2011 Fiscal Year Research-status Report
日本の沿岸漁業制度の現状と将来:IADフレームワークによる制度分析
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23651033
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
阿部 高樹 福島大学, 経済経営学類, 教授 (40231956)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 沿岸漁業制度 / IADフレームワーク |
Research Abstract |
本研究は、日本の沿岸漁業制度の現状と将来的あり方を、E.オストロム氏らが展開するIADフレームワーク(Institutional Analysis and Development Framework)を適用して検討することにある。 平成23年度は、基礎的・準備的研究を主であった。まず、代表的な沿岸漁業地域として、北海道二海郡八雲町の訪問調査を行なった。申請段階では、東北地方の沿岸漁業地域を広く調査する計画であったが、震災被害の甚大さを踏まえ、北海道の調査に切り替えたものであるが、八雲町も養殖業に大きな被害が出ており、復興の実態把握という面でも重要な情報が得られた。なお、震災復興をめぐって沿岸漁業の長期的なあり方に関する議論も活発になっており、これに関する幾つかのシンポジウムに参加して、多様な論点の把握に努めた。 日本の沿岸漁業の制度的側面の把握と検討作業も行ない、特に、漁業権免許や知事許可制度のもつ「漁業調整」機能に注目した。漁業秩序形成における政府関与の意義について分析をすすめ、その成果については、論文「日本の沿岸漁業における漁業調整:コマネジメントの視点から」(共著)の一部として発表している。 IADフレームワークの全体像を掴むべく研究を継続中であるが、その中で、Design Principles(設計原理)の観点からの分析枠組みに注目し、日本の沿岸漁業への適用を開始している。E.オストロム氏らが世界の共有資源管理事例から抽出した、制度面における8つのDesign Principleについて、日本の沿岸漁業制度を評価する試みである。これについては、研究協力者のDr. Ashutosh Sarkerと数度の研究打合せを行ない、さらに、他研究者との交流を通して、沿岸漁業システムの特徴に関する情報収集にあたったところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IADフレームワークについては、Design Principles(設計原理)の側面からの研究の進展があった。ただし、IADフレームワークの方法論的側面の広がりの一部に留まっている。重要な研究資料の収集は順調に進んでいるので、漁業問題への適用に関するサーベイ研究をさらに推し進める必要がある。 IADフレームワークを日本の沿岸漁業に適用する際には、(1)日本の沿岸漁業システム全体を分析対象とする方向性;(2)特徴的な地域を抽出して分析する方向性;の2つの補完的研究が意味を持つ。(1)についてはある程度準備が整ったが、(2)については、より多くの実地調査が必要であった。 本研究は、日本の沿岸漁業の現状評価の上に将来的あり方を検討するものであるが、東日本大震災からの復興論議と重なり合う部分が多い。特に、宮城県における養殖業の漁業権の特区構想は、沿岸漁業のあり方に一石を投じることとなった。この観点から、平成23年度は、漁業権制度に関する研究に注力したという側面もあり、論文による発表等、この部分では、計画以上の成果を上げることができた。 以上より、全体として、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究費で一定の次年度利用分が生じた理由として、2つの点があげられる。 まず第一に、平成23年度は、東日本大震災の影響で、沿岸漁業の伝統的な秩序形成要因の評価という観点からは、東北地方の沿岸漁業地域の調査を実施できなかった(本研究とは別のプロジェクトで、沿岸漁業の復興状況の把握に努めた)。今年に入り、宮城・岩手県では、漁業の復旧も進んできており、また、東北地方以外にも調査対象を広げるなどして、訪問調査を充実させることが必要である。 第二に、IADフレームワークの専門家である研究協力者(Dr. Ashutosh Sarker)が海外大学に所属を変更し(Monash University Sunway Campus, MALAYSIA)、打合せが予定通りできなかった面もあった。氏の一時的な来日時の機会を捉えて数回研究打合せを行ない、共同研究もある程度進展させることができたが、今後も、連絡を密にして、IADフレームワークの研究を推進させていきたい(日程調整ができれば訪問も考えたい)。 今後の研究の方向性としては、(1)IADフレームワークのサーベイ研究;を優先させ、問題意識を明確にしたうえで、(2)日本の伝統的沿岸漁業システムの実態把握や特徴的事例の発掘のための実地調査を継続する。また、(3)沿岸漁業に関する現状評価や政策提言の分析を進め、また、東日本大震災後の復興論議の動向も把握していく。(4)最終的に、沿岸漁業の将来像を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度研究予算約590千円については、以下の(1)~(6)のような執行計画を立てている。(1)実地調査に関わる旅費(4か所程度)として150千円を予定する。東北地方から2か所(宮城~青森)、その他の漁業地域で1か所(新潟あるいは関西)を計画している。また、沿岸漁業の再構築に関する研究会・学会への参加(4件程度)として、100千円を予定する。漁業経済関連の学会、大震災後の漁業復興に関するシンポジウムへの参加を計画している。(2)物品費関連として、研究図書資料(漁業経済関連、IADフレームワーク)の追加購入費等で50千円、その他、消耗品(インクカートリッジ等)で90千円を予定している。(3)謝金関連として、研究資料の整理に関わる謝金として100千円を予定する。「テープ起こし」や、資料の電子ファイル化・データベース化などに関わる作業補助者を必要としている。(4)研究協力者との研究打合せのための研究費執行を計画している。これについては、研究協力者の日本滞在時を予定している(50千円)。(5)予備費として100千円を計上しておく。なお、研究協力者との打ち合わせに関して、調整によってこちらが訪問する場合は、これをその際の原資とする。
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Research Products
(1 results)