2012 Fiscal Year Research-status Report
沖縄の小離島における介護と看取りに関連する要因の研究
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23593446
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
古謝 安子 琉球大学, 医学部, 教授 (30305198)
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Keywords | 小離島 / 高齢者介護 / 看取り / 沖縄 |
Research Abstract |
本研究では、過疎高齢化が先進し介護基盤が未整備な小離島における介護と看取りを可能にする要因を明らかにすることを目的としている。 平成24年度は、初年度収集した死亡状況の結果を比較しながら、関連研究で取り組んでいた小離島粟国村の死亡状況について考究し、「火葬場のない沖縄県小離島における死亡状況と葬法に関する住民意識の検討」と題して民族衛生に投稿して掲載された。火葬場のない状況は同様である両村における埋葬に関わる住民の世代間関係は異なっており、それらは島の伝統文化や経済基盤、自然環境等の影響が関与しているためと考えられた。座間味村における1999年以前と最近10年間の葬法には違いがみられ転換点にあり、現在考察し論文を作成している。 本年度は初年度実施できなかった先進地視察を2か所実施した。国内では、山口県の「夢のみずうみ村」デイサービスセンターに座間味村の保健福祉関係職員3人を同行し、多種多様なプログラムから一日の過ごし方を自己選択・決定する生活を楽しむリハビリの視察を行った。国外では、世界で初めて介護保険制度(年齢制限なし)を導入したオランダの「ケア付き高齢者住宅視察団」に同行し、小都市のような複合ケア集合施設や田舎の農家で実施する認知症デイサービス、年間100人を見送る住宅地の中のホスピスなど地域特性に応じた多様な高齢者ケア施設を視察した。さらに、家庭医と連携して患者の自己決定尊重による安楽死や、地域看護師が利用者の生活や医療の全プロセスに責任を持ち包括的な支援を展開している訪問看護介護センターについても担当者の話を聴くことができた。 対象地座間味村では、沖縄振興一括交付金を活用し総合ケアセンターを設置することが決定し、中重度要介護高齢者が宿泊できる体制が整備されつつある。島内での介護や看取りにおいても転換点にあり貴重な時期での研究といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度から2年目において、座間味村の最近10年間の死亡状況や20歳以上住民への悉皆調査および看取り終えた家族への面接調査など、計画していた調査を実施できた。また本研究の目的である島内看取りが可能となる介護体制に関する意識の共有を図るため、座間味村役場の保健福祉職員らとの国内先進地施設の視察を企画し実施できた。座間味村では平成24年10月に総合ケアセンターが設置され、高齢者の介護や生活支援の方向性を考える時期であり、関係職員においても時期を得た具体的な示唆が得られた視察であったとの報告があった。また海外先進地として予てより注目していたオランダへの視察団が企画されたのを受け参加した。オランダではNPOやボランティアの関与により、地域特性に応じた多様な高齢者介護施設や地域サービス、看取りの体制や訪問看護介護サービスが展開されており、わが国が手本とすべき仕組みについて学ぶことが多かった。 研究成果としては、座間味村の死亡状況と葬法に関わる住民意識の変化を1999年以前と最近10年間で比較し、日本公衆衛生学会において発表した。国外では、APACPH(Sri Lanka)において、粟国村と座間味村の状況を対比し、伝統文化や経済基盤、自然環境との違いを考察して発表した。さらに、日本看護研究学会では沖縄の文化が織りなす看護と看護研究と題するシンポジウムが組まれ、これまでの研究成果をシンポジストとして発表した。現在、看取り終えた31事例との面接内容を質的帰納的に分析しており、次年度論文作成を行う予定であり、本研究はおおむね順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の基本的な調査は対象地の協力が得られ初年度で実施できた反面、初年度に予定した先進地視察は時間的に余裕がなく2年目に延期した。また、対象地においても初年度に国からの沖縄振興一括交付金を受けて総合ケアセンター座間味偕生園の設置が許可され、2年目10月に開園している。住民が念願とする高齢者や障害者、乳幼児の保育事業等を総合的に担う施設が島に出来た。今後は、これらのサービス提供の理念や仕組み、在宅介護や看取りに関する実務者の技術や対応の方針について検討が必要となろう。これらの状況を踏まえた座間味村の職員との国内先進地の視察は有意義であった。一方、2年目には終末期における離島高齢者の長期入院の実態を再確認するための調査を本島内の基幹病院で企画していたが、実施しないことに決めた。それは、初年度に実施した座間味村の最近10年間の死亡状況調査により島内死亡者でも2007年以降は火葬に転換したことが確認されたからである。以前に実施した1999年までの10年間の死亡状況調査において、埋葬を避けるために90歳以上高齢者が終末期以前に島外移動となり長期入院していたが、島内死亡であっても火葬に転換したことが明らかにされたことによる。 次年度は、これまでに得られた研究成果を役場および関係者と共有し、島内で介護し看取れる体制の推進にむけ検討会を開催する。また、住民を対象とした介護と看取りに関する学習会について住民や役場・保健福祉関係者らと検討し、協同で開催を企画する。さらに、国内や海外における介護と看取りの先進地視察から得られた成果について検討し、座間味村の体制に活用できるものや住民と役場の連携に生かせる内容を抽出して学習会を企画する。また国内外の学会への研究報告及び論文作成を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は座間味村で学習会を企画するための島への旅費等の計上、また島嶼地域や過疎地域で在宅介護や看取りを実践し研究する専門家を招聘し研修会や勉強会の企画実施のための旅費、人件費を予定している。またさらに介護や看取り関連の先進地への視察研修も計画している。研究成果は国内外の学会で報告し、論文作成や英訳等に研究費を使用する。
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Research Products
(3 results)