2012 Fiscal Year Research-status Report
出生前診断に由来する人工妊娠中絶に対する一般市民意識の調査
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23613010
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
中井 祐一郎 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (50271193)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下屋 浩一郎 川崎医科大学, 医学部, 教授 (40291950)
田村 公江 龍谷大学, 社会学部, 教授 (60309119)
浅田 淳一 筑紫女学園大学, 人間科学部, 教授 (50202586)
鈴井 江三子 兵庫医療大学, 看護学部, 教授 (20289218)
中塚 幹也 岡山大学, 保健学研究科, 教授 (40273990)
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Keywords | 生命倫理学 / 出生前診断 / 人工妊娠中絶 / 市民意識 / アンケート調査 |
Research Abstract |
本年度は、引き続きアンケート用紙作成を行った。この過程で、母体血中の絨毛由来cell free DNAによる胎児染色体異常スクリーニング検査が広く報道されたことから、一般市民の知識として広がったと推測されたために、設問内容を再度検討し、適応を拡張した染色体異常スクリーニングによる網羅的な染色体異常胎児の抽出とその出生阻止に付いての設問を追加するかを中心に、メールを通じて議論を深めた。共同研究者自身のこの問題に対する姿勢を共有することは困難であったが、臨床研究として開始された一部施設の実施方法では、個々の検査の実施の可否を医療者(含む、遺伝カウンセラー)とそのクライアントである妊婦の自由意志に委ねるに過ぎず、社会的な視点から倫理的な問題を抱えたままであるという点で合意に達し、上記問題に関する設問を追加する事とした。 本年3月に最終的な研究会議を開催し、アンケート設問の全文に対して、倫理学的な視点や女性学的な視点から用語の修正を行い、かつ表現方法に問題のないことを確認した。更に、非医療者である一般市民の3名の協力を得て、アンケートの設問の理解可能性に付き検討を行ったところ、特段の問題はないという結果が得られたことから、これを川崎医科大学倫理委員会に提出する最終案と決定した。 上記結果に至る議論の過程で、本年2月に岡山大学で開催された岡山生命倫理研究会で、研究代表者である中井が上記検査の臨床研究としての実施の現状について講演し、参加者である複数の倫理学・哲学の研究者より、本研究で市民意志の視点を明らかにする事に付いて意義の評価を得た。 更に、アンケート用紙配布協力者の選定を行い、その同意を得るとともに、その協力によって4,200枚程度の配布可能性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初期の計画では、本年度末でアンケート調査の回収に至っている予定であったが、アンケート内容の確定に留まった。 これは、前記母体血による胎児染色体異常スクリーニング検査の実施に付いて広く市民に周知されるような状況が発生したことに加え、その報道が臨床研究としての実施機関において倫理上の検討が充分に行われていない状況での一新聞社主導のスクープとなったことから、市民の回答を得る際に基礎となる共有されると考えられる知識に混乱が生じたと解さざるを得なかったことから、アンケート調査内容の再検討を要したことが最大の原因である。 また、上記状況でのアンケート調査の強行は必ずしも適切な知識共有下における市民意志の推定とはなりえないと考えられ、報道の一定の終息を得た後に実施せざるを得ないと判断されたことも、アンケート調査実施を遅らせることをやむなしとせざるを得なかった。 その一方で、広く報道された事により、一般市民においても染色体異常胎児の選別による妊娠中絶が可能であるという事実は広く知らしめられたものと解され、初期の計画よりも深い意識に基づく市民意志の調査が可能になったものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
前記のように、既にアンケート設問内容は確定していること、更には配布協力者の選定やその同意も得ていることから、川崎医科大学倫理委員会による承認を得た時点で、アンケート用紙の印刷と配布を行う事が可能となっている。配布期間は本年8月と9月に行うことは充分に可能であり、集計は本年末には終了できる見込みである。 アンケートの解析結果は直近の周産期医療系と生命倫理系学会で公表するとともに、各研究分担者それぞれの専門領域からの視点での考察を行う。 本研究の一期的目的である出生前診断の結果による選択的人工妊娠中絶に対する市民意志の現状を明らかにする事については、アンケートの数的解析とその公表で所期したところを果たした事になる。しかし、アンケート結果に示された市民意志を絶対視することなく、各研究分担者の専門的視点からの思索を深め、市民意志が内包するその欲望の在り方などの問題点の指摘を行う。 また、この問題を多くの生命倫理学徒の思索に委ねることを企図して、数的解析結果を医学者のみならず、生命倫理学者の下へ結果を文書として報告する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前記のように、母体血を用いた出生前検査に付いての報道が一般市民意識に与えた大きな影響を踏まえたアンケート作成を行う事を要した事やアンケート調査の実施にこれらの報道によって生じた市民意識の撹乱の終息を待つ必要がある事から、アンケート用紙の印刷を遅延せざるを得ず、次年度使用額1,898,787円の発生をみた。 これは、25年度請求額と併せ、市民意識アンケート用紙ならびに付属する封筒などの印刷費用およびその回収のための郵送料、さらにアンケート結果を市民意志として絶対視するのではなく、そこに現れる問題点や矛盾の検討は、様々な立場からの思索の題材として提供する事にこそ意義があるとの視点から、数的解析結果の公表が不可欠であり報告書の作成とその配布のための費用に加え、アンケート結果の考察について、研究分担者である浅田の専門とする慾望論の視点のみでは倫理学的な限界が予想されることから、次年度より近代哲学系生命倫理学者である林玉川大学助教と新名鹿児島大学准教授に研究分担者として参加して頂くことから、それぞれの視点からの研究のために、文献資料費として使用する。
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Research Products
(1 results)