2012 Fiscal Year Annual Research Report
水クラスターの構造制御による耐劣化性能に優れた高分子電解質膜の開発
Project/Area Number |
23656127
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
徳増 崇 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (10312662)
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Keywords | 分子流体工学 / 燃料電池 / 輸送現象 / プロトン / 数値計算 |
Research Abstract |
高分子電解質膜を構成するNafion分子の基本要素について, DMol3による量子化学計算を行い, Nafionの各原子の電荷および最安定構造の情報を得た. 次にこの情報を元にNafionの分子モデルを構築した. このNafion分子を計算系に複数配置し, さらにその中に水分子とオキソニウムイオンを混入して, 高分子電解質膜内部における水の構造を解析するシミュレータを構築した. 劣化種であるOHラジカルの移動にはVehicle機構だけでなくGrotthus機構をも考慮し, その機構はEmpirical Valence Bond(EVB)法を用いて取り扱った. また, そのポテンシャルは密度汎関数理論(DFT)の計算結果を再現できるように調整した. このシミュレータを用いて, まず水のクラスター構造を静的構造因子を用いて評価した. その結果, 本研究で用いたモデルはGebelの予想した水クラスター構造の周期サイズをよく表せており, モデルの妥当性が検証された. また既報の中性子小角散乱の実験により得られたデータとの比較を行ったところ, 特徴的なピークの位置が概ね一致していることが確認された. このシミュレータを用いて, 平均二乗変位を求めることにより水およびOHラジカルの拡散係数を評価し、その含水率依存性を解析した。その結果、水の拡散係数の含水率依存性は実験結果と概ね一致し、含水率が増加するにつれて拡散係数が上昇することが確認された。さらに, 水クラスターの構造を定量的に表現できる特性量(水分子の水素結合により形成される一連のネットワーク構造の長さおよび水分子の酸素原子周りの水素原子の動径分布関数)の変化を観察した. これらの結果から、水クラスターの構造を表現する特性量の中で、プロトンやOHラジカルの輸送現象に大きく影響を及ぼす因子を特定した.
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