2012 Fiscal Year Annual Research Report
気候変化は樹木の季節成長にどう影響するか-年輪酸素同位体比の精密測定による解析
Project/Area Number |
23651012
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中塚 武 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
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Keywords | 酸素同位体比 / セルロース / 樹木年輪 / 樹木成長 / 年層内変化 / 気候変動 |
Research Abstract |
本研究は、木材に含まれるセルロースの酸素同位体比の変動が、その形成時(正確には、セルロースの元となる糖類が葉内で光合成により形成される時)における気象因子(相対湿度と降水酸素同位体比)の変動によって正確に規定されているというメカニズムに基づいて、セルロース酸素同位体比の放射方向への精密空間分布測定と、その気象観測データ(相対湿度等)との対比から、木部の中に形成時期に関する時計を刻み、これまでの方法では見ることのできなかった、樹木成長の季節内変化を復元して、その気候変動との対応関係等を解析することを目指したものである。本研究の最終年度にあたる平成24年度は、熱帯から温帯に至る広域のさまざまな樹木から、セルロース酸素同位体比の年層内変化(季節変化)を分析するために年輪円盤・コア試料を多数収集して、その大量分析を行うと共に、気象データとの対比を進めて、その季節内成長変化の見積などを試みた。具体的には以下の地域の試料を分析した。沖縄県(沖縄本島)の琉球マツ、東京都(小笠原)のマツ、ラオス中部のユーカリ、中国福建省のヒノキ・スギ等である。乾季と雨季がハッキリしているこれらの地域では、セルロース酸素同位体比は、極めて規則的な周年変化を示し、気象データとの対比からは、その経年・季節変動パターンが、正確に気象記録と対比できることが明らかとなった。乾季・雨季に対応した酸素同位体比の周年変化パターンは、それが年輪を持たない熱帯・亜熱帯の樹木における「新しい年輪」になることを意味し、熱帯(亜熱帯)の森林生態学に、革命的な新しい手法をもたらすことになる。しかし分析に用いた試料の数は未だ少なく、季節内成長パターンの変化には、気候変動との対応以前に、局所的な個体生態学的因子が大きく影響しており、今後より多くの分析を続けて、データ数を蓄積していくことが何よりも重要であることが分かった。
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