2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23651119
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 徹哉 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20162448)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ハイパーサーミア / 自然共鳴損失 / 磁性微粒子 / 微粒子クラスター / 軟磁気特性 |
Research Abstract |
本研究では、癌の温熱療法の1つである磁性微粒子ハイパーサーミアにおいて、粒径に依存せずに発熱が生じることが期待される自然共鳴損失の利用を提案する。また、この手法を実現するために、粒子間相互作用の強い磁性微粒子集合体に見られる軟磁気特性を利用して、共鳴周波数をラジオ波まで低下させることを目指す。 まず、微粒子間磁気相互作用の強さの異なる微粒子集合体の磁気特性を調べた。Fe(CO)5を前駆体として用いてオレイン酸で修飾された粒径9 nmのFe3O4微粒子を作成し、微粒子集合体を作成した。また、表面を厚さ17 nmのSiO2でコートしたFe3O4微粒子からなる集合体を作成し、コートのない微粒子集合体と比較して粒子間距離を12nmから44nmまで増大させて、粒子間相互作用を減少させた。SiO2をコートした微粒子の集合体の保磁力が680 Oeであるのに対し、コートのない試料の保磁力は350 Oeであり、ほぼ1/2となった。これよりFe3O4微粒子において、微粒子間磁気相互作用が軟磁気特性を引き起こすことが確認された。また、Fe3O4粒子をトルエン中に分散させた試料を用いて、磁場630 Oe、周波数120 kHzの下で緩和損失による発熱特性を調べ、0.45℃/sの温度上昇を観測した 3層法とよばれる過飽和を制御する方法を用いて、ハイパーサーミアへの利用に適した数100 nm程度の強磁性微粒子集合体の作成を目指し、粒径~90 nmのFe3O4微粒子クラスターを作成することに成功した。今後、この磁気、発熱特性を評価する予定である。また、周波数可変の発熱特性測定を行うために、高周波フェライトを用いた交流磁場印加装置を現在開発中である。これにより、共鳴損失が生じる高周波数帯における測定が可能になる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目の実験計画では、強磁性微粒子クラスターの作成とその磁気特性の評価、および発熱特性測定装置の開発までを終了する予定であった。この両者ともに現在の段階では完了していない。 まず、強磁性微粒子クラスターの作成に関してであるが、作成自体は成功したが、現在のところクラスター作成の再現性が十分ではなく作成量も少ないことから、磁気特性評価を行うことが困難な状況にある。今後磁気測定に利用可能な量のクラスターを再現性良く作成する必要があり、現在作成条件の見直しなどを進めている段階にある。一方、発熱特性測定装置に関しては、発生する交流磁場の強度を当初の予定よりも格段に高めることができる装置構成についての論文が最近発表され、当初計画した装置と比較してこの装置を用いた方が研究の遂行に適当であると判断したため、設計を見直した。このため開発が遅れている。現在装置開発のための部品調達などの準備はほぼ終わり、装置の組み立てを行う段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の計画で未達成の部分について研究を進める。まず、Fe3O4微粒子クラスターの作成を進める。さらに、磁性微粒子としてより磁化の大きなCo系の微粒子についてもクラスター作成を進める。次に、発熱特性測定装置の組み立てを完了させ、その装置特性を評価する。 1年目の計画が達成された段階で、2年目に計画されている研究に進む。まず、作成した磁性微粒子クラスターを用いて直流および交流磁化率の測定を行い、ヒステリシスの温度依存性および交流磁化率の周波数依存性から試料が超強磁性に期待される軟磁気特性を有することを確認する。低温での保磁力から有効磁気異方性定数を評価し、10^2~10^3 J/m3程度の値が得られることを確認する。次に、試料の高周波領域における交流磁化率の周波数依存性を測定する。また、これにより10 MHz以下の共鳴周波数が実現することを確認する。また、集合体サイズが異なる試料について測定を行い、共鳴周波数がサイズに依存しないことを確認する。構築した測定系を用いて、微粒子クラスターの発熱特性を測定し、発熱量を見積もる。この測定を集合体サイズが異なる複数の試料に対して行い、発熱量とサイズの関係を求めて、発熱量が粒径に依存しないという当初の予測の正当性を確認する。これらの結果が得られたのち、測定した発熱量データを従来の緩和損失によるデータと比較することで、提案する手法の有効性を評価し、多面的に自然共鳴損失を用いたハイパーサーミアの実現性を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、磁性微粒子クラスター作成のための試薬類に100千円を使用する。また、粒子評価のための電子顕微鏡の使用料として100千円を使用する。発熱特性測定装置の開発に必要な部品はほぼ購入済みであるが、今後回路部品の購入が必要であり、50千円を用いる。磁性微粒子クラスターの磁気測定にはSQUID磁力計を用いるが、その測定に500千円を用いる。 高周波領域における交流磁化率の周波数依存性の測定は東北大において行う予定であることから、旅費を150千円、実験補助の謝金として150千円を使用する。さらに70千円余を学会発表のための旅費として使用する予定である。 なお、本年度は25千円余が残が生じたが、これは当初より旅費の使用が少なかったためである。次年度はこの予算を学会発表等の旅費として使用する予定である。
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