2012 Fiscal Year Research-status Report
深海生物オオグソクムシにおける、心的イメージを利用した巣穴パズル解決の試み
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23650134
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
森山 徹 信州大学, 繊維学部, 助教 (20325898)
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Keywords | 知能 |
Research Abstract |
前年度の準備実験の結果をふまえ、本研究の主目的である「穴を掘れない環境に投じられた個体が、巣穴の心的イメージを利用して、用意された二つのプラスティック容器を適切に組み合わせ、新奇な巣穴を作るという知的行動を発現できるかどうか」を確認する本実験に取り組んだ。 実験では、多くの個体はプラスティック容器へ入ろうとしたものの、二つを組み合わせた個体はいなかった。ただし、容器が揺れて中へ入れなかったとき、容器をゆっくりとずらすなど、「容器使用の動機付けの維持」と「行動の自律的制御」という「ワザ」を伴う容器使用が実現された。この「ワザ」は、容器への侵入が機械的な刺激反応によって生じるのではなく、容器を巣穴と捉える心的イメージが伴われることを示唆する。そこで、このような「ワザ」による新奇な巣穴作り行動が発現される様子をより明確に捉えるため、実験条件を次のように改良した。 改良された実験では、水槽の底にゴルフボール約500個を敷き詰め、「穴を掘れないが、ワザを用いれば、すきまを作り巣のように使える」という状況を設定した。すると、体長の1/3ほどもある大きさのボールを頭部でゆっくりと左右へ移動させ、これを継続することで、体長と同程度から10倍程度の長さの通路を形成する個体が現れた。特に、プラスティック容器を配置した条件では、長い通路を作る個体が有意に多かった。この通路形成は、巣穴としての通路使用の動機づけを維持し、ボール移動を自律的に制御するワザを伴って実現されたと考えられる。 この結果を、本研究の実験補助を担当した学生とともに日本生態心理学会、日本動物行動学会にて公表し、次年度の計画を推進するための有意義な意見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験の内容をプラスティック容器の組み合わせからゴルフボールの移動へ変更したため(ただし、研究の本質は変わらない)、結果の取得が遅れた。また、実験の遅れに伴い、画像解析ソフトによる行動解析も遅れた。ただし、当初の目的通り、知的行動の発現は観察され、学会発表で成果を報告でき、海外学術雑誌への投稿の目処も立った。また、解析ソフトウェアの開発をより安価に完了し、現在解析を実施中である。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年4~8月:実験の遅れにより本年度未実施だった、行動解析ソフトの作成と行動の解析。通路形成できる個体、できない個体の行動をソフトで詳細に解析し、その違いを定量的に比較する。 9~12月:英文論文の作成、校正依頼、投稿(Animal BehaviorまたはJ. Comparative Psychology誌)。日本甲殻類学会第51回大会または日本動物行動学会第32回大会にて成果発表。 H26年1~3月:研究室HP(http://tohru-moriyama.com/)へ研究成果の掲載。成果報告書の作成。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
画像解析ソフト(ArkOrk社製):100千円。実験における個体の行動を定量的に解析するために、撮影動画における個体の各部位(頭部、脚部、重心等)を、当ソフトによって座標化する。 国内成果発表と研究打合せ:150千円。日本甲殻類学会第51回大会または日本動物行動学会第32回大会において成果発表する。また、首都大学東京黒川研究室と打合せを行い、研究の改善と最新の研究情報を得る。いずれも学生も同行させる。 英文校閲費:50千円。 実験補助:200千円。本実験、動画の解析等独力では多大な時間を要する作業において学生に補助を依頼。 「次年度使用額」3,360円:予定していたよりも、個体のエサの消費量が少なかったため生じた。この額は、次年度における飼育水槽の濾過剤として使用する。
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Research Products
(4 results)