2012 Fiscal Year Research-status Report
銀ナノ粒子の魚類生態毒性に関する網羅的な詳細リスク評価
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23651028
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
柏田 祥策 東洋大学, 生命科学部, 教授 (20370265)
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Keywords | 生態系影響評価 / ナノマテリアル |
Research Abstract |
化学物質の取込みに与える浸透圧影響を評価するために,ERM(メダカ胚飼育液;1.14 g/Lの塩を含む)濃度を1-30×ERMとした改変ERMにSNCを10 mg/Lとなるように添加してメダカ受精卵を加えて曝露培養した。メダカ受精卵内の浸透圧は,改変ERMの塩濃度に依存して増加した。受精胚における銀の取込みは1×から20×ERMの範囲では,3.0から3.7 ng/mg-eggの間でほぼ一定であったが,30×ERMにおいて8.3 ng/mg-eggに増加した(ANOVA, p<0.01)。また,試験液中に含まれる銀イオンの量も改変ERMの塩濃度に依存して増加した。卵膜の電気抵抗は塩濃度の増加とともに減少した。毒性影響については,孵化率,眼球直径および心拍数は,それぞれ20×ERM,および30×ERMにおいて減少し(p<0.01),体サイズは15×,20×および30×ERMにおいて短くなっていた(p<0.01)。孵化日数は1×ERMにおいて平均6.8日であったが,20×ERMおよび30×ERMではともに9.3日以上であり孵化遅延が確認された。化学物質の物理的な卵膜透過性を検証するために,メダカ受精卵の卵膜表面を顕微鏡観察したところ,カレイ卵膜表面には小孔が存在するのに対して,メダカ卵膜表面には同様な小孔は全く観察されなかった。またメダカ受精卵を改変ERMで培養した場合でも卵膜の構造および膜の厚さに差異は見られなかった。動的散乱光顕微鏡観察の結果,卵周縁部ではSNCは観察されるものの,卵内部ではSNCは観察されなかった。本研究の結果,SNCは異なる浸透圧によるメダカ受精卵の卵膜の小孔サイズの変化によって卵膜を透過するのではなく,SNCが高塩濃度においてより多くの銀イオンを解離することで銀イオンが卵膜を透過して受精卵の胚発達毒性を引き起こすことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は,①銀ナノ粒子または銀イオン(銀ナノ粒子固相化ウェルプレートを使用)のメダカ受精胚への曝露影響について,②卵膜透過メカニズム,③遺伝子発現レベル,④個体(臓器形成)レベルおよび⑤個体群レベルにおいて詳細な検討を行うこととしている。 このうち①および②については,研究が終了している。③については実験そのものは終了して現在解析を行っている。④については現在検討が順調に進んでいる。⑤についてはほぼ検討が終了しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
従来,化学物質による水生生物影響は,致死を中心とした評価であったが,最近は個体群増殖速度解析および多様性評価へとより生態学的評価にシフトしつつある。しかし毒性評価と生態学評価の間には,大きな隔たりがあり,毒性評価を生態学評価に直結できる評価手法はない。問題は生き残って生理生体に異常をきたしている個体(群)を正しく評価する毒性学的知見が不足しているからである。 本研究を通じて,そのギャップが明らかになることが期待されている。例えば,遺伝子発現から形態異常のシグナルを見出すこと,それが個体群への影響を予測できるかを考えること。どのような形態異常あるいは生理異常が,より顕著な影響となりうるのか?これらについて考察してより正確な生態リスク評価研究を志向する必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度研究費については,銀ナノ粒子または銀イオン(銀ナノ粒子固相化ウェルプレートを使用)のメダカ受精胚への曝露影響について,遺伝子発現レベル,個体(臓器形成)レベルおよび個体群レベルにおいて詳細な検討を行うために必要な試薬、実験器具を物品費として計上している。また、研究期間内で得られた成果を発表するため、旅費を計上している。
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Research Products
(3 results)