2012 Fiscal Year Research-status Report
言語進化論的アプローチによる急激な環境変化にともなう言語変化のモデル化
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23700310
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中村 誠 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (50377438)
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Keywords | 言語進化 / モデル化 / シミュレーション / エージェント |
Research Abstract |
本研究の目的は,自然言語の文法か言語使用者間のコミュニケーションによって動的に形成される過程を計算機シミュレーションで再現し,社会構造と言語変化の関連を示す定量的なモデルを構築することで,急激な言語変化現象の解明に新展開を図ることである. 本研究は,大きく3つの段階に分けられている.(i)繰り返し学習モデルの改良,(ii)複雑ネットワークを導入したマルチエージェントモデルの構築,(iii)妥当性の検証である.今年度は,繰り返し学習モデルの改良およびマルチエージェントモデルを構築し,シミュレーションを行った. 繰り返し学習モデルの改良として,文法の学習に認知バイアスを導入した.その効果を示すため,仮想のブロックワールドを舞台として親子間の会話による文法獲得の実験を行った.実験の結果,認知バイアスを導入したエージェントが,バイアスをもっていないエージェントよりも効率的に文法の獲得をしていることを示した.特に,ブロックの状況変化から複数の意味がとれる発話については,相互排他性バイアスによって意味の曖昧性が解消された様子が観察された.このような学習の改良によって,より現実に近い文法獲得を再現できることが期待される. マルチエージェントモデルの構築に関しては,今年度計算サーバーを導入したことにより,比較的大規模な実験を行うことが可能となった.大規模な実験を行う際,エージェント数に対して計算の規模が大きくなることが問題として挙げられる.今年度はエージェント数やネットワーク等に関するパラメータの調整を行った.現実世界の人々の繋がりを反映したネットワークを構成することが本研究にとって重要であるため,来年度の計画がスムーズに行われることが予想される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の予定として(i)繰り返し学習モデルの改良(ii)複雑ネットワークを導入したマルチエージェントモデルの実験が挙げられる.繰り返し学習モデルに関しては,文法獲得の学習機構に認知バイアスを導入することで,より人間の文法獲得に近いものとなった.単体エージェントによる実験により,文法獲得が効果的に行われていることが確認されたため,マルチエージェント環境での効果が期待される.まだネットワーク上のエージェントへの実装には至っていないが,大きな障害はないことが予想される.この成果に関して CogSci2012 で発表を行った. また,マルチエージェントモデルに関しては,大規模実験に向けたパラメータ調整にとどまっている.昨年度に大規模実験に向けた実装がある程度完了していたが,予備実験によって実験に要する計算時間が予想以上にかかることが判明したため,パラメータの調整を行った.小規模のマルチエージェントモデルの実験に関して, CogSci2012 で発表を行った.また,語彙抽出手法を自然言語に応用した成果を AOS2012 及び言語処理学会で発表した. また,(iii)妥当性の検証は本年度の計画にはなかったが,それに先駆けて言語間距離を導入し,言語の分布を測定した.これはまだ構造的な言語の比較には適していないため,次年度への布石となった. したがって,現在までの達成度としては,おおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,これまでの申請者の研究成果の延長線上に有り,研究データ,プログラム等の研究資産は潤沢にあるといえる.研究体制としては,基本的には研究代表者が研究の総括,現象の分析,および実装と検証を行い,実験補助のため,博士課程学生を適宜雇用する.また,必要に応じて専門家の意見を聞く. 今年度の予算で高速計算機を購入したため,今後は大規模な実験を行う予定である.これまでの予備実験から,予想よりも計算に時間が掛かることが判明したため,エージェント数を含めたパラメータ調整と,高速化処理を慎重に進めていく. 現在,(iii)妥当性の検証に向けて,実験結果を評価するための指標を模索中である.現在のところ,エージェントが発話する言語の距離を測るために発話ごとの編集距離を導入しているが,文法の進化を測るのには適切ではない.適切な指標を導入することで,集団における言語の分布を観察することが可能となる.比較検証に困難がともなう場合,複雑ネットワーク,進化言語学,社会言語学などの専門家の意見を聞く.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は以下の内容からなる:(1)対象の分析に関すること,(2)それに基づく処理のモデル化・実装に関すること. (1)を遂行するにあたり,文献等からの調査が必要である.研究室内には,人工知能や自然言語処理に関する書籍,資料が充実しており,工学系の文献には不足はない.その反面,社会言語学や認知科学など,人文学系の書籍が乏しいため,必要に応じて書籍を購入する. (2)を遂行するにあたっては,今年度計算サーバを導入したため,大規模な実験を行うことが可能となった.本研究の実験から得られたデータ整理に関しては,学生を研究員雇用する可能性がある.また,その際,データ入力用ノートパソコンを必要とするため,購入する. 上記に加え,調査/発表のための国内/国外出張の旅費を要する.言語学的な調査などについて,専門家の意見を聞くことを計画している.これに加え,これまで協力して研究を行ってきた言語進化および自然言語処理の専門家との研究打ち合わせを行う.本研究の研究成果は,これまでと同様,認知科学会,言語処理学会の論文誌,および一流の研究者が集まる国際会議等で論文を発表していく予定である.
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Research Products
(4 results)