2012 Fiscal Year Research-status Report
高齢者のライフヒストリーにみる空間/場所の経験-「高齢者の地理学」への挑戦-
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23652182
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉田 容子 奈良女子大学, 研究院人文科学系, 准教授 (70265198)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
影山 穂波 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (00302993)
本岡 七海(稲田七海) 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 研究員 (70514834)
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Keywords | 高齢者 / ライフヒストリー / 空間/場所の経験 / 福祉サービス |
Research Abstract |
本研究は,京阪神大都市圏の都市部・郊外および過疎地域での現地調査を実施して,次の1)~4)の目標を段階的に達成していく。 1)異なる地域に居住する高齢者のライフヒストリー聴取し,彼/女らによる「生きられた世界」を時間地理学の方法論を援用して分析・考察し,一人ひとりのアイデンティティの構築過程を描き出す。2)「いま」を生きる高齢者の現状を把握し,直面している問題やニーズを明らかにする。3)高齢者の「生きられた世界」やアイデンティティが彼/女らの「いま」に影響していることを実証し,「いま」を生きるために必要としているものは何かを見つけ出していく。4)地域間および高齢者間の差異を踏まえた有効な福祉サービスの供給を提言する。 本年度の研究対象地域として,自家用車を利用すれば京都・奈良・大阪方面への通勤が可能であるが,若年層の高等教育機関や就業先の欠如から過疎化が徐々に進んでいる京都府相楽郡和束町を取り上げた。同町の社会福祉協議会の協力を得て,町内各地区ごとに月1回開かれる高齢者向け「サロン」に参加する方を対象にインタビュー調査を実施した。調査ではライフヒストリーを聴取するとともに,高齢者の現在の生活状況から彼/女らが直面している問題を把握した。例えば,若年層の学校や就業先の都合で,高齢者を同町に残して世帯構成員が都市部に移動するケースがみられた。家族は週末などに定期的に同町に帰って来るが,現実として高齢者の単身世帯は徐々に増加している。こうした高齢者の日常生活を物理的・精神的にサポートする仕組みが必要である。この意味で,各地区ごとに開催される「サロン」は,今後より重要な意味を持っている。サロン参加者からは,「唯一の楽しみ」という声が聞かれた。しかし,サロンの送迎サービスが無いため,一人での歩行が困難な高齢者は,地域内でのコミュニケーションの場が絶たれてしまうという問題がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
高齢者へのインタビューに質的調査法を取っていること,また,本年度は別の研究課題にも取り組んだため,聴取できた内容は充実したものであったが,本年度のインタビュー者数は当初の計画よりやや少なかった。 本研究の途中経過をまとめ,平成24年8月下旬にケルン(ドイツ)で開催された第32回IGU(International Geographical Union)の大会で,研究代表者の吉田が発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,京阪神大都市圏の都市部・郊外および過疎地域を中心に,それそれの地域で生活を送っている高齢者の方々からライフヒストリーを聴取する調査を実施し,質的データを充実させる(具体的な調査地域は,引き続き京都府和束町および和歌山県新宮市,あらたに都市部での調査も計画)。収集したデータを分析する観点として,所得階層,学歴,就業経験,結婚・子ども,家族との関係,病気・障がい等に着目し,高齢者一人ひとりの人生の中でこれらの要因がいかなる影響を及ぼしてきたのかを探る。加えて,これまでの調査は奈良市,奈良県黒滝村,同県十津川村,和歌山県新宮市,同県白浜町,京都府和束町で実施してきたことから,これら地域間の地理的差異や特徴にも留意して,高齢者の現在の生活状況や彼/女らの場所への想いを見ていく。 さらに本研究では,現地での高齢者へのインタビューと並行して,調査地域の自治体や福祉サービス供給機関への聞き取り調査も実施する計画である。従来の高齢者を一括りに考えた福祉サービスではなく,彼/女らの「生きられた世界」や自己のアイデンティティを尊重した,一人ひとりのニーズに適った福祉サービスの重要性を提言できるよう,福祉政策面での検討を,本研究の最終段階として進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究成果の一端を,吉田が代表して第32回IGU(International Geographical Union)の大会で発表するため,夏季休業前半にデータ整理や英語発表原稿の作成等を行った。また,吉田をはじめ研究協力者の2名はそれぞれ,夏季休業後半に別の研究課題の遂行のため国内・海外で調査を実施した。こうした事情で,本年度は本研究課題に充てられた研究費が一部未使用となった。 次年度も引き続き高齢者のライフヒストリー聴取のため,対象地域での調査を進める。本年度の調査でインタビュー者数が少なかったことをカバーするため,2~3名の大学院生から協力を得ながら,インタビュー調査を進める予定である。また,ライフヒストリー聞き取りのテープ起こしは作業量が多いため,一部の作業を,学生アルバイトに依頼する(大学院生・学部生への謝金を計上)。さらに,過疎地域などの交通アクセスの問題がある場合,宿泊を兼ねた調査旅費も必要となる。 このほか,共同調査の打ち合わせや研究のまとめで,分担者1名に研究打ち合わせのための旅費を計上。
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