2012 Fiscal Year Research-status Report
ピンクのカマキリはどうやって生まれたか:花に擬態するランカマキリの体色進化の解明
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23657162
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
真野 弘明 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 特別協力研究員 (80376558)
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Keywords | ランカマキリ / 色素 / 体色 / 酸化還元 / キサントマチン / 擬態 / カマキリ / 自己凝集体 |
Research Abstract |
研究実施計画に基づき、ランカマキリの体色を生成するキサントマチン色素群の生化学的解析を行った。 1.3-ヒドロキシ-L-キヌレニンの精製方法の確立およびこれを用いた天然型キサントマチン色素群の合成。キサントマチン色素群の解析において、これまでは天然に存在するL体ではなく、3-ヒドロキシ-DL-キヌレニンから合成したDL体の色素分子を使用していた。昨年度に同定した色素プレキサントマチンには不斉中心が2か所存在しており、ジアステレオマー間で分子挙動が大きく異なる可能性がある。また、後述のようにキサントマチンには自己凝集体を形成する性質があり、この点においてもDL体を用いた解析では問題となり得る。そこで、生体材料から天然型色素およびその前駆体を精製することにした。具体的には、まず褐色型のオオカマキリを材料として用い、L体のキサントマチンを精製した。次に、L型キサントマチンを酸化的条件化で分解することによって、色素合成の前駆体である3-ヒドロキシ-L-キヌレニンを生成・分離した。最後に、これを用いて色素を化学的に再合成し、必要な全ての色素に関してL体の分子を得ることに成功した。 2.キサントマチン自己凝集体の解析方法の確立。ランカマキリのピンク色は、キサントマチン分子の自己凝集体によって生成されると考えられる。しかし、キサントマチンの自己凝集体がランカマキリの生体内に存在することの証明は行われていない。そこで、生体内の色素状態の解析を目指し、凝集体と単体色素を分離する手法の開発を試みた。その結果、抗酸化剤としてアスコルビン酸ナトリウムを添加したゲルによる電気泳動により、合成色素の凝集体と単体を易動度の差異により区別することができた。現在、生体サンプルからの抽出物を用いた実験により、ランカマキリ生体内におけるキサントマチン凝集体の存在を確認中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究成果により同定された新奇色素プレキサントマチンには不斉中心が2か所存在しており、立体異性体に関するより慎重な取り扱いが必要となった。L体の色素合成にはL体の前駆体である3-ヒドロキシ-L-キヌレニンが必要であるが、当該分子の商業ルートを通しての入手が不可能であると判明したため、生体材料を元に自らの手で調整する必要性が生じた。また、キサントマチンの自己凝集体の解析方法に関しては、交付申請段階では有効な方法の模索中であったが、今回新たな着想を得て実験計画を立案した。このように、本年度の研究成果は交付申請書に記載の年間計画とは若干細部が異なるものの、これらは全て予期せぬ発見および新たな着想による計画の変更であり、また研究の目的である「一般的な色素キサントマチンがどのようにランカマキリ特有の体色を形成しているのか?」に対して完全に合致した内容である。これら新規の実験に関しての経過は「研究実績の概要」欄に記載のとおり順調であり、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果により、天然に存在するL型色素を用いた研究および色素凝集体の解析が可能になった。平成25年度はこれらの成果を活用し、ランカマキリの体色生成におけるキサントマチン色素群の化学的挙動を明らかにし、その成果を論文として発表する。また、体色パターンが大きく異なるランカマキリの1齢幼虫と2齢幼虫の間でトランスクリプトームの比較解析を行い、関連する候補遺伝子群の同定を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費のうち、約90万円を次年度へと繰り越した。当初は50万円程度を3-ヒドロキシ-L-キヌレニンの受注合成の費用として予定していたが、化学メーカーへの問い合わせの結果、技術的な困難により合成が不可能と判明した。代替手法として生物試料からの当該物質の抽出を選択した結果、既存の物品および屋外に生息する生物試料を利用できることが判明し、研究費用を大幅に抑えることができた。一方で、必要な作業量が増加した結果、当初計画していたいくつかの実験(発現RNAの大規模シーケンス等)に関しては予定よりも進展が遅れ、関係する経費(40万円)を持ち越す必要性が生じた。このような研究の進展にともなう計画変更は予想できない性質のものであり、また研究の遂行において必要不可欠であるため、当該研究費の繰り越しは正当な理由である。繰り越し分を含めた研究費の使用計画としては、平成25年度分の交付額に関しては交付申請書記載の実験計画の遂行にあて、繰り越し分の約90万円に関しては、40万円をRNA大規模シーケンスの費用として用い、残りの50万円に関しては実験補助人員を新たに雇用するための経費とし、研究遂行の効率化をはかる予定である。
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Research Products
(2 results)