2011 Fiscal Year Research-status Report
サンゴ礁海域の大気-海洋間無機炭素量計測への固体電解質型センサの利用
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23654168
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
又吉 直子 琉球大学, 理学部, 講師 (50295292)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 固体電解質型センサ / 海洋無機炭素量計測 |
Research Abstract |
本研究では、これまで研究室レベル(ビーカー内50mLの水中)で実験してきた溶存CO2 センサ素子を水深数m~それ以上の広い範囲で、しかも海洋モデルとしての水槽中だけでなく海洋にまで実験の場を広げて使用する事になるので、センサ素子、特に分子認識部分である補助層にはこれまで以上の耐水性が要求される。そこで、当初の計画では従来法で作製した素子を用いて「海洋モデル環境中の各深度について溶存CO2、及びO2濃度変化に対する応答特性を調べて基礎データを収集する」ことを先に行う予定であったが、順序を入れ替え、素子の耐水性向上と作製過程が簡便になること目指して「センサ素子形状等の改良」について先に検討を行った。従来のセンサ素子は固体電解質素子の検知極上にPt黒を電析後、炭酸塩(補助層)を吸着させ、さらにアルブミンとグルタルアルデヒドの架橋膜を形成させる方法により作製していたが、今回は人工歯根などに用いられているハイドロキシアパタイト(以下HApと略)の水和硬化反応を利用して合成する際の懸濁溶液に炭酸塩を混ぜ、それを検知極上へ一定量滴下し乾燥させて作製した。この素子の溶存CO2に対する応答は、起電力と溶存CO2濃度90~1300 ppmの範囲でNernst式に従った。従来の素子と比べると応答範囲や反応電子数はほぼ同じであったが、直線の傾きは負の値を示しこれまでと全く異なっていた(従来は正の値)。この結果は、HApも溶存CO2と反応し、HAp自体が補助層となり得る事を示唆していたため、炭酸塩なしでHApのみを検知極に取り付けた素子を作製し、応答を調べると前述と同様に溶存CO2に対して応答が得られた。以上から、炭酸塩より水に溶けにくいHApが溶存CO2センサの新規補助層材料として利用できる事がわかり、また、素子作製も簡便化された。その他、水槽はガス供給等を考慮して設計を終え、発注する段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の初年度であったため、素子の耐水性と素子作製過程の簡便さを解決する研究を先に行い、上述のようにある程度の成果が得られた。しかし、その研究を続ける中で、素子に用いる固体電解質として使用していたLaF3単結晶の購入が製造中止のためできず(特注も不可)、入手が困難であることが分かった。購入に関する対策を行うと共にLaF3単結晶の合成も検討したが、合成に必要な装置を保有しておらず、今回の予算でその装置を購入することも難しいので、今後の研究にはLaF3単結晶の使用をあきらめることにした。LaF3単結晶に代わる固体電解質として、以前研究していた固体電解質の中で耐水性、イオン伝導性にも優れているLiイオン伝導性ガラスセラミックスを使用する予定である。その様な状況であったので、昨年度予定していた「海洋モデル環境中の各深度について溶存CO2、及びO2濃度変化に対する応答特性を調べて基礎データを収集する」実験は行えず、水槽の設計、同時計測用のセンサ形状の検討のみを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
(平成24年度) 素子に用いる固体電解質は、先述のようにLaF3単結晶が入手困難になったためLiイオン伝導性ガラスセラミックスに変更する。その際、補助層はHApまたは炭酸塩を用いる方法で2種類作製し、基礎データは両方の素子を一緒に設置して収集する。 (1) 海洋モデル環境中の各深度について溶存CO2濃度、及びO2濃度変化等に対する応答特性を調べ、基礎データを収集する : 海洋モデルの水槽に、前述の2種類の素子を大気-水面付近や水面から約0.5 m ごとに設置し、各位置における溶存CO2やO2、炭酸イオン等に対する応答を調べ、深さによるセンサ応答への影響を調べる。比較のために非分散型赤外線装置や既存の溶存酸素センサ等の機器や酸-アルカリ度の計測も同時に行う。以上のデータを元にセンサ素子の補助層をHAp、炭酸塩のいずれにするか決定する。 (2) 海洋モデル環境中の数カ所同時計測、(3) 海洋モデル環境中の大気-水面間同時計測 : (1)で決定した素子を用いて、モデル水槽で鉛直方向及び大気-水面間同時計測を行う。その際、センサの形状としてはシリコンチューブを使って5個程度の素子を一定間隔につなげて作製する予定である。それを水槽中に沈め、各深度同時に被検物質に対する応答を調べる。(1)で検討した被検物質の他にpHや妨害物質による影響も調べ、センサの形状も検討し必要な場合は改良も行う。(平成25年度) (4) 作製したセンサの海洋中の現場計測(海洋鉛直分布の計測、大気-海洋界面の計測) : (3)までに検討したセンサ素子を使って、実際に被検物質の海洋中及び大気-海洋界面の同時計測を行う。現場測定には所属研究機関の付属施設である瀬底実験所を予定している。現場計測の際も非分散型赤外線装置などによる計測を行い、その結果と本センサ素子のデータと比較検討する。(5) 成果の学会発表及び論文発表
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度以降から本格的に溶存CO2センサ素子を海洋モデル環境中の各深度について無機炭酸濃度、及び溶存酸素濃度変化に対する応答特性を調べ、基礎データを収集するので、まず、海洋モデルとして実験室内に設置可能な水深2~3 m 程度、ガス供給のできる水槽を準備する。このための水槽とそのガス供給システムとして流量計等を設備備品費で申請する。その水槽にセンサ素子を大気-水界面付近や水深約0.5 m 程度ごとに設置し、それぞれの位置における溶存酸素や溶存二酸化炭素、炭酸イオン(HCO3-、CO32-)などに対する応答を起電力又は必要に応じて電解電流や短絡電流で検知する予定である。素子は水槽でも5個以上取り付けるため、同時計測に必要なエレクトロメータと制御用のパソコンの台数が現有している分では足りないので、1セット購入を予定している(設備備品)。センサ応答との比較検討のために、非分散型赤外線装置や市販の溶存酸素センサ等の機器による測定や酸―アルカリ度の計測も同時に行う。この非分散型赤外線装置等は所属研究機関の所有する装置や施設で行う予定であるため機器使用料、施設使用料が必要となる。また、得られたデータの処理・解析のために研究補助の依頼を予定している(謝金等申請)。その他、素子の作製に必要なLiイオン伝導性ガラスセラミックスや薬品、ガラス器具他の購入、及び昨年度の研究成果発表のため学会発表(旅費)を予定している。
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