2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23652054
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Research Institution | Bunkyo Gakuin College |
Principal Investigator |
吉田 弥生 文京学院短期大学, その他部局等, 准教授 (00389876)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細井 尚子 立教大学, 公私立大学の部局等, 教授 (40219184)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
平成23年度は歌舞伎研究と宝塚歌劇研究を史的に見直し、交流点を作品から整理することと、海外における宝塚歌劇的芸態を見出し、比較分析することが中心となった。 具体的には、研究代表者は歌舞伎の世界網目から宝塚の歌劇作品との比較作業に入った。とりわけ「義経記」を題材とした作品を脚色方法、演出方法から、歌舞伎の手法に宝塚歌劇が確実に影響を受けている部分をとりあげ、手法の違いによってどのように歌劇化していったかを分析することができた。また、歌舞伎を採り入れた作品から、日本物のみならず、舞台を海外におきかえた、あたかも「逆翻案物」のような作品も創造することも判明した。 分担研究者の細井尚子氏は、23年度中に台湾における調査を進めていただいた。宝塚歌劇のように女性ばかりの劇団を中国は持っているが、宝塚歌劇ほど商業演劇として、また国際的に活動の場を広げようとしている演劇文化とはいえない。だが、その芸態として類似するものは、主としてアジア圏になお存在している。台湾における芸能には、芸態として表象的には近いものが見られることが調査結果によって判明した。しかし、比較分析すれば、それは手法も方向性も異種のものといえた。 また、研究協力者によって、歌舞伎と宝塚の関係の中でも、舞踊の側面においては多種多様な、特別な展開をしている部分を調査協力していただいた。具体的には、歌舞伎舞踊から宝塚舞踊への変転における技術的な問題である。そこには、近代化、国際化などを意識した創業者の意図も反映しているが、予期せぬ展開・スターによる特殊な芸態の創出が関わっていた。 なお、これらの研究は、2011年5月に東京(文京学院大学)、7月に大阪(阪急池田文庫)で開催した研究会において推進。研究内容の公開として、2012年3月に公開研究発表会を開催している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
歌舞伎と宝塚歌劇の作品比較においては、題名や設定からは明白にせず、脚色となった原作も存在しながらも、複数の歌舞伎作品から演出を移したことがあきらかな作品がいくつか見出された。これは当初の想定以上の成果といえる。 舞踊への着眼にあっては、歌劇団が隔年で開催する舞踊会が本拠地でのみおこなわれ続け、地域密着がみられることや、歌舞伎舞踊から取り入れた宝塚舞踊が、洋楽で演じる日舞という演劇史的に大きな問題を持つ以上に、スター創出のポイントになった特例としての見方ができることなど、研究に着手した時点の計画を上回る進展といえる。 また、世界の演劇との比較においては、宝塚歌劇的芸態をアジアの中に様々存在することがつかめ、まず、23年度に調査した台湾では、直接的な影響がないとは信じがたい類似性を見出すことができた。今後、このアジアにおける宝塚歌劇的芸態が各地域における伝統的、国民的芸能と影響関係があることがわかれば、伝統的・国民的芸能との影響関係という共通を指摘することにもなる。今後の演劇研究にとって有益な成果が得られといってよい。 以上の成果から、当初の計画以上の進展があったと、達成度を自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
歌舞伎と宝塚歌劇の作品比較、舞踊への着目、大衆芸能としての着目、地域芸能としての研究、世界における宝塚歌劇的芸態調査などは継続的に行う。 また、研究推進とともに把握してきた資料の所蔵や所在の点をデータベース化する作業も進めていく。将来的にこの情報公開が多くのこの領域の研究者を生み出し、本研究の出発点ともいえる、宝塚歌劇研究を日本演劇研究の一分野として確立するという最大の目的を達成することになるとみている。 劇構造やスターシステムの構造研究、地域と芸能の関連研究など、日本演劇の他ジャンルとも共通する問題点において、宝塚歌劇がどのような特殊性をもつかについても、研究協力者も交え、研究会および公開研究会において研究の深化をはかりたい。 最終年度は成果公開を様々なかたちで推進する計画であり、24年度はそれらをかたちとして生成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
宝塚歌劇の作品創造は「重構造の摂取」という特殊性がある。この「重構造の摂取」こそ歌舞伎の作劇手法にみられたものであり、「重構造」には日本文化の特徴そのものがある。これはメディア・ミックスの手法でもあり、調査方法には図書・視聴覚の資料にとどまらない資料収集の必要性がある。次年度の研究費の多くは、この資料収集とそのための旅費に費やされる。研究内容によっては、研究協力者の旅費にも支出する。 また、昨年度は台湾の芸態を調査して得るものがあり、今年度は韓国の芸態調査を研究分担者にお願いしたいので、海外旅費も支出の予定である。 なお、本研究の成果は、展示発表と出版、データベース作成で公開する予定であり、次々年度への繰り越しをも使用計画に含めている。
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