2011 Fiscal Year Research-status Report
イソチオシアネート熱分解物によるポリフェノールオキシダーゼ抑制と食品加工への応用
Project/Area Number |
23658107
|
Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
橋本 啓 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (10237935)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | イソチオシアネート / ポリフェノールオキシダーゼ |
Research Abstract |
本研究では、アリルイソチオシアネート(AITC)熱分解物に含まれる、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)抑制活性成分の精製を進め、また阻害様式を検討した。 所定の濃度のAITC溶液をネジ蓋付き試験管に採り密栓後、ブロックヒーター又は水浴中で加熱処理をした。PPO抑制活性のアッセイには、酵素としてマッシュルーム由来のPPOを、基質としてL-DOPAを用い、490 nmにおける吸光度の上昇をマイクロプレートリーダーを用いて測定した。酵素活性は単位時間あたりの吸光度の変化で評価した。AITC熱分解物は逆相短カラムに吸着させた後、順次溶出液のアセトニトリル濃度上昇させて溶出することにより分画した。凍結乾燥物をPPO阻害活性のアッセイやHPLCによる分析・分画に供した。HPLCによる分析・分画では、カラムとしてDevelosil C30-UG-5などを用い、溶離液にはアセトニトリルと0.1% TFAの混液を用いた。 AITCには1割程度の弱いPPO抑制活性しか認められなかったが、加熱と共に抑制活性が上昇した。抑制活性は加熱温度と時間に依存し100℃で15分間処理することにより約9割抑制し最大となった。加熱処理されたAITC溶液の逆相短カラムによる分画物を、HPLCで更に分画し、得られた各画分について、PPO抑制活性のアッセイを行い活性物質の単離同定を進め、これまでのところ、部分構造としてC=Sを持ち、O原子を含む環状化合物であると推定されている。一方、Lineweaver-Burkプロットにより阻害様式を検討した結果、AITC熱分解物によるPPO阻害は混合型非拮抗阻害であると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分析条件を検討した結果、AITCを熱処理した際の、AITCの減少と、それにともない新たに生成される化合物のピークをODSカラムを用いた逆相HPLCにより分析することが出来た。さらに、AITC熱分解物や、そのカラムによる分画物について、PPO活性に及ぼす影響を検討するためのアッセイ系は構築され、活性ピークを同定することが出来た。しかし、活性物質の構造については、部分構造が示唆されたものの全容を明らかにするにはいたらなかった。しかし、濃度依存的にPPOを抑制するような化合物がHPLCにおけるシングルピークとして単離することは出来たので、当初の計画にほぼ沿った方向で研究は進展していると考えている。 また、化合物を明らかにするばかりではなく、その活性の機構についても十分な研究の進展が見られた。すなわち、AITC分解物や酵素濃度を変えてアッセイを行い阻害の形式を明らかにすることも出来、混合型非拮抗阻害であることが示された。 以上の結果より、熱不安定なAITCなどの芥子油化合物の加熱は、その発がんリスクの低下や抗菌性など期待される生理活性の低下をもたらすという従来の知見の一方で、加熱をするからこそ発現する機能性があることを明らかにするという研究の目的を十分に押し進めることが出来ていると考える。従って、ダイコンやキャベツなど芥子油を豊富に含む食品の加熱調理の意義を新たに提案するためのデータが揃い始めており、研究は概ね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
AITC加熱分解物については、活性物質の同定を進める。また、活性がAITCに特有なものであるのか、あるいは広く芥子油化合物に当てはまるものであるのか、すなわち汎用性のある知見であるのか否か検討を進める。アブラナ科野菜やその加工食品中の活性物質の定量 ITCはワサビ、ダイコン、キャベツ、白カラシなどのアブラナ科野菜に特有の成分である。そこでこれらの野菜や、その加工食品、更にはワサビフレーバーを利用した加工食品などについて、そのホモジネートを調製し逆相短カラムなどで分画後、PPOの活性に及ぼす影響を調べる。これらの研究により、PPO阻害物質が、「調理加工の過程で生成され、日常的に食品から摂取している」ものであるのかどうかが明らかとなると期待される。 ナスの紫色素であるナスニンなどのアントシアニン系の色素はクロロフィルの緑色以外をほとんどカバーできるほどその色調が豊富であるが、非常に不安定でPPOによる褐変化も起こり、食品への応用がしにくい場合もある。PPO抑制物質が見出されれば、食品への利用性向上が進むばかりではなく、食品加工時に生じる廃液中に含まれるアントシアニンの安定的かつ効率的な回収法にもつながるものと期待される。そこで、PPO抑制物質を共存させながらアントシアニンを抽出しHPLCにより定量することで、不安定なアントシアニン系色素であるナスニンなどの安定性にPPO抑制物質が及ぼす影響を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度末にHPLCシステムを制御するためのソフトウェアを導入したが、支払いが平成24年度となったため、平成23年度の予算がこのソフトウェア分だけ残った。その費用368,550円は次年度の請求となった。 平成23年度は概ね順調に研究は進行し、また、研究費の使用においても予定通りの進行状況であったので、平成24年度は当初の計画に沿って研究費を使用する予定である。すなわち、分析を進める上で必要となる試薬類やプラスティック器具類を消耗品費として計上した。また、サンプル精製やアッセイを進めるための研究支援雇用費も計上した。 さらに、研究成果を学会において公表するための国内旅費も計上した。以上の予定に沿って研究費を使用することで、円滑に研究は進展し、当初の研究目的を達成できるものと考える。
|
Research Products
(1 results)