2012 Fiscal Year Research-status Report
中心体から得られた新奇DNAの真核生物における網羅的探索
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23657067
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
日野 晶也 神奈川大学, 理学部, 教授 (00144113)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河合 忍 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (00409989)
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Keywords | centriole |
Research Abstract |
本研究の目的は中心体を有する真核生物に、イトマキヒトデの中心体画分より発見した新奇DNA配列が保存されるのではないかと予測し、真核生物における新奇DNAの塩基配列の網羅的探索を試み、得られた塩基配列の比較から系統進化の新たな分子マーカーとしての可能性を探ることを目指す。 研究実施計画として、ヒトデの新奇DNA配列をもとに約500 bpが増幅可能なプライマー(CSプライマー)を設計した。CSプライマーはこれまでにヒトデ以外の動物からも相同な塩基配列が増幅されている。また、精子に中心体と相同な鞭毛基部体をもつコケ植物の精子やイチョウからもCSプライマーによる相同DNA配列が検出されたことから真核生物の植物にも保存されることが示唆された。当該年度は、線虫についてCSプライマーによる相同DNAの検出と塩基配列を決定し比較解析を行った。その結果、節足動物門のDrosophila と線形動物門のC. elegansがDNAレベルで98%以上の極めて相同な塩基配列を有することが判明した。異なる動物門における相同性としては他に例のない保存性の高いDNA配列であることが異なる動物門で示唆された。当該年度の計画としては他に、典型的な中心小体を有する真正粘菌のフィザルムを培養しDNA抽出を試みた。粘菌はアメーバとしての状態の細胞塊を集めて動物細胞用のDNA抽出法でtotal DNAの抽出を試みたがDNA抽出できず、植物細胞用のDNA抽出法に改良したところDNAの抽出に成功した。当該年度はフィザルムのDNA抽出の他、植物ではソテツからDNAの抽出及びPCRによるDNAの増幅を試みたがDNAの配列決定には至らなかった。今後はこれらのPCR産物の塩基配列の決定を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は動物界については、節足動物門と線形動物門についてはDNAの抽出とPCRによる増幅及び塩基配列の解析と比較を行いイトマキヒトデ精子中心体の画分より発見した新奇DNAと類似の塩基配列がこれら異なる動物門にも保存されることを明らかにした。さらに、今回配列決定に成功した線形動物門の線虫と節足動物門のショウジョウバエの新奇DNA類似相同塩基配列については、98%以上の極めて高い保存性と類似性が検出された。この結果はこれら動物門の塩基配列の比較において、他のどの遺伝子や類似配列よりも高い保存性を示す結果であり、新奇DNAの塩基配列がこれらの動物においても極めて重要な意味を持つと考えられる。 同様の比較結果は既に植物界のコケ植物門と裸子植物門のイチョウの間でも得られている。しかし、裸子植物のソテツについてDNAの抽出とCSプライマーによるPCRによる相同DNAの増幅条件の検討を試み、増幅可能であることは確認できたが塩基配列の決定に至っていない。また、粘菌については培養及びDNA抽出など目的の達成に向けて進んではいるものの、PCR産物の安定した増幅と塩基配列の決定には至らなかった。当該年度はさらにオピストコンタとして動物と並び同類を形成する菌類についても、中心小体を有するツボカビ類を用いたDNA解析を計画していたが着手するに至らなかった。以上の結果より、成果は積み重なってきているものの、必ずしも順調とは言えない。次年度では分担者の増強をはかり研究を完成させたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の山場にかかっていると考えている。新奇DNAはイトマキヒトデの中心体の画分から発見したDNAであるが、予測した新奇DNAの類似配列は、既に多様な動物から相同塩基配列が検出されており、その相同性は真核生物において、動物をはじめ植物に至まで、他に類を見ない高い相同性と生物間で広い保存性を保持する結果を得ている。 動物群、植物群については、検出された全てのDNAの相同性が95%以上であり、現在解析中の粘菌類をはじめ、今後は菌類群についても動物、植物と同様の保存性の有無を調査解析する。菌類については、接合菌類の研究や広く菌類の進化や分類を専門とする筑波大学の出川洋介助教に研究分担者として参加してもらうことで最新の菌類学の立場からの学識を補強することで中心体を有する菌類と中心体を失った菌類、さらには動物における線虫の中心小体と類似したシングレットの中心小体を有する菌類のBasidiobolusについても出川氏の協力により解析を進めることで、真核生物の動物、植物、菌類、アメーバ類、原生生物の体系的解析結果をまとめる計画である。 最終的には、ヒトデ新奇DNAの配列として発見した特異配列を活用して、真核生物の生物進化における新たな共通分子マーカーとして広く活用できる指標DNAとして提案を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費については、研究計画の推進により前年度に解析が予定されていた網羅的解析のための塩基配列決定に必要な解析費として使用する。具体的には、粘菌やソテツ類、菌類からの相同配列の検出及び配列決定のためのシーケンサーの試薬、消耗品に当てる。また、当該年度に着手できなかった菌類を含めた網羅的解析のために、菌類の中心体に見識の高い筑波大学の出川洋介助教を新たに研究分担者として加えることで、協力して多種多様な菌類の中から菌類の中心体の多様性と関連づけながら、材料選択と調達費用に当てる。また、新たに加わった出川氏との研究連絡会の旅費と多様な生物の飼育、培養に関わる試薬等に当てる。イトマキヒトデの新奇DNAの保存性が真核生物の多様性の中でいかに保存れているかを解析することで、1つの分子マーカーで広範囲の真核生物の進化の流れを見出すことができると確信している。新奇DNAの保存性が確認された生物種については細胞レベルで局在性が確認できればin-situ PCR法による相同配列のDNA局在についても細胞レベルでの検出を行うための蛍光プライマーと検出用の試薬購入に使用する。またイトマキヒトデの新奇DNAの特殊性をより構造生物学的に解明するために、原子間力顕微鏡による微細構造解析の費用に使用する。新奇DNAはゲノム以外に真核生物に広く保存される新奇のDNAであることが示唆されており、この新奇性を国内外に発表するとともに国際誌への論文発表に研究費を当てたいと考えている。
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