2011 Fiscal Year Research-status Report
インクルーシブデザインと脳科学~移行の共生デザイン感性論
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23611036
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
松井 紫朗 京都市立芸術大学, 美術学部, 准教授 (60275188)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 悟 京都市立芸術大学, 美術学部, 准教授 (30515515)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | インクルーシブ・デザイン |
Research Abstract |
初年度は、本研究の目標である「知覚経験を変換し豊かな精神生活を生み出す環境モデルとしての共生デザイン感性論」を探る手がかりとして、動作、移動といった身体感覚と、言 葉、イメージなどが結び付く、一連の「知的思考の連鎖」の要因の抽出を目指した。これは京都市立芸術大学で進めて来た「Ctrative Engagement :宇宙から地球へ~芸術のアナザーモデル」(基盤B2009年~12年)との連携研究と、そこで作成された二重軸回転装置の携帯型NIRSによる脳計測実験の成果にもとづきインクルーシブデザインの視点からアプローチするものである。本研究では、体性感覚の変化と知覚の変化に関しては、前庭覚への刺激とそれと連携する受容器との関係性の解明に絞り込むことによって実験化の可能性を探ることとした。またこれにより、計測に際しては、NIRSと他の計測機器との組み合わせ、あるいはNIRSでは不可能な脳深部との連携を捉え得る新しい計測機器を待つこととした。直径3mの二軸回転装置の電動化を進めつつ、上記のような複数の感覚による統合やその計測の先行例、実践例を参考に、来年度の実験の具体化を図った。来年度以降は、京都芸大による基盤B「生存の技法:医療・芸術・脳科学融合領域研究」(2012年~14年)との連携研究により、自己の定位を失った動揺状況と環境に於ける近傍の関係、行動のシーケンスの組み立て直しによる神経回路の生成過程について共生デザインの視点からアプローチしてゆく計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成果報告にもあるように、本年度前半は、二軸回転装置による実験の構想とNIRSなどその実験を計測する装置について慎重に進めた。我々の目指す「知的な思考の連鎖」のような動的な状況を捉えようとする実験の計測には、携帯型のNIRSが有効であるが、NIRSでは得られない正確な部位の同定、深部の計測に有効なfMRIは、静的な実験状況でしか用いることができない。また、瞬時の連鎖には血流変化による計測よりも脳波測定による部位の同定が有効など、我々の実験目標の具体化につれ、その実証に関わる計測機器の問題が課題として浮かび上がり、本研究でどこまで実験数値に基づいた科学的実証を追求するのか見定めにやや時間を費やした。しかし、本研究では独自に新たな計測機器の開発を行わず、まず二軸回転装置を用いた実験装置を具体化した上で、広くこれを公開し、これまでの計測機器での測定を行いながら、より精度の高い実証については他の研究機関との連携のなかで行うことを期待することとし、本年度後半よりその製作に着手した。以上、研究の進展とともに浮かび上がる課題とその対処のための修正があるものの想定内とし、概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度後半より直径3m、8mの二軸回転装置による実験装置製作を開始したが、当初予定していた部品より大掛かりなものが必要となったため、初年度残金を繰越金として次年度の予算に足して発注し、引き続き次年度5月の完成を目指している。次年度はまず6月にこれを用いた公開実験とともに、「知覚経験を変換し豊かな精神生活を生み出す環境モデルの研究」に関するシンポジウムを計画している。このシンポジウムを通して、これら実験装置の可能性と新たな課題を見出しながら開発を続け、「身体感覚と連動することで知覚を変換するシステム」のパターンをできるだけ収集する事を目指す。 また、次のステップとして当初の計画通り、これらの成果をまとめた上で、ハーバード大学、カーネギーメロン大学、カリフォルニア工科大学など海外の本研究と関連する研究機関を訪問し、先行する脳神経科学の知見やこれを応用したBMI開発との比較、研究会を計画している。これにより、本研究の目的である、芸術が関わり現代の生活空間に心的空間の拡がりと知的な思考の連鎖を促す環境についての感性論、「新たな環境概念に基づく共生デザイン感性論」の提案に結び付ける予定である。また、本年度課題として浮かびあがった脳内深部での連携を辿れるのような新たな計測機器についても、これらの研究機関との連携で何らかの進展が期待できると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
推進計画及び申請時の計画に基づき、初年度から続き、次年度5月までに、二つの二軸回転盤の作成に集中する。初年度当初の見込みからは不足していた部品製作費残金を繰り越し、次年度の予算と合わせてこれに充て完成させる。その後の、回転盤を用いた実験とその成果の公開に関しては、実験装置の組み立てと解体、実験装置の改良、実験データ取得と解析のための補助員費用など、直接実験装置である二軸回転装置に関わる費用、シンポジウムに関わる諸経費が見込まれる。また、海外の本研究と関連する研究機関訪問と研究会に関しては、旅費、知見の供与に関する謝礼などが見込まれる。これらの活動の結果を受けて、最終年度の本研究手法を用いた、「新たな環境概念に基づく共生デザイン感性論」の公開を具体化する。
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