2011 Fiscal Year Research-status Report
感温性高分子ゲル吸着剤を用いた液中ナノ粒子の高度分離・回収・再資源化
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23651065
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
森貞 真太郎 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60401569)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 感温性高分子 / 高分子ゲル / ナノ粒子 / ナノリスク対策 / 吸着 |
Research Abstract |
近年,生体への悪影響が問題視され始めているナノ粒子の環境への流出を防ぐため,その分離除去方法の確立が急務である.そこで本研究では,アニオン性高分子であるsodium polyacrylate(SPA)を保護剤として合成した白金(Pt)ナノ粒子をモデルナノ粒子とし,感温性を有するN-isopropylacrylamide(NIPA)と正電荷を有するvinylbenzyl trimethylammonium chloride(VBTA)を共重合した感温性高分子ゲル(NIPA-VBTAゲル)を吸着剤として用いることで,温度スイング操作によるナノ粒子の吸着分離を,ナノ粒子が再利用できる形で実現するプロセスの構築を目的としている. まず,SPAを用いてPtナノ粒子を合成し,透過型顕微鏡によって得られたナノ粒子の観察を行ったところ,平均粒径10.5 nmの単分散なPtナノ粒子が得られたことが分かった.また,そのゼータ電位は-38.5 mVであった.他方,比較実験用のNIPAゲルとともにNIPA-VBTAゲルの合成を行い,そのゼータ電位を測定したところ,前者はほぼ中性であるのに対し,後者は26.3 mVと正に帯電したゲルであることが確認された.これより,正に帯電したNIPA-VBTAゲルによって負に帯電したPtナノ粒子を静電的に吸着できることが期待できる.また,これらのゲルの膨潤度をCCDカメラ付き顕微鏡と解析ソフト内蔵のPCからなる画像処理システムを用いて測定したところ,NIPAゲルは既報の相転移温度(306 K付近)以上で収縮すること,およびNIPA-VBTAゲルも正電荷を有するVBTAを含んでいるにもかかわらず,相転移以上において収縮することを確認した.これらの結果から,NIPA-VBTAゲルによりPtナノ粒子の温度スイング吸着を実現できることが期待できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
単分散かつ負に帯電したPtナノ粒子,および正に帯電しつつも感温性を示す高分子ゲルの合成手順は確立できたため,次の段階となるこれらを用いた温度スイング吸着実験に取りかかる準備はできたと言える.しかし当初予定していたような,モノマー比や架橋剤濃度の異なる,すなわち特性の異なる感温性高分子ゲルを数種類合成するという段階までは至らなかったため,上記の評価となった.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度において作製したPtナノ粒子分散液と感温性高分子ゲルを用い,バッチ式の吸着実験を行うことで吸着特性の温度依存性を把握する.ただし,Ptナノ粒子の吸着量は次のようにして求める.任意の時間にサンプリングした分散液に王水を加えてPtナノ粒子を溶解させ,ICP発光分析装置を用いてPt濃度を測定する.同様にして,初期Pt濃度も測定し,物質収支からPtナノ粒子の吸着量を算出する.またこれと並行して,前年度において確立した手法により特性の異なる感温性高分子ゲルを複数合成し,その特性を評価した上で,同様にPtナノ粒子の吸着実験に用いる.このようにして得られた吸着実験結果をゲルの性状と照らし合わせ,感温性高分子ゲル合成方法へフィードバックすることで,吸着剤としての最適化を行う. 次に,このようにして最適化した感温性高分子ゲルを用いたバッチ式の温度スイング吸着実験を行う.ある初期温度において吸着量が平衡に達した後に,溶液の温度を変化させることで,一旦吸着されたPtナノ粒子が脱着できるかを検討する.ただし,それらの温度は先に検討した吸着特性の温度依存性を基に設定する.このバッチ式温度スイング吸着実験により,Ptナノ粒子の脱着量が最も大きくなる感温性高分子ゲル吸着剤と温度設定の組合せを検討する.また,脱着操作後のPtナノ粒子分散液のDLS測定を行うことで,脱着されたPtナノ粒子の分散状態を確認する. 最後に,感温性高分子ゲル吸着剤を充填したカラムを用いた流通式の吸着実験を行い,感温性高分子ゲル吸着剤の再生能力とPtナノ粒子の分離・濃縮能力を検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は,吸着実験に適したPtナノ粒子および感温性高分子ゲルの合成手法とその評価手法を確立するための研究に時間を費やしたこと,および申請者の所属変更にともない,その前後において研究の遂行が困難な時期があったことから,Ptナノ粒子および感温性高分子ゲルの大量合成とそれらを用いた吸着実験まで至らなかったため,使用する試薬が予定より少なく,吸着実験に必要となる設備を購入することもなかった.その結果,次年度に使用する予定の研究費が生じた. しかしながら,次年度はこれらを用いた吸着実験が主な研究内容となるため,これらの原料となる試薬を多く使用する予定である.また,様々な温度における吸着実験を並行して進める必要があることから,現有の恒温槽に加えて新たに購入する必要があると考えている.
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