2011 Fiscal Year Research-status Report
ダニエレ・バルバロ著「透視図法の実際」(1569)に関する図形科学的研究
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23656376
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
植田 宏 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (00117334)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ダニエレ・バルバロ / 透視図法 / アンドレア・パッラーディオ / 図形科学 / 劇場 |
Research Abstract |
23年度には、16世紀イタリア語で書かれたダニエレ・バルバロ著「透視図法の実際」の図版を、高機能のパーソナルコンピュータ(新規購入)に接続したスキャナー(新規購入)で読み込み、ディジタル・データに変換しファイルした。このデータについて、画像処理ソフト(新規購入)を使い画像の調整を行い、当時写本が存在したとされる透視図法の技法書G. Nicco-Fasola編Piero Della Francesca, DE PROSPECTIVA PINGENDI, Casa Editrice Le Lettere, Firenze, 1984(以下フランチェスカ著「絵画の遠近法」)との比較を行い、建築学会九州支部研究報告会で発表した。その他、パート1について現代イタリア語への変換を行い、日本語抄訳については作成中である。第1部は視点・画面・描かれる対象などの透視図法の構成要素や、平面の分割などの簡単に透視図を描くための手法について書かれており、3次元の実空間、2次元の透視図との関連についてのバルバロの基本的考え方を整理し、さらに奥行きをイリュージョンとして示す舞台空間の構成とのつながりを考察する上で重要な部分として位置付けている。しかし、視点位置・距離の考え方に僅かにそのつながりを示す手掛かりを見出すに止まっている。また、2011年9月、バルバロと関連の深いパッラーディオ設計のヴェネツィアの教会堂、およびヴィチェンツァのテアトロ・オリンピコの現地調査を行った。それにより、後者の劇場における舞台背後の奥行き増築の際のヴィンチェンツォ・スカモッツィが果たした役割について、調査・研究の必要性が生じてきている。その調査・研究の範囲については今後の検討課題とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的の一つは、ダニエレ・バルバロ著『透視図法の実際』内における挿入図版の整理、および先人の技法書との比較によりバルバロ独自の図版を抽出することであった。そして、23年度には同著書とピエロ・デッラ・フランチェスカ著『絵画の遠近法』における、透視図法の基本的事項に関する図版の比較を行った。この点に関しては、建築学会九州支部研究報告会(九州支部)において、バルバロがパート1内で用いた34枚の図版の中で、ピエロが第一書で使用した図版との類似が7枚に止まることを報告した。図版整理ためには、謝金を使用してバルバロの同著書全篇をスキャンし、比較に大いに有効であった。ただし、性能の良いスキャナーを使用したのだが、綴じたままの大部の書物のスキャンであり、想定外の時間を要してしまった。新たな書物のスキャンを依頼する場合の検討課題である。また、バルバロが翻訳したヴィトルヴィウス『建築十書』イタリア語訳1567(マンフレッド・タフーリ編1997)を入手することができ、所有していたラテン語版1567(アメリカにおけるリプリント版、発行年不明)と併せて今後の劇場建築に関するパッラーディオとの関わりを探る準備として有効であると考えている。実空間の調査の一つとしてのテアトロ・オリンピコにおける写真撮影では、調査時に行われた光のパフォーマンスにより、杮落とし当初の明るさとは比べることはできないが、舞台背景の奥行きを感じさせる画像を収集することができた。観客の視点に関する検討には重要な画像だと認識している。以上が、(2)おおむね順調に進展していると判断した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には第2部以降の、今回の研究に分析が必要と思われる部分について、23年度と同様、現代イタリア語への変換、日本語抄訳、および他の技法書内の図版と比較・検討する。特に、「透視図法の実際」パート4、古典建築の様式に関する部分の後段には舞台背景に関する図版が見られ、透視図法構成要素との関連から、当時の劇場における観客に対する考え方、すなわち複数の視点からの視知覚画像の差異についての認識を図形科学的な観点から検討する。そのための透視図法技法書として、類似図版を多数見出すことができる、現有書籍Vaughan Hart & Peter Hicks編Sebastiano Serlio, ON ARCHITECTURE, Vol. 1 & 2, Yale Univ. Press, 1996(以下セルリオ著「建築論」) との比較を行う。ただし、同書内には透視図法の基本的事項との関連を描いた図が見られないため、その点に関する記述、図版を探索し、セルリオの考え方を整理しながら詳細な検討を行う必要がある。 実空間調査との関連では、現存するイタリア北部のパルマ、サッビオネータに現存するほぼ奥行きのある舞台を有する同時期の劇場調査を予定している。これにより、バルバロの著書内の視点と舞台背景の関係図とパッラーディオ、およびテアトロ・オリンピコの舞台背景増築の経緯との関連を考察し、『透視図法の実際』の位置づけに知見を加えうると考えている。平成25年度には、パート9の透視図法を描くための装置と周辺の歪に関して検討する。装置に関してはフィレンツェの科学史博物館やミラノのレオナルド・ダ・ヴィンチ博物館への調査を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度には、図形取り込みのためのスキャナーとデータ処理のためのパーソナルコンピュータ、およびバルバロが翻訳したヴィトルヴィウス『建築十書』イタリア語版等の書籍を物品として購入した。当初パーソナルコンピュータでなくワークステーションを予定していたが、計画書よりの減額のあめ変更し、物品費としては余裕ができた。ただし、スキャナーの読み取り精度を低く設定することで対応しており、画面精度、処理速度等の問題は残っている。画像処理ソフト、データ保存用のハードディスクには問題がない。外国旅費についてはパッラーディオの本拠地ヴィチェンツァを中心とした地域における劇場、教会堂等の建築物、および関連書籍調査を8泊9日間の現地滞在で実施したが、燃料費の値上がりなど想定以上の費用が掛かり、国内旅費については北九州での発表のためにのみ使用した。24年度については関連書籍の購入のみを物品費として計上し、消耗品費は特に予定していない。また、国内旅費については初年度と同様に関連書籍の調査旅費、発表旅費であるが、外国調査旅費によって変動が予想される。外国旅費についてはパルマ近郊の教会堂・劇場などの建築物、および関連書籍の調査のため10日間程度を予定している。昨年よりも費用が掛かることが予想され、昨年度繰り越し分をこの費用に充当する予定である。謝金等、その他については初年度と同様である。各費目について、全体経費の90%を超えることはない。
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Research Products
(1 results)