2011 Fiscal Year Research-status Report
有機導体-金属錯体ハイブリッド化合物による分子スピントロニクス
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23655114
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
西川 浩之 茨城大学, 理学部, 教授 (40264585)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 分子性導体 / 電導性 / 磁性 / 遷移金属錯体 / 薄膜化 / 有機半導体デバイス / スピントロニクス材料 |
Research Abstract |
分子スピントロニクス材料に適した分子として分子性導体の主要物質であるテトラチアフルバレン(TTF)誘導体を常磁性金属イオンに直接配位させた物質の合成を行い、真空蒸着法による薄膜化を試みた。金属イオンへの配位サイトとしてシッフ塩基配位子を用いた銅(II)錯体を検討した。この錯体は中性錯体であることから真空蒸着法等のドライプロセスによる薄膜化が可能であると考えられる。中性錯体の単結晶X線構造解析の結果から、TTF部位の硫黄原子間に接触があり、分子間相互作用があることが確認されていることから、作製した薄膜をFET構造へとデバイスかすることにより、常磁性金属イオンの局在スピンと相互作用するFETデバイスが期待される。また、この銅錯体のTTF部位を電気化学的に部分酸化することによって、半導体的な伝導挙動を示すことも明らかにしている。今年度は、TTF部位の置換基がエチレンジチオ基である銅錯体を用いた。薄膜の作製は、ヘキサメチルジシラザンで処理した石英基盤およびn型シリコン上にSiO2膜を蒸着した基板を用い、1.9×10^-3Paで真空蒸着を行った。蒸着膜の紫外可視吸収スペクトルおよび蒸着後に残ったサンプルの赤外吸収スペクトルを、原料である銅錯体のそれらと比較することにより、錯体は真空蒸着の過程で分解せず、薄膜が形成されたことを確認することができた。SiO2膜を蒸着したn型シリコン基板上に作製した薄膜に、電極として金を蒸着しFETデバイスを作成した。半導体パラメータアナライザーを用いてFET特性を評価したところ、今回用いたエチレンジチオ基を有する銅錯体の薄膜ではFET特性が観測されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の前半は、昨年度末発生した東日本大震災の影響で、研究室の復旧ならびに破損物品の修理に費やされたため、当初の研究計画が大幅に遅れた。また、破損した物品の修理を早急に行う必要があったため、当初購入を計画していた物品の変更も余儀なくされたことも、研究目的の達成を遅らせる原因となった。しかし、他機関との共同研究などにより当初予定していた物質の薄膜化ならびにデバイス評価を行うことができ、おおむね予定通り研究が達成できたと自己評価する。残念ながら今回のサンプルでは期待したデバイス特性が発現しなかったが、新物質による新規材料の開発研究ではよくあることであり、今年度の結果を踏まて次年度の物質設計につながる結果が得られたことからも、おおむね順調に進展したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について以下にまとめる。今年度用いた置換基がエチレンジチオ基の銅錯体では、真空蒸着法による薄膜化およびデバイス作製には成功したものの、期待された特性は発現しなかった。有機半導体デバイスにおいては、デバイス特性は薄膜中における分子配列に大きく左右される。TTF誘導体からなるFETデバイスの報告例も数種類あるが、今回用いた銅錯体と同じエチレンジチオ基を置換基にもつTTF誘導体からデバイス特性の報告はなく、ベンゼン環が縮環したジベンゾ誘導体や長鎖アルキル基で置換したTTF誘導体に限られている。そこで、次年度はエチレンジチオ基をベンゼン環や長鎖アルキル基に置換した新規銅錯体の合成を行い、合成した錯体を用いて薄膜化およびデバイス化を検討する。長鎖アルキル基を有する金属錯体は溶液状態で自己組織可能を有することが知られている。したがって、新たに合成した物質の薄膜化については、真空蒸着などのドライプロセスに加え、キャスト法などのウェットプロセスによる薄膜化を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の結果を踏まえ、次年度は新しい物質の合成をメインに研究を遂行する。したがって、化学合成のための試薬およびガラス器具などの消耗品を物品費として計上している。また、研究成果の報告のための学会の参加のための旅費、他機関で実験補助のための謝金もそれぞれ計上している。
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Research Products
(14 results)