、Anaerococcus vaginalisやPeptoniphilus asaccharolyticusなども再活性化を誘導した。活性化の認められた全ての細菌の培養上清からは高濃度のn-酪酸が検出され、その量はHIV複製能に相関していた。活性化機構を検討した結果、n-酪酸はHIV LTRのヒストンアセチル化を促進することでクロマチン構造を「不活性化型」から「活性化型」に変換し、HIVの転写と複製を促進することが判明した(Cell. Mol. Life Sci. in press)。n-酪酸の歯周組織に及ぼす影響については、口腔上皮粘膜のHIVレセプターCCR5およびCXCR4の発現が歯周病原菌の培養上清により促進される結果が得られた。また、歯周組織内に浸潤したn-酪酸の動向については、13C-n-酪酸(1 mol/L) をラット歯肉組織内に接種し、頸静脈より経時的に採血し、血中n-酪酸量をUPLC/MS/MS systemにより測定した。その結果、90分後をピークに採血終了の120分 (2μmol/L) まで検出された。しかし、腸管内に接種では腸管周囲静脈からn-酪酸は全く検出されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
潜伏感染HIVウイルスの再活性化が腸内および膣内嫌気性常在菌の培養上清によっても誘導されることが判明した。また、その活性化機序について検討した結果、クロマチンの構造変化が誘導されていることが判明した。これらの再活性化作用を持つ培養上清から、n-酪酸以外の再活性化促進物質は検出できなかことなどn-酪酸が直接HIVゲノムに作用している点は、「微生物間相互作用」の観点から興味深い。これらの結果から、ウイルス研究の平成23年度目標であるヒストン修飾を介する潜伏感染HIVウイルスの再活性化機序の解明については、概ね達成できたと考える。HIV感染の初期段階において、腸管粘膜下でウイルスが爆発的に増殖することが報告されていることから、HIVの再活性化と腸内細菌叢との関係は極めて興味深い。n-酪酸により口腔上皮粘膜のHIVレセプターCCR5およびCXCR4の発現が促進される結果からは、歯周病などの口腔感染症により、HIVの経口感染が促進される可能性も示唆された。現在、上清中にこれらのレセプター発現促進物質が他に存在するか否かについて検討を行っている。また、歯周組織内に浸潤したn-酪酸の動向については、13C-n-酪酸の血中n-酪酸量をUPLC/MS/MS systemにより測定した結果から、腸内細菌叢により産生された高濃度の酪酸は、腸管粘膜組織に維持されることなく急速に希釈されるものの、歯周病原菌により産生され歯周組織内に浸潤した酪酸は、組織内に停滞・維持されることが判明した。細菌の代謝産物の体内動向を知る上で組織による差があることが判明したことは、極めて興味深い。 本プロジェクトによって現在まで得られている結果は、微生物の病原性発現における微生物間相互作用と代謝産物の組織への影響を両面から検討しており、概ね順調に進行していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本邦は、先進国の中で唯一HIV感染者が増加傾向にある。つまり、HIV感染予防の重要性が一般に認識されていない。また、口腔感染症を代表とする内因感染予防の重要性も認識されているとはいい難い。そこで、様々な難治性全身性疾患と常在細菌感染症との関係を広く認知してもらうために、それらに深く関わっている潜伏感染ウイルスの再活性化について検討を継続する。平成24年度は、本邦において感染率の高く、重症の歯周病、潰瘍性大腸炎や関節リュウマチ、そして、がんなど様々な全身疾患との関連性が報告されているEpstein-Barr virus (EBV) を標的として、n-酪酸による再活性化を検討する。高齢者の増加など社会構造の変化に伴い直面している医療費問題を視野に入れ、医療費削減につながる大きな方策として、健康維持と内因感染症予防の重要性を広く国民に認識させる必要がある。その一助として、本研究の重要な課題である微生物間相互作用による新たな病原性発現機序を明らかにしてゆく。われわれの仮説により(EBV) 再活性化がみられた場合、口腔感染症を含めた内因感染症予防の重要性を広く認識してもらうことが可能となる。 口腔以外の常在細菌叢より酪酸産生菌を分離し、その酪酸産生量の差により生じる生体への為害作用および潜伏感染ウイルス再活性化への影響を検討する計画を立案した。その初期段階として、サンプル(糞便)からFusobacteriumの分離を繰り返し行った。しかし、一部の分離菌は、その発育が思わしくなかった。また、発育良好であった菌も凍結保存後の再培養において発育しなかった。そのため、短鎖脂肪酸測定実験に供する細菌株数が十分に準備できなかった。その結果、短鎖脂肪酸測定のための外部機関依頼関連予算を使用することが出来ず繰越金が生じた。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度研究計画は順調に進展したため、平成23年度繰越金686,271円は、平成24年度予算と合わせて口腔および糞便分離細菌の同定および産生短鎖脂肪酸量の測定用経費として使用する。細菌分離同定用経費として細菌培養用および分離用各種培地、嫌気培養装置用ガスおよびプラスチックシャーレなど培養関連器具に約300,000円、短鎖脂肪酸測定用経費として試料前処理費用および測定委託費用として約450,000円を計画しており、繰越金を全額使用する。不足分については平成24年度経費を充当する。現在、Fusobacterium 9菌株を分離に成功し、発育も順調で、短鎖脂肪酸測定の準備段階に入っている。今年度も引き続き酪酸産生細菌の分離と短鎖脂肪酸量測定実験を継続する。
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Research Products
(21 results)