2011 Fiscal Year Research-status Report
平安時代貨幣制度の変容・崩壊過程に関する基礎的研究
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23652161
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Research Institution | Kansai University of Welfare Sciences |
Principal Investigator |
森 明彦 関西福祉科学大学, 社会福祉学部, 教授 (90231638)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日本古代貨幣 / 和同開珎 / 古和同 / 富寿神宝 / 鋳銭司 / 鋳造実験 / 金属試料成分分析 / 悪貨 |
Research Abstract |
本年度の研究成果は以下の二点である。第一の成果はもっとも挑戦的な研究目的である古代銭貨の鋳造実験による平安銭貨の抱える問題の解明に一歩を進めたことである。今年度は、和銅寛に依頼し金属配合率の異なる十一種の枝銭を作成した。その過程において古代銭貨の質に関するいくつかの重要な感触を得ている。ここではそのうちの二点について報告しておきたい。その第一の感触は、銭貨の質を決定的に規定する要因は第1に鋳造温度であり、第2に金属組成であるとの感触を得た。その点について簡潔かつ具体的に述べていきたい。十一種の枝銭は一種を除きすべて湯廻りは完璧であった。ただ一種の枝銭は融点が高い鉄も完全に溶けていたが、温度は1200度を割っており、かつ鋳型に流し込む際に若干時間がかかったため他の十種の場合よりも鋳型を流れる湯の温度が百度程度低く液体金属に粘性が生じ、十分な湯廻りができなかった。平安時代の粗悪な貨幣を考えるとき、溶融温度の問題が極めて重要である。鋳銭司はたびたび米不足を訴えているが、この問題と深くかかわるとの予測が可能である。 第二の感触は、アンチモンの含有率を高めた枝銭に共通した型抜の際の銭のこぼれ落ち現象である。アンチモン含有率が一定程度を越えるときわめてもろくなり、鋳銭現場から運搬の際に鋳造量の計測に不便をきたしていた可能性がある。古代の日本に於いてかなりの産出があったであろうアンチモンが特定の銭貨にしか多量にもちいられなかった要因とそれでもなおアンチモンを用いた要因の解明につながると考える。 第二の成果は、富寿神宝に関して、最終的に奈良時代の銭貨を流通界から駆逐する役割を担ったことを、富寿神宝の良貨から悪貨への転換において成し遂げた事に求める見解を打ち立てたことである。この点に関しては、平成24年2月の続日本紀研究会例会において発表し、現在論文化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の研究の最大のもっとも挑戦的な特色は平安時代の銭貨の金属組成に合わせた銭貨の鋳造実験であった。ただ10月の段階まで研究費が満額支給されるかが不透明であったため、鋳造実験が夏休み中の予定から実際には春休みに延び、和銅寛との調整の結果3月の中旬での実験となったため実物の観察に関してはやや遅れることになったが、その分を平安時代の貨幣関係史料の分析および金属元素や冶金技術関連の文献の精読にあてることにした。そのことでかえって鋳造実験の際の金属組成の組み合わせに関する十分な検討の期間がもてたことが、鋳造の際に起きたさまざまな現象を金属の特色との関わりの中でより深く検討することが可能となったともいえる。 また平安時代の貨幣粗悪化の要因について鋳造実験を行うことによって、そのもっとも大きな要因を当時の文献との突き合わせの中から、鋳造現場の中の溶融過程における労働環境の悪化であるとのきわめて具体的な予想を立てることができたことは大きな研究成果であったと考える。さらに富寿神宝がきわめて大型のものがある一方、小型のものがほとんどである理由についても、文献との突き合わせの中でその理由を提示できる段階に至ったこともおおきな成果であったと考えている。ただ鋳造実験が当初より遅れたため、それらの外面的観察に集中した研究のみを進めたため、鋳造前と鋳造後の成分の科学的分析は次年度以降の課題となっているが、それを補うに十分な成果を得ることが出来たと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究の推進方針は、以下の三点である。(1) 前年度の2月に続日本紀研究会で報告した富寿神宝の歴史的位置に関する成果を、 学会誌に投稿し成果を公にする。(2) 前年行った鋳造実験によって作成した銭貨のうち、アンチモンを多量に含む枝銭の 各所からサンプルを採集し、非破壊検査ないし溶融をともなう成分分析を行う。その ことによって当初配合したアンチモンがどのような分布を示すかを測定することで研 究目的のひとつである古和同銭が、神功開宝や富寿神宝の原料になることがありえる か否かの検討を行う。(3) 前年行った鋳造実験は、予算の関係で十一種にとどめているが、本年度はさらに二 ~三種の枝銭を作成していきたい。その内の一つは、溶融温度を変化させることによ り、研究実績の項で述べたような銭貨の質を決定する要因としての溶融温度の重要性 に関するデータを取得する。そしてそれをもとに、平安期の鋳銭司で起きていた事態 の解明へと歩を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の主な使用対象は以下の三点を計画している。(1) 平成23年度に作成した枝銭のうち、多くのアンチモンを加えた分の各所からサンプ ルを採取し、アンチモンを各部分がどれだけ含有しているか、そのばらつきと、元々 の試料におけるアンチモンの割合との比較を行うため、いくつかの分析機関に見積を 提出させたうえで、分析を行うための経費に十数万円をあてる計画を立てている。(2) 平成23年度に作成した十一種に加えて、平成24年度は二~三種の枝銭之鋳造実験を 考えている。この経費として二十万円程度をあてる予定である。(3) 文献調査および鋳造実験の成果の整理に研究支援者を雇用して電算入力を森の監督 の下に行う。この経費として十数万円を当てる計画を立てている。
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Research Products
(1 results)