2011 Fiscal Year Research-status Report
映画が辿るアルツハイマー型認知症の40年間 1973~2012年
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23652030
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
今泉 容子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40151667)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | アルツハイマー / 認知症 / 患者 / 介護者 / 福祉施設 / 表象史 / 日本映画 / ジェンダー |
Research Abstract |
日本のアルツハイマー映画に着眼して、アルツハイマー映像表象史を構築することが、本研究の目的である。初年度の平成23年度には日本のアルツハイマー映画を収集することから、研究が開始された。 収集が終わると、映画の1本ずつに「ショット分析」をほどこしながら、「アルツハイマー患者と介護者」の関係の変化に関するデータを検出した。初期の映画では、アルツハイマー患者はいつも高齢の男で、介護者はいつも女(義理の娘)という関係だったことが、明らかにできた。さらに、1980年代の終わりから患者と介護者の関係が変化しはじめ、患者は「女」になり、介護者は「男」(老いた夫)に変化したことも、明らかにできた。 患者と介護者の関係が変化しただけでなく、彼らを取り巻く社会環境も変化したこともわかってきた。そこで、社会環境の一要素としての「福祉施設」に注目して、その機能の変化を明らかにした。初期の映画から今日にいたるにつれて、福祉施設のもつ意味は、個人の束縛というネガティヴな意味から、個人の解放というポジティヴな意味へと大きく変化を遂げたことを明らかにした。初期には、患者をベッドに縛りつけ、鬼のような仕打ちをする恐怖の空間が出現したが、今日では患者の個性を尊重し、潜在能力を引き出そうとするデイケア施設が登場するのである。 このように、ジェンダー論を展開しながら、また社会環境(福祉施設)に注目しながら、40年におよぶ日本のアルツハイマー映像表象史を構築したことが、平成23年度の成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画どおりの研究が実施されており、論文も順調に執筆されつつあるため。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、外国映画に目を向け、1年目に日本映画で実践した「アルツハイマー」データの検出を、今度は外国映画に実践する。そして、日本と外国のアルツハイマー表象「比較論」を展開することが、主な研究内容となる。 考察の対象となる外国映画として、アルツハイマー映画制作がさかんな6カ国の映画が選んである。それらを グループ(1) のアメリカ、イギリス、カナダの映画と、グループ(2) の中国、韓国、インドの映画に分類するが、それはアルツハイマー表象に関してグループ間に有意な差が見られる、という仮説を立てているからである。 グループ(2) の映画は、日本で未公開のものが多いが、インド映画の『私はガンディーを殺していない』(日本語字幕なし)を入手したように、輸入業者を通じて購入するルートが確保してある。 外国映画の場合、アルツハイマー映画の歴史と呼びうるものは、2000年代の10年間そこそこである。したがって、日本と外国のアルツハイマー表象の比較分析は、40年間(日本)と10年間(外国)の比較になるが、歴史(時間)の長短も比較要素のひとつである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2年目の研究経費として、外国映画ソフトを購入したり、映画関連文献を購入したりするための物品費として50万円、資料収集および成果発表のための旅費として60万円が見込まれよう。 映画関連文献として、日本のものは『映画芸術』『キネマ旬報』『国際映画新聞』『日本映画』『映画旬報』『映画ストーリー』『日本映画論言説体系』などを購入する予定であり、外国のものは Camera Obscura, Cineaste, Film Criticism, Film Culture, Film and History(以上はグループ(1)関連)、『大衆電影』『電影藝術』『電影新作』『電影雙週刊』『SCREEN』(英語圏のほうではなく、韓国映画月刊誌のほう)『Inter+view』『FILMFARE』『STARDUST』(以上はグループ(2)関連)を購入する予定である。 日本と外国の「アルツハイマー映像表象」を比較して得られる成果は、国内外の会議で発表し、また学術雑誌に英語論文を投稿する計画である。この英語論文では、本研究のしめくくりとして、外国映画との違いに言及しながら、日本のアルツハイマー映像表象の40年史を提示したいと考えている。 なお、F-6-1(収支状況報告書)で次年度使用額となっている研究費については、映画におけるアルツハイマー型認知症の資料を収集するための物品費として、すでに支出が確定している。
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Research Products
(1 results)