2011 Fiscal Year Research-status Report
難治性根尖性歯周炎の血管内皮細胞を介した炎症の遷延と治癒機構の解明
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23592811
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
武市 収 日本大学, 歯学部, 講師 (10277460)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 難治性根尖性歯周炎 / 歯根肉芽種 / midkine / 誘導型一酸化窒素合成酵素 / CD105 / 血管内皮細胞 / 蛍光二重免疫染色法 / real time PCR法 |
Research Abstract |
歯根嚢胞と臨床診断され、外科的に摘出された根尖病巣組織を研究試料とした。 得られた組織を二分割し、一方を用いてパラフィン切片を作製したのち、ヘマトキシリン・エオジン重染色を施した。試料の87%は重層扁平上皮とコレステリン結晶を含まず、肉芽組織中には幼弱な血管に富む高度な細胞浸潤を伴うため、歯根肉芽腫と病理診断し、以下の検索に供した。なお、重層扁平上皮を含む組織を歯根嚢胞と病理診断し、本研究から除外した。 歯根肉芽種と病理診断した組織の、分割した他方を用いて凍結切片を作製し、抗ヒト誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、midkine、CD105抗体を用いた免疫染色を行ったところ、肉芽種中のマクロファージやリンパ球などの炎症性細胞や血管内皮細胞にiNOSおよびmidkine抗体による染色性を示したが、特に血管内皮細胞で強陽性を示した。また、陽性細胞数は比較的少ないが、肉芽組織中にCD105陽性細胞の存在を認めた。なお、CD105陽性細胞は血管周囲に局在していた。健常歯肉を用いて同様に免疫染色を行ったところ、全ての試料で陰性所見を示した。これらの抗体を用いて蛍光二重免疫染色を行ったところ、炎症性細胞や血管内皮細胞はiNOSおよびmidkineを共発現していた。 歯根肉芽腫の凍結切片からmRNAを抽出し、ヒトiNOSおよびmidkineに特異的なPCRプライマーを用いてreal time PCR法を行ったところ、iNOSおよびmidkine遺伝子の発現を確認した。しかし、健常歯肉から抽出したmRNAを検索した結果、これらの遺伝子発現は認められなかった。 以上のことから、iNOSおよびmidkineは炎症特異的に発現され、歯根肉芽種の発症に影響している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたよりも多くの試料を収集することができ、研究に供試することができたため、多くの研究データを得ることができたことが研究達成に大きく貢献している。 研究内容については、病理組織学的、免疫組織学的および分子生物学的手法を用いて検索しているが、それらは申請者が以前から常日頃行っている手法であり、手技の内容を熟知しているため、研究自体は非常に円滑に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度の研究結果から、難治性根尖性歯周炎の局所では肉芽組織に浸潤しているリンパ球やマクロファージなどの炎症性細胞よりも血管内皮細胞で、midkineおよび炎症のメディエーターである誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)が強く発現していることが明らかとなった。これらの発現は、健常歯肉組織では発現されていないことから、炎症の発現や遷延に深く関与していることが示唆された。しかし、炎症局所におけるmidkineの機能は細胞の遊走のほか、血管の新生と恒常性の維持を司るなど、局所の創傷治癒にも関与していることが報告されているため、歯根肉芽種で発現されたmidkineは根尖性歯周炎の発症に関与しているのか、治癒に関与しているのかは明らかではない。 そのため、今後はヒト臍帯静脈血由来血管内皮細胞を用いた細胞培養を行い、iNOSを誘導する因子や阻害剤がどのように細胞遊走に影響するかを検討することで、midkineが炎症に対してどのように関わるかを検索する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き、難治性根尖性歯周炎の病巣組織を摘出し、本研究に供試する。そこで、病巣組織を採取する器具を必要とする。次年度は、midkineの細胞遊走能が血管内皮細胞に及ぼす影響を検索するため、ヒト臍帯静脈血由来血管内皮細胞(HUVEC)および細胞培養液を購入する。細胞遊走を解析する方法として、免疫組織学的検索(蛍光二重免疫染色法)および分子生物学的検索(real-time PCR法)を行うため、抗体と検出キット、遺伝子解析用試薬およびそれらに使用する器具を物品費として購入する。 これらの研究結果を、平成24年9月12-15日にヘルシンキ(フィンランド)で行われるInternational Association for Dental Research (IADR)での学術大会で発表し、研究成果の公表を行う予定である。また、平成24年6月16,17日に行われる日本歯内療法学会(東京)および11月22、23日に行われる日本歯科保存学会(広島)に参加し、成果の発表および研究に関する調査、資料採取を行う予定であり、それぞれ旅費と学会参加費を申請する。 同時に、研究成果を専門の英文雑誌に投稿する予定であり、投稿前に英文校正(校閲)を依頼するため、その費用を申請する。
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