2013 Fiscal Year Annual Research Report
ジャンルとしてのファンタジーの可能性―『指輪物語』は支配的なテクストか
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23652061
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
渡辺 美樹 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (90201235)
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Keywords | ファンタジー / ジャンル |
Research Abstract |
トールキンの『指輪物語』は、叙事詩を模倣することによって作り出された作品であるがために、ファンタジーというジャンルにおいて支配力をもつものであることを説明できる。 バフチンの『叙事詩と小説」を援用すると、小説はテクスト世界と読者の現実世界との距離をなくすことで生まれてきたものであるが、ファンタジーというジャンルはその距離を保ったままにしたり、もしくは曖昧にすることで発生したものであるといえる。小説とは違って架空の時間と空間を持ち込んできたのである。バフチンがいうように、小説では基本的に主要登場人物をフラットからラウンドへと変化させてきた。ところが、ファンタジーでは主要登場人物が架空の世界を読者に案内する役割をもつために、人物の役割が明確である必要がある。善悪の対立という基軸に、王と道化という王権神話に関わる関係が登場人物間にあるために人物造形がわかりやすいものとなっている。さらに、登場人物たちの旅が物語世界を示している。架空の世界の始まりと終わりが過去にあった事実として語られる形をとるのである。 このようにファンタジーでは『指輪物語』の物語構成や人物造形が模倣されて様々な作品が作られている。また同時にその物語を乗り越えようとして、時間に干渉したり、世界の法則を変えたりしている。架空の世界を構築することに含まれている、昔はよかったという郷愁の思いや現在に対する批判をどれほど強く作品世界に描き出すかにある。『Midnighters』のように異世界から帰還できない子供を書き入れることによって世界批判をしている作品もある。 バフチンの叙事詩の3つの要素を軸にして『指輪物語』を分析しその結果を基にしてほかの作品との異動を調べることでファンタジーの持つ批判性を明らかにすることができた。
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Research Products
(1 results)