2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23657149
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Research Institution | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
Principal Investigator |
川口 将史 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 微細構造研究部, 流動研究員 (30513056)
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Keywords | 生殖的隔離 / 生態学 / 神経解剖学 / 神経回路形成 / c-fos |
Research Abstract |
前年度にクローニングしたc-fos遺伝子のヨシノボリホモログ(Rfc-fos)を用いて、薬剤処理により強制的に神経活動を惹起させたカワヨシノボリの脳でin situハイブリダイゼーションを行った。その結果、惹起前にはRfc-fosの発現はあまり見られないのに対し、惹起後30分で脳全体にシグナルが強く検出された。このことからRfc-fosは、神経活動の履歴標識に有用なツールとなる事がわかった。 次にカワヨシノボリ雄に求愛行動をとらせ、30分後に脳を採取した。Rfc-fosの発現パターンを調べた結果、嗅覚に関わる背側野内側部や視覚に関わる視蓋・浅視蓋前域・糸球体核・下葉、情報中継核である視床・糸球体前核複合体、情動や求愛行動に関わる手綱核・視床下部・視索前野などにシグナルが確認された。一方、異種であるオオヨシノボリ雌に対し、カワヨシノボリ雄は攻撃行動を示した。攻撃開始後30分の脳では、背側野内側部や視床下部などにRfc-fosの発現が見られたが、同種雌に対する求愛時と比べて検出される脳領域は少なかった。マウスの雄では、視床下部のVMHvlが攻撃行動の中枢であり、交尾時にはこの領域が抑制される(Lin et al, 2011)。このことから、カワヨシノボリ雄の求愛時には、攻撃行動を抑制しながら求愛行動の神経回路が活動しており、そのために攻撃時より多様な脳領域が活動していると考えられた。 これまで生態学の分野では、繁殖行動における雌雄の駆け引きを観察し、繁殖戦略や種の進化に関する考察が試みられてきた。しかし、そのような行動の神経基盤に関する研究はなされてこなかった。今年度の研究成果は、生殖的隔離に関わる同種・異種の識別における、脳内の神経活動の可視化を試みたものであり、生態学が培ってきた野生動物の行動に関する知見に神経科学の視点から新たな切り口を見出した点で、極めて重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究から、Rfc-fosが神経活動の履歴標識に有用である事がわかり、実際のカワヨシノボリ雄の脳内で、同種と異種の雌に対し、行動の違いを反映する神経活動の違いを可視化する事に成功した。この点については、今年度開始時点で期待されていた結果を得る事ができ、当該研究課題を大きく進展させられたと考える。しかし、現在使用しているRfc-fosプローブはエクソンに対して設計されたものであり、行動後30分で発現パターンを検出しているため、時間解像度が低い。この問題を克服し、種の識別に関わる神経活動と実際の行動に関わる神経活動を分離して観察するため、イントロンプローブの活用を進めるべきである。すでにRfc-fosイントロン配列はクローニング済みである。また、求愛行動に関わる視床下部に関して、ヨシノボリ種では神経核レベルでの地図が存在しない。求愛行動や攻撃行動で活動が見られた視床下部の神経核を同定する事は、行動と神経回路の関係性を論じる上で極めて重要である。このため、マウスの発生過程において視床下部の領域化に関わる事が報告されている転写因子群(Shimogori et al, 2010)をヨシノボリでクローニングし、比較解剖学の見地から、ヨシノボリの視床下部について神経核の地図を作製する必要がある。この他にも、神経回路形成に関わる軸索ガイダンス因子をクローニングし、求愛行動や攻撃行動に関わる神経回路の構築に関わるガイダンス環境の同定を進めていかなければならない。以上のように、進展した部分は大きいものの、本研究課題の当初の目的を達成するためには、まだまだクリアしなければならない問題点は多いと考えるため、達成度としてはやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、今後進めて行かなければならない点は、1) Rfc-fosイントロンプローブを用いた時間解像度の高い神経活動標識法の確立、2) 視床下部領域化因子による、ヨシノボリ脳における視床下部地図の作成、3) 求愛行動や攻撃行動に関わる神経回路の構築に関わるガイダンス環境の同定、である。またこれに加え、4) GAD65やVGLUT2など各種神経細胞マーカーを用いて、行動に伴ってc-fosを発現した神経細胞を性状分類する必要がある。神経細胞マーカーに関しては、市販の抗体を用いて解析を進められる可能性もあるが、c-fosの発現パターンと同時に解析するのであれば、蛍光二重in situハイブリダイゼーションを行うことも視野に入れる必要がある。また、視床下部領域化因子や軸索ガイダンス因子については、in situでの解析が必須である。以上の事を考えると、非モデル動物であるヨシノボリ種で、多くの遺伝子をクローニングする必要がある。そこで現在、遺伝子の効率的なクローニングを進めるために、次世代シークエンサーの利用を計画している。 また、水槽内での行動観察と脳の採取についても、継続して進めていく必要がある。例えば、カワヨシノボリ雄で同種・異種の雌に対する応答の違いと神経活動パターンの違いを見出したが、オオヨシノボリ雄でも同様の差異が観察されるのかどうか調べる必要がある。また、同一雄個体に同種雌に対する求愛行動と異種雌に対する攻撃行動をとらせ、それぞれの行動で活動する神経細胞が一致するかどうかについても、イントロンプローブとエクソンプローブの併用により確認が可能となる。これらの解析を進めるため、平成25年度も愛媛県立松山南高校の松本浩司教諭との共同研究を計画している。平成24年度と同様、ヨシノボリの河川での捕獲・飼育と水槽実験は愛媛県立松山南高校で、組織学的解析は申請者の研究室で進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の通り、愛媛県立松山南高校との共同研究を進めるため、平成25年度の研究費でも出張旅費を計上する。松本浩司教諭が愛媛大学付属高校から愛媛県立松山南高校に異動になり、赴任先の高校で新たに水槽実験を行う環境を整える必要があるため、水温管理のための設備を購入する予定である。また、申請者自身も今年度から富山大学 医学部 解剖学講座に異動したため、組織学的解析を進めるための環境を整える必要があり、試薬および機器の購入を予定している。また上記の通り、遺伝子のクローニングを効率的に進めるため、次世代シークエンサーの使用を計画している。 また、研究成果を発表するため、学会参加や論文作成のための経費を計上する。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Nervous system disruption and concomitant behavioral abnormality in early hatched pufferfish larvae exposed to heavy oil.2012
Author(s)
Kawaguchi M*, Sugahara Y*, Watanabe T, Irie K, Ishida M, Kurokawa D, Kitamura S, Takata H, Handoh IC, Nakayama K, Murakami Y
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Journal Title
Environmental Science and Pollution Research
Volume: 19
Pages: 2488-2497
DOI
Peer Reviewed
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