2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23655093
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
覚知 豊次 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80113538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 敏文 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80291235)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 有機分子触媒 / 立体選択的重合 / ポリエステル / キラル / 生物由来資源 |
Research Abstract |
当該年度は、キラル有機分子触媒の精密合成および重合反応へ応用するため、先行実験としてジフェニルリン酸を触媒とし、3-フェニル-1-プロパノールを開始剤として用いたδ-バレロラクトンとε-カプロラクトンのリビング重合系を検討した。1H NMR、SECおよびMALDI-TOF MS測定により、生成物はPPAを開始末端に有するポリエステルであることが確認された。また SEC トレースは単峰性であり、副反応は生じていないことが示唆された。開始剤であるPPAに対するモノマーの比を変化させると、得られたポリマーの数平均分子量は増加し、理論分子量と良い一致を示した。また、一般に酸触媒を用いた開環重合系では分子量 20,000 以上のポリエステルは得にくいことが知られているが、本重合系においては高分子量のポリカプロラクトン(PCL)およびポリバレロラクトン(PVL)を得ることに成功した。さらに、分子量分散度はどちらも1.1以下と狭い値であった。よって、開始剤であるPPAに対するモノマーの値を調整することで、種々の分子量をもつポリエステルの合成が可能であった。 続いて、δ-VLとε-CLを用いた動力学的解析の結果、モノマー転化率の上昇に対して、数平均分子量は直線的に増加し、モノマー消費は重合時間の増加に伴って直線的に増加した。ε-CLを用いたポスト重合では、数平均分子量が5,550から11,000となり、分子量は二倍に増加した。また、SEC トレースは単峰性のまま高分子量側へとシフトすることが確認され、分子量分散度は狭い値のままであった。モノマーにδ-VL を用いた場合もε-CLを用いた場合と同様であった。重合系の動力学的解析およびポスト重合の結果から、副反応は生じておらず、ポリマー鎖の末端構造は保持されていることが判明した。よって、重合はリビング的に進行していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究では、有機ブレンステッド酸の一種であるリン酸ジフェニルを触媒に用いたε-カプロラクトンおよびδ-バレロラクトンの重合を検討し、新たな精密重合系の構築を達成した。有機分子触媒に酸触媒を用いたラクトンの重合の例は少なく、トリフルオロメタンスルホン酸や塩酸-ジエチルエーテル錯体のみである。しかし、それらの重合系では、酸性度の高い触媒が原因となって生長が阻害されることが知られている。その結果、副反応を生じることや高分子量体を得にくいという問題があった。しかし、当該年度の研究では、酸性度の低い新たなブレンステッド酸触媒を用いることで触媒のプロトン供与能を調整し、制御重合系を達成でき、この成果を用いることで本研究が目的するキラル有機分子触媒の精密設計、それを用いた位置・立体・シークエンスが高度に制御されたポリエステル類の合成技術の提案、および生物由来資源を用いたポリエステルの高性能化を可能にした。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は下記の2点に関して研究を進める。つまり、1)β-ブチロラクトン(β-BL)の不斉選択的重合による光学活性ポリブチロラクトン(PBL)の合成、ならびに2)合成したポリマーの各種物性評価(ガラス転移点、融点、粘弾性、引っ張り強度、生体適合性、生分解性)である。 前年度の研究成果から、まずシンジオタクチック性およびステレオブロック性を発現するキラル有機分子触媒を選定する。ここで、D体とL体のβ-BLとの共重合を試みる。特筆すべきは、シンジオタクチック性、つまりL体のモノマーの後に確実にD体のモノマーが挿入されるという特徴、を生かすことで、シークエンス制御のされたポリエステルの創成が期待される点である。当該年度は、まず上述の共重合に焦点を絞り、シークエンス制御を積極的に行う。前年度の有機分子触媒を用い、アルコール誘導体を開始剤とし、β-BLのラセミ体の不斉選択開環共重合系の検討を行う。得られるポリマーの化学および立体構造は、各種NMR、SEC、CD、旋光度、MALDI-TOF MS測定により詳細に評価する。ここで得られるポリマー構造の情報を、キラル有機分子触媒の分子設計に再度フィードバックすることで、触媒構造とシークエンス制御能との相関を徹底的に明らかにする。さらに、得られた立体およびシークエンスが制御されたポリエステルの各種物性評価(ガラス転移点、融点、粘弾性、引っ張り強度、生体適合性、生分解性)を行う。これらの諸物性に関しては、示差走査熱量測定(DSC)、多角度光散乱検出器SEC(SEC-MALLS)、粘弾計などの測定により評価を行う。 これらの検討をまとめ、本研究ではキラル有機触媒の精密設計、それを用いた位置・立体・シークエンスが高度に制御されたポリエステル類の合成技術の提案、および生物由来資源を用いたポリエステルの高機能化を期間内に達成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度で607,732円を繰り越すことなった。主な要因として、人件費・謝金に400,000円を計上していたが、当該年度の進捗状況から必要とならなかった。そこで、次年度では繰り越し金はガラス器具や試薬等の消耗品代、成果発表のために国内旅費、海外旅費、および、研究成果発表(論文発表)のための英文添削代にそれぞれ3分の1づつ充当する予定である。
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Research Products
(2 results)