2011 Fiscal Year Research-status Report
短ミリ波帯アンテナ鏡面パネルのコストダウン研究 ー事象の地平線観測に向けて
Project/Area Number |
23654071
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
三好 真 国立天文台, 電波研究部, 助教 (50270450)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 絞り法 / 高精度アンテナ面 / コストダウン / サブミリ波VLBI / ブラックホール解像 |
Research Abstract |
本研究の目的は絞り法によって高精度アンテナ面を安く作成できるかを調査することにある。本来は新しい金型を作り、その金型の面形状を数μ精度で計測、絞り法で作成したアンテナ面のそれと比べることが望ましい。予算の範囲内では新しい金型を作成するには能わず、実施できなかった。 絞り法によるアンテナ作成では、確認すべき点は他にもある。ひとつは、再現性である。絞り法によってアンテナ面を安く作成できても、その精度の再現性が乏しいと、多数のアンテナ面を作成し、実用になる精度のアンテナを選んで使うことになる。結果的にコストが増大してしまう。 既存の古い金型を用い、同一の材質のアルミによって2枚のアンテナ面を制作、面の形状を比較し、再現性を調べることにした。 口径1.8mの既存金型を用い、2m四方の厚み3ミリのアルミ板を素材として口径1.8mのパラボラ面をへら絞り法にて作成した(その金型は20年以上前のものであり、鉄製のため所々さびから面に小さなくぼみが見受けられる)。1枚のパラボラ面の作成は開始から約30分でパラボラ面の形成は終わり、さらに縁を丸める作業に30分、計1時間ほどで完成した。 2m近い面を数μ精度で計測する装置は、国立天文台には無く、京都・クリスタル光学の、東洋最大の三次元精密測定器により、面精度を測定した。4センチ間隔の格子1604点の実測に6時間、その準備に半日を要し、2枚の面測定は3日かかった。 2枚の形状は非常に似ており、半径に依存し面精度が変わる。全体では250μrmsであるが、半径によっては70μrmsを示す部分もある。この特徴は目測で判断した金型の特徴と一致している。絞り法は基本的に職人による手作業である。しかし再現性が非常に高く、面精度は金型に強く依存していると思われる。先に作成した小アンテナでは60μrms精度が達成されており、金型は目視上、きれいな面であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
へら絞り法による高精度アンテナ面の安価な作成を試すのが目的である。新規の金型作成が予算的にできないため、完全な調査はできなかった。しかし、制作精度の再現性の確認ができ、面精度は金型の精度に強く依存することがわかった。職人の手作業による加工であるにも関わらず、再現性が高いことは高精度アンテナ面の安価な作成がへら絞り法によって可能であることを示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後実現したい実験計測:(1)小型の絞りアンテナを用い、その自重変形による面精度の変化を計測する。すでに示したように金型の面精度によっては60μrms程度の非常に精度の高いパラボラ面が形成できることがわかった。またへら絞り法では職人の手作業であるにもかかわらず、再現性も高い。しかしこれらはアンテナを水平に安置してのものである。実際のアンテナは高度角を変えて用いるので、水平安置した状態とは異なる。高度角に依存してどの程度の自重変形が起きるかを実測する。1.8mアンテナの測定においては数十万円かかるので、現予算では実施できない。そこですでに制作してあった小型90cmアンテナを用い、国立天文台技術センターにある3次元測定器によって計測を行う。(2)アンテナ面の形状を維持するためのバックストラクチャーの考察を行う。小型の絞りアンテナを用い、(1)の自重変形による面精度変化の計測をもとに、面精度を維持できるバックストラクチャーの考察を行う。可能であれば、経緯台式のマウントを作り、何らかの受信装置とあわせ、小型電波望遠鏡の形に組み立て、太陽電波等を受信し面精度の推定を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度2枚の絞りアンテナの制作と測定をおこなったが、アンテナ送料が若干安くなり、「次年度使用額」が生じた。次年度行う以下の実験計測の治具の作成費用に供することにした。今後実現したい実験計測:(1)小型の絞りアンテナを用い、その自重変形による面精度の変化を計測する。このためにアンテナを傾斜させた状態で3次元測定器に乗せる必要がある。傾斜台の作成費用に研究費を用いる。(2)アンテナ面の形状を維持するためのバックストラクチャーの考察を行う。(可能であれば)アンテナを電波望遠鏡の形して、受信性能からアンテナ面の精度を総合的に判断する。口径90cm程度のアンテナをのせる経緯台式のマウントの制作もしくは購入に研究費を用いる。(3)関係する絞り加工メーカ、計測機をもつメーカ、などを含む研究打ち合わせ・学会発表に要する旅費に研究費を用いる。
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