2011 Fiscal Year Research-status Report
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23656497
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
塩井 章久 同志社大学, 理工学部, 教授 (00154162)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 移動現象 / 自律運動 / 非平衡開放系 / 非線形現象 / 両親媒性分子 / ベシクル / 触媒粒子 / 生物型化学システム |
Research Abstract |
化学反応による能動輸送などの生物型移動現象過程が人工系で実現可能であることを示し,高い非平衡性を利用した生物的な移動現象過程の工学的応用に道を開くことを目的としている。計画では,(A)ベシクルをpHや電解質濃度の勾配に沿って一次元的に運動させること,(B)白金粒子を過酸化水素濃度の高い側に向かって一次元的に運動させること,を目的としており,本年度は,ベシクルや白金粒子を運動させるための濃度場の作成,および,ベシクル,白金粒子形状の工夫に焦点を当てて研究を行った。また,生物型移動現象の重要なモチーフであるイオン依存性のある自律運動についても研究を行った。 ベシクル運動については,塩化ジドデシルジメチルアンモニウム(DDAB)とオレイン酸を混合させたベシクルが,ヨウ化物イオンの存在下で,DDABを反応で消費しながら並進運動を行うことを確認した。このとき,ベシクルサイズの減少をともなうが,溶液のpHを精密に調整することでサイズを維持するように他のベシクルを吸収する挙動を示すことがわかった。この結果は,化学反応で持続的に運動するベシクルの作成にとって大きな意義を有する。 白金運動については,過酸化水素濃度勾配の作成を行い粒子の運動を観測した結果,濃度勾配が定常状態ではランダムでない運動を確認することはできなかった。一方,非定常濃度勾配下では,過酸化水素濃度が薄いとき,濃度の高い方向に,過酸化水素濃度が薄いときには,濃度の低い方向に泳動することがわかった。また,白金粒子(凝集体)形状の影響を検討した結果,凝集体形状によって運動の様相は異なるものの,すべての運動が,粒子の自転,公転と公転中心の運動という要素を組み合わせることで表現できることがわかった。 また生物型移動現象を実現するための一つの要素である,環境のイオンに応答した運動を示す界面のデザインについても成果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベシクル系について,化学反応で持続的に運動するものを実現できる可能性を見出しており,運動の特徴がpHに鋭敏に依存することを見出したことは,本申請課題の目標の大きなブレークスルーであると考えられる。 微粒子系について,非定常濃度勾配が必要である可能性を示したことは,微粒子運動が単純なdiffusiophoresisではなく,非平衡開放系固有の機構に基づいている可能性を示している。これは,微粒子運動の機構を研究する上で,重要な手がかりである。 これらの点を解明したことは,生物型移動現象を実現するための重要な成果であると考えられる。また,生物型移動現象の重要な特性である,環境のイオンに応答して特徴的な運動を示す界面について成果を得たことは,次年度の研究の進展にとって重要なステップであると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降はベシクル系,微粒子系に加えて,油水界面系(液滴系)も対象として,化学反応で自律運動する物体から,一方向運動を抽出し,化学ポテンシャル勾配に関係のない物質移動を実現することを目指す。化学反応で駆動されるベシクル,微粒子,液滴は,通常,方向の定まらないランダムに近い運動を示すが,これにラチェット機構を組み込むことで,一方向運動を実現することを目指す。 液滴系を中心に,運動の発生にイオン依存性を持たせることも想定しており,このためには,初年度に成果の出たイオン依存性の運動を示す油水界面の性質を利用する。 研究が順調に進展すれば,ベシクルや液滴にに内包した物質を,溶液内の目的場所まで能動輸送する試作的システムを考案する。このときには,内包物質の自発的取り込みと,目標地点での放出が必要となる。現段階では,それぞれの場所での溶液環境の違いを利用して,これを実現することを考えているが,これが真に能動輸送になっているかの理論的検討が必要となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
翌年に請求する経費は,実験に要する薬品,光学部品などの消耗品,学会発表のための旅費に使用する予定である。本研究は,顕微鏡による偏光観察,蛍光観察,共焦点観察などが必須であるが,このための光学系の消耗品などに多額の予算が必要であると予想される。
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