2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒト歯髄幹細胞の培養上清をもちいた中枢神経再生療法の開発
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23659914
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上田 実 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00151803)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 朗仁 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50244083)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / 歯髄幹細胞 / 培養上清 |
Research Abstract |
中枢神経は脊髄損傷、脳虚血、神経変性疾患などにより深刻なダメージを受ける。これまでこれ ら難治性神経疾患に対する有効な治療法はなかった。我々は、ヒト乳歯、および智歯永久歯に含 まれる幹細胞を用いた難治性神経疾患治療の開発を目指してきた。これまでに名古屋大学医学系 研究科・倫理委員会の承認を受けて、口腔外科学講座で脱落乳歯・抜去した智歯から幹細胞を採 取した。性状解析と神経再生機能について解析を行った結果、これら幹細胞は難治性神経疾患に 優れた治療効果を発揮するための下記4つの性質を兼ね備えていることが明らかとなった。(1)神経保護作用:組織損傷による神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトのアポプト ーシスを強力に抑制する。(2)神経軸索伸長作用:組織損傷によって切断された、神経軸索を伸 長し、新たな神経ネットワークの形成を促進する。(3)神経幹細胞様の分化能:神経細胞、アス トロサイト、オリゴデンドロサイトへの分化誘導に高い反応性を示す。(4)移植安全性:自己幹細 胞であるため、移植における安全性が高く、倫理的問題も極めて少ない。さらに、脊髄を完全に切断した「ラット脊髄損傷モデル」を用いて検討した結果、急性期におけ る歯髄幹細胞の移植によって下肢の運動機能が回復するという、驚くべき治療効果を見いだした。我々はこの神経再生活性の多くが歯髄幹細胞の産生するパラクライン因子によるものと考えている。本研究では、歯髄幹細胞の培養上清に含まれる成長因子群の神経再生効 果、および神経再生阻害シグナルの抑制効果をinvitro 細胞培養系とinvivo脊髄損傷モデルで解析し、新しい神経再生医薬品開発の可能性を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
末梢神経は損傷後に再生しやすいが、中枢神経(大脳や脊髄)が再生することはほとんどない。中枢神経の再生が起こらないもっと大きな理由は、「損傷後の中枢神経系に再生軸索の伸長を 阻害する種々の因子が存在する」ことだと考えられている。これまでに下記2つカテゴリーの神経再生阻害因子が同定されている。これら神経再生阻害因子の存在下でも神経細胞死を抑制し、 軸索の伸長効果を発揮する薬剤は見いだされていない。(1)ミエリン関連糖蛋白(MAG)や Nogo-A など:もともと脳や脊髄の白質(有髄神経線維の多い部 分)の髄鞘に存在する軸索伸長抑制タンパク質。(2)グリア瘢痕の主要構成分子であるコンドロイチン硫酸:損傷後にはグリア細胞であるアストロ サイトが損傷部周辺で増加し(反応性アストロサイト)、受傷後1週間程度(亜急性期)からグリ ア瘢痕を形成する。このグリア瘢痕由来のコンドロイチン硫酸が神経再生を阻害する。今回我々は、歯髄幹細胞の培養上清が様々な神経再生阻害因子の効果を抑制し、神経突起の伸張を促すことを見いだした。骨髄間葉系幹細胞や皮膚線維芽細胞の培養上清にはこのような神経再生活性が検出できなかった。さらにpre-liminaryな解析結果ではあるが、ラット圧挫型脊髄損傷モデルに歯髄幹細胞の培養上清を持続投与すると脊損ラットの下肢運動機能が劇的に回復することを見いだした。骨髄間葉系幹細胞や皮膚線維芽細胞の培養上清を投与したラットの下肢運動機能は回復しなかった。つまり、我々は「本研究は初期研究課題である、歯髄幹細胞の培養上清の強力な神経再生活性をin vitroおよびin vivoで検証するシステムの構築」に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、歯髄幹細胞の培養上清の神経再生効果を検証するとともに、中枢神経に特有な神経再生阻害システムに対する影響を解析する。平成23年度は(1) 培養上清に含まれる成長因子の網羅的蛋白発現解析, (2) MAG (Myelin associated glycoprotein)や PSCG(コンドロイチン硫酸)をコーティングした培養皿上で PC12 や初代培養の小 脳顆粒細胞を培養し、中枢神経損傷部位における環境を invitro で再現することを試みた。平成24年度は In vivo における 培養上清 の中枢神経再生効果の検証を行う。圧挫型脊髄損傷の ラットモデルを制作し、ポンプにてくも膜下腔に培養上清を投与する。これらの解析結果を踏まえて培養上清の神経再生能力を検証する。さらに網羅的な蛋白発現解析を進め培養上清に含まれる神経再生因子の同定を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は以下in vivo研究のためにラット購入費・飼育費・マイクロインフィージョンポンプ購入費・組織染色用の抗体や細胞培養関連試薬の購入を行う。【In vivoにおけるDPSC-NRFの中枢神経再生効果の検証】雌成体SDラットをペントバルビタールナトリウムで全身麻酔する。第10胸椎椎弓切除し、硬膜外よりPrecision Systems and Instrumentation社製 Infinite Horizon Impactor を用いて200kDynの脊髄圧挫損傷を加え、脊髄不全損傷圧挫モデルとする。損傷直後より完全埋め込み式マイクロインフュージョンポンプに連結したチューブをくも膜下腔に挿入し,先端を損傷部直上におき,約二週間にわたって長時間持続的にDPSC-NRFまたはPBSを投与する。評価方法は、(1)ラット下肢運動機能評価をBasso, Beattie, and Bresnahan (BBB) scaleにて評価。(2)脊髄損傷急性期における脊髄組織のアポプトーシス抑制効果をTUNEL染色法にて評価。(3)大脳運動野にBDA-biotin神経軸索トレーサーを注入する。注入後2週間で屠殺。BDA-biotinを組織染色で検出。下肢運動能を制御する皮質脊髄路が損傷部位を超えているか解析することで、軸索伸長効果を評価する。さらに培養上清の抗体アレイ解析を外部委託にて行い、歯髄幹細胞の培養上清に特異的な発現する因子を見いだす。
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Research Products
(1 results)