2011 Fiscal Year Research-status Report
細胞内還元化を伴う窒素飢餓と疾患のレドックス可視化技術を用いた情報伝達機構解明
Project/Area Number |
23651235
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阪井 康能 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60202082)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | レドックス / 還元状態 / ペルオキシソーム |
Research Abstract |
細胞内レドックス状態は、その細胞の置かれている環境条件や細胞自身の機能性によって左右されると考えられている。細胞内がいわゆる酸化ストレスにより正常よりも酸化状態になる事象は多く見出され研究も進んでいるが、逆に細胞内がより還元状態へとシフトする事象については多くは報告されておらず、その分子メカニズムの大半が不明のままである。私たちは、自身で開発したレドックス状態を検知する蛍光タンパク質プローブ、レドックスフロールを用い、複数種の真核細胞において、ペルオキシソーム形成不全が細胞内の還元化を引き起こすことを見出し、すでに報告している。また、酵母細胞における栄養条件に応じたレドックス状態の変化も見出していることから、これらの発見に関し特に還元化の分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。本研究によりこれまでに、特にペルオキシソーム形成不全による細胞内還元化に関して重要な知見が得られている。すなわち、ペルオキシソーム形成不全が引き起こす様々な代謝異常のうちで、極長鎖脂肪酸のベータ酸化活性の阻害を模した条件(本脂肪酸の継続投与)で正常細胞を培養すると、ペルオキシソーム形成不全細胞と同様の細胞内還元化が引き起こされることを見出した。このことはペルオキシソーム形成不全により引き起こされる細胞内レドックス状態の還元化が脂質代謝異常に由来するものであることを強く示唆しており、現在、その詳細な分子メカニズムについて解析を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
極長鎖脂肪酸のベータ酸化異常が細胞内還元化を引き起こす要因となりうるという本研究における発見は、細胞内レドックス状態の(異常な)還元化のメカニズムを探るという本研究の当初目標の達成にとって、非常に重要なものである。一般にペルオキシソームは、ベータ酸化のほかエーテルリン脂質の合成やアミノ酸・プリン代謝なども担う多様な機能を持つオルガネラであり、その形成不全がもたらす影響は多岐にわたると考えられる。この多様な影響の中で細胞内還元化につながる要素を見出すことが、さらなる詳細な還元化分子機構解明のための重要なメルクマールである。この意味において上記発見は重要であり、本研究の順当な進捗を物語っている。本研究の特色のひとつは細胞内還元化を検知する際に蛍光タンパク質プローブ、レドックスフロールを用いることにある。このプローブ利用により細胞を壊すことなくリアルタイムでその内部のレドックス状態を調べられる点は利点であるが、プローブ自身の還元化の分子機構について十分な知見がないと研究の発展にはつながらない。本研究においてはプローブの還元化の分子メカニズムのさらなる解明にも取り組んでおり、チオレドキシンが本プローブの還元活性を持つことを見出している。このようなプローブの還元化特性解明という基礎的な側面においても本研究は着実に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
ペルオキシソーム形成不全がもたらす細胞内レドックス状態の還元化メカニズムについては、本事象に対する極長鎖脂肪酸のベータ酸化不全の寄与が見出されたことから、ペルオキシソームを形成できない遺伝子変異株と正常株間の代謝物量比較に加え、正常細胞における本脂肪酸の継続投与の有無による比較を行い、ペルオキシソーム不全および極長鎖脂肪酸投与の両条件下において共通して増加・減少する代謝物の同定に取り組む。酵母細胞の栄養条件に応じたレドックス状態変化の解析については、予備的実験の結果から、真核生物に保存されており栄養センサー機能を持つタンパク質リン酸化酵素Tor1のレドックス状態への関与が明らかになりつつある。Tor1は最近の研究から細胞の寿命制御にも重要な働きを持つことが分かってきており、寿命と密接な関係を持つ細胞内レドックス状態とTor1の関係性を分子レベルで示すことで、細胞内レドックス状態の維持・制御が持つ生理機能をより明らかにできるものと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、哺乳類細胞株を培養するための培地、消耗品にかかる費用が当初想定よりも少なく、また、質量分析解析装置のメンテナンスに必要な経費も大幅に抑えることができたため、当該次年度使用額を計上する次第となった。本年度に引き続き、細胞内レドックス状態を調査する重要な手段として液体クロマトグラフ質量分析を行うため、本手法に要する消耗品や機器メンテナンスに本予算を充てる。ペルオキシソーム形成不全細胞の解析は哺乳類培養細胞を中心に行っており、この培養に要する費用も本課題予算から支出する。また、蛍光プローブによる細胞内レドックス状態調査には蛍光顕微鏡装置を使用しており、これにかかる消耗品・機器メンテナンスも必要に応じ本予算をもって購入・実行する。酵母細胞を用いた実験については、その代謝物測定のため上記液体クロマトグラフ質量分析に加え、アミノ酸分析装置を使用するため、本使用にかかる費用を本課題予算から充てる予定である。その他、多数の遺伝子操作・組み換えを行うため、それに必要な試薬の購入に本予算を使用する。
|