2011 Fiscal Year Research-status Report
ベテラン助産師の経験値としての「よいおっぱい」「悪いおっぱい」を視覚的にとらえる
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23660087
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
安部 恭子 産業医科大学, 産業保健学部, 講師 (10336282)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 母乳 / ベテラン助産師 / 顕微鏡像 / 電気泳動 / 味 / におい |
Research Abstract |
今回は、これまでの研究である「母乳中の脂肪球の数や大きさ、また、脂肪球周囲にある糖質の量などに個人があることを形態学的手法を用いて明らかにしてきた」経緯から、これらが、ベテラン助産師のいう「よいおっぱい」や「悪いおっぱい」でもいえるのかを検討していくことを目的に始められた研究であった。しかし、研究に遂行にあたり母乳成分の日内変動、味やにおいへの食事や睡眠の影響など、条件を整える必要性が生じた。そのため、月齢11か月の児に母乳を与えている母親の協力を得て、午前8時からおおよそ3時間~6時間ごとに4回の母乳提供を一日のうちに受け、この母乳の経時的な変化を「電気泳動」「味」「におい」の観点から検証した。また、後日これらの母乳は走査電子顕微鏡像撮影のために2.5%グルタールアルデヒドと2%ホルムアルデヒド混合液(karnovsky液)で固定後冷蔵保存している。この母乳は次年度、走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡像での観察を行う。 提供された母乳は時間の経過ごとにわずかだが変化が生じ、「味」「におい」が一定でないことが明らかになった。また「電気泳動」法でも「泳動パターン」に変化が確認された。つまり、同じ人物の母乳でも日内変化を「味」や「におい」の視点からも確認できたことになる。特に味は午前8時に採取された母乳でもっとも甘味があり、その後、時間順に落ちていくことが判明した。また塩味・酸味は逆の順になっており、苦味・旨味に関しては有意差がない結果であった。さらに「におい」では、GCーMSのクロマトグラムで、芳香成分を比較し母乳間で芳香特性に差のある可能性が考えられた。つまり、採取する母乳への母親の「食事」や「睡眠」「運動」などが影響する可能性が考えられた。そのため、研究目的をより明らかにするために母乳の採取時間を午前10時頃から午後1時頃までの昼食前と検討をつけることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は研究代表者1名で遂行しており、採択初年度に勤務校の移動が生じた。そのため、技術協力先の協力者との連絡等が十分に取れない事態になった。また、予定していたベテラン助産師の体調が優れない、研究代表者の勤務地から遠距離のためタイミングよく母乳提供を受けることが困難になったなどの事情が発生した。そのため、今年度はベテラン助産師とも相談し、採取の条件などの検討を主にすることとした。その結果としてベテラン助産師の経験値としての「よいおっぱい」や「悪いおっぱい」を明らかにするために母乳の採取時間の検討をした。影響を与えると考えられる母親の「食事」や「睡眠」「運動」などを考慮して午前10時頃から午後1時頃までの昼食前の採取とすることとした。 諸事情から大きく研究方法・内容の変更を余儀なくされているが、ベテラン助産師のいう「よいおっぱい」や「悪いおっぱい」を検討するための準備として必要な実験を行ったと考えることも可能であり、遅れてはいるが、今後の研究目標がより明確になったのではないかと考えている。さらに当初計画の対象人数では、実験にかかる時間と費用はかさむことが判明したので、適切な人数、内容への変更などを検討できた点においては評価に値すると考えてもよいと思われる。 さらに新たな研究協力者および業務委託先の開拓などを行う必要ができたために、研究全体の進行に支障が生じたのではないかと分析している。
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Strategy for Future Research Activity |
提供された母乳の実験までの手配や一時保管の関係からも1シーズンあたり5名から10名の協力者を募り、年間20~40名を対象と考えて、平成24年度は実験を遂行する予定である。研究の推進方法は当初の予定通りとする。母乳提供を依頼する文書を作成し、本研究の目的および方法を研究責任者が母親へ事前に提示する。提供された母乳の取り扱いには細心の注意を払い、個人が特定されないようにID管理する。研究への参加は自由意思であることを明示し、いったん研究協力に同意したあとでも辞退できることを伝え、いかなる場合においても不利益を被ることがないことを伝える。 作製された光学顕微鏡用、走査電子顕微鏡用、透過電子顕微鏡用、電気泳動用の各試料、および撮影された写真媒体などの取り扱いにも細心の注意を払い、個人が特定されないようにID管理する。なお、これらの情報は鍵のかかる保管庫内にて保管するものとする。 本研究は基本的には研究代表が一人で行う。母乳の走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡像をとらえるための方法についてはすでに一定の方向性を得ている。研究代表者は母乳の提供者が特定されないように配慮し、なおかつ、母乳の実験までの試料作製を担当する。しかし、今回は、電顕写真撮影および電気泳動分析などの手法を新たに用いる。また、「味」や「におい」等については、新たな研究協力者にこれらの実験に関する技術提供を依頼する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
人の母乳を形態学的にみた研究は少ない。そのため、母乳を観察するのに適切な機器の開発等はなされていない。したがって、既存の機器を使用して、走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡像をとらえるための試料作製が欠かせない。母乳はその大半が水分であり、実験には最新の注意が必要となる。そのため、マイクロピペットなどを用いた染色や上昇エタノール系列における脱水などのために実験機器を確保する必要が生じる。また、一時的に母乳を保存し、実験を潤沢に進めるための保存用冷蔵庫やデジタル温度計の購入を予定している。また、統計的に母乳の形態学的影響を明らかにするために、対象者を平成24年度は1シーズンあたり5名から10名を予定している。その謝金や研究協力者に実験依頼をする際の郵送費、データ分析の依頼費用など確保が必要である。 さらに母乳研究は多岐にわたる分野で研究されている。しかし、個人の母乳を走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡で観察した研究報告はほとんどない。形態学的研究は、解剖や生理学教育関係者がかかわることは多いが、看護師や保育士らへの情報発信する機会は少ないため、他分野の研究者との意見交換や情報収集の場として、国内外での学会発表することの重要性は高いと考える。また、本実験上、重要な意味合いをもつ電子顕微鏡を所有する機関に所属する技術者との打ち合わせは不可欠なため、研究代表者が出向き、打ち合わせを予定している。
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