2011 Fiscal Year Research-status Report
ニホンザルのキノコ食を通じた菌類の胞子散布機構の解明
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23657018
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
半谷 吾郎 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (40444492)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 菌類 / 霊長類 / ニホンザル / 屋久島 / 胞子散布 / 多様性 / 行動パターン |
Research Abstract |
本年度は、屋久島のニホンザルが採食したキノコの分子種同定を中心に行った。サルが食べるキノコを、形態的に同定することが困難であることが、サルのキノコ食についてのすべての研究の隘路となっていたため、種を明らかにすることは、研究を進める上で、まず行わなければならない基礎的で重要な事項である。その結果明らかになったことは、以下の通りである。 まず、屋久島の野生ニホンザルが67種 (31属) という非常に多様なキノコを食べることが明らかになった。サルの採食行動パターンを段階的に、(1) キノコに遭遇したとき、(2) 手に取ったとき、(3) 検査行動(におう・かじる)をみせたとき、(4) 食べたときに分けて分析したところ、ニホンザルは (1) の段階で他のキノコより食用キノコを、(2) の段階で毒キノコより他のキノコを選択していた。また、(4) の段階で、他のキノコに比べて、食用キノコならば全部食べ終わることが多く、毒キノコならば途中で食べるのをやめることが多かった。これらのことから、食用キノコの選択、毒キノコの回避のいずれにおいても事前の知識と味覚が重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、繰り返し食べられるキノコ属を比較したところ、有毒種を多く含むテングタケ属のキノコを手に取った際には検査行動が多くみられることから、ニホンザルが毒キノコについて属レベルで何らかの知識を持っていると考えられる。また、繰り返し食べられるキノコ種に対する行動パターンに一貫性がみられる傾向があり、ニホンザルが種レベルでも知識を持っている可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の最大の進展は、キノコの分子種同定ができたことである。サルが食べるキノコを、形態的に同定することが困難であることが、サルのキノコ食についてのすべての研究の隘路となっていたため、種の同定は、研究の進展のために必要不可欠な段階であった。これができたことは、大きな成果であったといえる。 その結果明らかになったことは、まずサルが食べるキノコが、67種もの非常に多種類におよんでいることである。サルが非常に多くの種類の菌類とキノコ食を通じて関係を持っているということは、サルが菌類の多様性維持に貢献するための、前提条件を満たすものである。これは、当初予想していなかった成果である。本研究が、単にサルによる胞子散布の実証にとどまらず、霊長類が生態系で果たす役割にまで研究を発展させる余地があることを示した点で、予想以上の成果であったといえる。 また、サルの行動パターンの分析は、サルが毒キノコをある程度は事前に知っている一方で、その知識は完全ではなく、ある程度は実際に食べてみてから判断していることを示している。これらの事実は、毒性というキノコの性質が、サルに食べられるかどうかというキノコの運命に影響しうることを示している。キノコの形質とキノコ食の解明は、本研究の大きな柱のひとつであり、そのような特性のうち、もっとも興味深い毒性について、順調な成果を挙げることができた。 一方、サルによる胞子散布の実証については、情報収集の過程で、さまざまな技術的な困難が明らかになり、現在のところはまだ実際の調査に着手していない。この点については、遅れが見られる。 このように、予想以上の成果が挙げられた点、予想通り順調に進展している点、遅れている点があり、総合的にはおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、以下の二つの研究を推進する。 第一に、キノコの属性がサルの食物選択に与える影響を明らかにする。このことは、キノコのもつさまざまな属性が、サルによる胞子散布を促進・抑制することを通じて、金の適応度に貢献し、それがその属性の進化を引き起こす、という仮説の検証の一部をなすものである。具体的には、屋久島で行ったキノコのフェノロジー調査で出現したキノコを分子種同定する。すでに種同定の終わっている行動観察中にサルが食べたキノコとあわせて、「サルが利用可能だが食べなかったキノコ」と、「サルが食べたキノコ」の種の一覧を作成する。この二つを比較して、毒性、栄養成分、色、堅さ、基質(地面か枯れ木か生木か)、菌根菌か腐生菌か、などのキノコの属性と、サルによる食物選択の関連を明らかにする。 第二に、ニホンザルのキノコ食を通じた菌類の胞子散布を実証する。サルの糞の中には、さまざまな異物が入っているため、まずキノコだけを食べさせることが可能な、昆虫やマウスを使って、糞の中に含まれている胞子を顕微鏡下で観察する方法を開発する。その手法をもとに、屋久島でこれまでに収集したサルの糞、および餌付けされている野生ニホンザルにキノコを給餌したあとに回収した糞を、顕微鏡下で観察し、糞の中の胞子がどのような状態になっているか(破壊されているかどうか)を、顕微鏡下で観察する。また、キノコを食べたサルの糞を培地上で培養し、サルが食べたキノコに由来する菌の胞子が発芽することを確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も、キノコの分子種同定に多くの時間が必要となる。フェノロジー調査で得られたキノコの試料の数は、ほぼ行動観察中に集めたキノコの数に匹敵するため、実験には今年度同様、長い時間がかかると予想される。そのため、分子種同定の実験を行うための教務補佐員を雇用し、実験に従事させる。そのほかに、追加の野外調査のための屋久島への旅費、分子種同定のための消耗品などに使用する。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Dietary adaptations of temperate primates: comparisons of Japanese and Barbary macaques2011
Author(s)
Hanya G, Ménard N, Qarro M, Ibn Tattou M, Fuse M, Vallet D, Yamada A, Go M, Takafumi H, Tsujino R, Agetsuma N & Wada K
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Journal Title
Primates
Volume: 52
Pages: 187-198
DOI
Peer Reviewed
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