2011 Fiscal Year Research-status Report
SRP経路を介した膜局在化による熱ショック転写因子シグマ32の分解機構
Project/Area Number |
23657128
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森 博幸 京都大学, ウイルス研究所, 准教授 (10243271)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | シグマ32 / SRP / FtsH / SecY |
Research Abstract |
熱ショック応答に関わる転写因子σ32は短寿命であり、膜プロテアーゼFtsHにより分解を受けるが、その分解機構は明らかではない。分子シャぺロンDnaKJ, GroEL等によりσ32の分解が制御されている事も知られているが、その役割も不明である。研究協力者の由良らは、「σ32は、SRP経路により細胞質膜上のトランスロコンにターゲットされ、その後FtsHに受け渡されて速やかに分解される。」との独創的な作業仮説を提唱した。本研究では、σ32を対象とした部位特異的in vivo光架橋実験を行い、上記作業仮説を分子レべルで裏付け、SRP、トランスロコンの新たな機能の解明を目指す。具体的には光反応性のアミノ酸アナログpBPAを部位特異的に取り込ませたσ32変異体を発現した大腸菌株を用いて、光架橋実験を進め、特異的抗体を用いたimunoblottingあるいは質量分析により相互作用因子を同定する。当該年度は、架橋産物の精製を視野に入れアミノ末端にHis6タグを持つHis6-σ32を構築した。作製したタグ融合体は、野生型σ32と同程度の転写活性を持ち、FtsHにより分解を受ける事を確認した。更に、このタグ付きσ32をコードするplamsidを材料に、σ32分子内の2.1領域(分子シャぺロンに応答した分解において重要な領域)を中心として19種類のpBPA導入体を作製し、予備的in vivo光架橋実験を行った。その結果、2.1 領域を含む幾つかの部位において、UV照射に依存した複数の架橋複合体の形成を確認した。分子シャぺロンDnaK, DnaJに対する抗体、あるいはSRPの因子の1つであるFfhに対する抗体を用いたimmunoblottingの結果から、σ32分子は、分子シャぺロンDnaK, JやSRPと相互作用している事が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、上記研究目的達成の為の材料作りと、予備実験を行った。精製の為のタグ導入によっても野生型σ32とほぼ同程度の活性を保持していることも確認でき、作製した材料が今度の実験に使用可能性である事も解った。更に、19種類のpBPA導入体を作製した予備的なin vivo光架橋実験により、架橋形成が予測されたDnaK, DnaJタンパク質に加えて、本研究課題において最も注目しているSRP (signal recognition particle)のタンパク質構成因Ffhとの架橋も確認できた。この結果は、σ32の分解において、SRP経路が関与している事を強く示唆するものであり、本研究において極めて重要かつ大きな成果と言える。その点で、本研究は概ね順調に進展していると言える。 その一方、DnaK, DnaJ, Ffhの関与は明らかになったものの、それ以外にも複数の部位で多数の架橋複合体が得られており、その同定には未だ至っていない。これは、研究に用いる大腸菌株とpBPAをタンパク質内に取り込ませる際に使用するplasmidとの相性の問題等もあり、実験のセットアップの為に種々の株を検討する必要があり、多くの時間を必要とした為である。当初、架橋複合体をHis6タグ配列を利用して精製し、質量分析による解析の目処を研究1年目につけておく予定であったが、この部分の検討はまだ十分に行われておらず、質量分析用に予定していた予算を十分に消化することが出来なかった。この点は研究計画を見直して、2年目の24年度に速やかに進めて行く必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
上でも述べたように、平成24年度は、未同定の架橋複合体の質量分析による解析を中心の一つに据えて研究を推進する。具体的には、架橋産物をHis6タグ配列を利用した親和クロマトグラフィーにより精製し、SDS-PAGEにより架橋産物を分離した後に、そのバンドをゲルから切り出し、質量分析で解析する。新規タンパク質因子が同定された際には、その因子に対する抗体を作製し、データの妥当性を評価する。SRPの関与を示唆する結果は既に得られているので、今後は、SecY, FtsHとの相互作用に特に着目して解析を進める。 σ32の分解におけるSRP, SecY, FtsHの関与、並びに分子シャペロンが寄与する過程の同定を目指して、ftsY, secY, ftsH変異株中でのin vivo光架橋実験を進め、架橋複合体形成パターンの変化等を検討する。更には、σ32が合成されてから分解に至るまでの、SRP, SecY等の各因子との相互作用の移り変わりを、pulse-chase実験と in vivo光架橋実験を組み合わせる事により検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
既に述べたように、架橋複合体の質量分析の遅れにより、平成23年度に申請した予算の多くを24年度に持ち越す事になった。初年度消費できなかった研究費の多くは、架橋複合体の質量分析解析用の費用に当てる。加えて新規のタンパク質が同定できる可能性もあるので、その場合には、そのタンパク質に対する抗体作製用の費用に当てる。 各変異株を用いてのin vivo光架橋実験は、研究室の現有の機器で十分可能であり、新規の機器を導入する必要はない。そのため、平成24年度の研究費は、菌の培養に関するランニングコストや、プラスチック等の消耗品、変異体作製の為のオリゴプライマー合成の費用、変異の確認の為のDNA配列解析にかかる費用等に当てる。また、放射性同位元素を用いたpulse-chase実験を行う為に、35S標識したメチオニンの購入費用にも用いる。
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