2011 Fiscal Year Research-status Report
バリスティック電気伝導を利用した新しい核磁気共鳴法の開発と極微量分子の計測
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23654152
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
根間 裕史 中央大学, 理工学部, 助教 (30580055)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 原子・分子物理 / 超精密計測 / 表面・界面物性 |
Research Abstract |
本研究では、グラフェン表面に微量の核スピンを有する分子を吸着させ、抵抗検出核磁気共鳴(NMR)で観測する新しい手法の開発すること及び実際の計測を行うことを目標としている。それらを達成するために、本年度は計画通りに計測システムを作製した。さらに、出来上がったシステムで吸着テストを行った。1)計測システムの作製:計測システムは、グラフェンに吸着させる分子の量をコントロールする吸着分子制御系とNMRシグナルを計測する計測回路系から成るものを用意した。吸着分子制御系の作製は、グラフェン素子を封入する小型真空容器の作製から行った。この容器には、非金属の材料であるスタイキャスト1266を用いた。容器はキャピラリーを通して精密な圧力計やボンベと接続させ、微量な吸着分子の量り取りが可能なようにした。吸着させた分子の排気は、今年度購入したターボ分子ポンプでクリーンに行える仕組みにした。計測回路系の構築は、グラフェン素子の作成から行った。グラフェン試料はSiO2/Si基板上にスコッチテープ法で作製した。これにCr/Au で電極を付けて FET構造に加工して、素子として用いた。素子は真空容器に装着し、容器の周りに1巻きコイルを巻いてグラフェンに振動磁場を供給できるようにした。ロックインアンプなどの計測機器の構成は従来の抵抗検出NMRに準じたが、差動増幅器は超低雑音のものを用いた。こうして、計測システム全体を用意できた。2)システムの吸着テスト出来上がったシステムが支障なく機能するか調べた。本年度は、分子がグラフェンに吸着する段階までを試験測定した。吸着には、酸素分子を用いた。酸素は吸着によってグラフェンにホールがドープされることが実験で確かめられているので、試験測定に適しているためである。測定の結果、ホールのドープによる抵抗の変化が観測されたので、吸着ができていることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、計測システムの作製を実施する計画であった。今回開発を目指すNMRの計測システムは、物質中の核スピンを検出する従来の抵抗検出NMRと異なり、外部から吸着された分子を計測する独特の仕組みが必要となる。そのため装置も従来と異なり、吸着させる分子をコントロールする吸着分子制御系を作製し従来型の装置と融合させることが、本研究の最初の大きな関門であった。そうした融合装置を一通り作製した。さらに、作製した装置を用いて吸着に関する試験測定を行い、間違いなくグラフェン表面に吸着している結果を得た。しかし、試験測定の結果、作製したグラフェン試料にいくつかの課題があることがわかった。第一に、計測分子の吸着する量が少ないことである。最近の報告されている他のグループの酸素吸着の結果に比べ、大分少ない。第二に、作製したばかりのグラフェンに既に多くのホールがドープされてしまっていることである。これは、FET構造を作製する工程のどこかで不要な物質をグラフェンに吸着させてしまっているためではないかと考えている。第三に、易動度が低いことである。これが原因で、吸着に対する抵抗の変化が小さくなっている。第四に、ソース-ドレイン間の抵抗のゲート電圧依存性にヒステリシスが生じた。これは、グラファイトの下地になっている二酸化ケイ素の表面にあるシラノールの影響と考えられるので、除去しなければならない。試験計測により、改善点を明確にすることができた。以上のように、予定していた計測システムの作成を終え今後の進むべき方向もわかったので、計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
計測システムを作製することができたので、次年度は完成したシステムを用いて、実際にグラフェン上の薄膜のNMRシグナルの観測を試みる。A)吸着に対する感度の最大化NMRシグナルの観測を実現するには、グラフェン抵抗の吸着に対する感度を可能な限り高めておくことが不可欠である。しかし、現状ではいくつかの要因により、感度が制限されてしまっている。こうした制限を取り除く作業を下記のように行い、シグナルを見つけやすい環境をまず整える。A-1)シラノールの除去:グラフェンの抵抗には、下地である二酸化ケイ素の表面のシラノールの影響が現れた。この影響により、抵抗のゲート電圧依存性にはヒステリシスが生じてしまった。このヒステリシスは吸着分子を計測する感度を抑制してしまうので、除去する必要がある。除去には基板となるシリコンウェハーを酸素中で1000℃で熱処理することが有効であるという最近の報告があるので、実際に試してみる。A-2)表面不純物の除去:計測分子を吸着させる前にも関わらず、多量の不純物が吸着していると思われるグラフェンの特性が得られた。不純物は、FETの作製の工程で行ったのりを除去するための熱処理、あるいは電極加工後に残った微細加工用のレジストを除去するための熱処理で生じたと思われる。そこで、熱処理の条件を変えるなどして、工程を見直し、不純物を減らす。2)薄膜のNMRシグナルの観測吸着に対する感度の最大化ができたら、グラフェンを振動磁場下に置き、NMRのシグナルを探る。当初は、最も興味のあるヘリウム3を計測分子として用いる計画をしていたが、今回開発するNMR技術が確立するまでは試行錯誤が続くので、当面は使い勝手の良い水素でシグナルを探す。吸着の感度の最大化を入念に行うことにより、必ずシグナルが得られるものと期待している。水素で綺麗なシグナルが得られたら、ヘリウム3での測定を本格的に行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度に実施予定である、吸着に対する感度の最大化やNMRシグナルの観測へ向けて、主として新たに必要となる物品を購入する費用に充てる。1)シラノール除去用の装置:吸着に対する感度を最大化するには、基板のニ酸化ケイ素の表面にあるシラノールの影響を除去することが欠かせない。そのために、シリコンウェハーをあらかじめ酸素中で1000℃でのアニールする装置を部品を購入して作製する。部品は、電気炉と石英管、継手である。2)試料材料:昨年度は主として計測システムの作製を行ったので試料は少なかったが、本年度は計測に重点を置くため、多くの試料を作製する必要がある。そのため、試料の材料を購入する必要がある。材料としては、シリコンウェハー、グラファイト、金、クロム等である。3)計測装置:計測システムの一部である電流供給用自作回路やソースメジャーユニットを、他の研究グループから借りて用いている。そのため、スケジュールが重なって測定を中断せざるを得ない事態がよく起こっている。この問題を軽減するために、本年度の予算を使って、自作回路かソースメジャーユニットのどちらかを導入し、測定の円滑化を図る。4)計測用の寒剤:NMRシグナルの観測を試みる際は、できるだけシグナルが大きくなるように工夫しておいたほうが初観測を達成するのに有利である。そこで、水素を大量に表面に吸着させる。そのために、グラフェンを低温に冷却しなければならないので、寒剤として液体窒素と液体ヘリウムを購入して用いる。
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