2012 Fiscal Year Research-status Report
筋衛星細胞自己複製機構の解明およびRNA干渉による筋衛星細胞自己複製促進法の開発
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23700484
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長田 洋輔 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (50401211)
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Keywords | 骨格筋 / 再生 / 筋衛星細胞 / 幹細胞 / 自己複製 / Ras |
Research Abstract |
骨格筋の修復や再生は,骨格筋幹細胞である筋衛星細胞によって行われる.筋衛星細胞は厳密な制御機構によってその数が維持されていると考えられているが,その分子機構は不明である.本研究では主に低分子量Gタンパク質Rasとそのエフェクタータンパク質に注目して筋衛星細胞の自己複製に関与する因子を探索するとともに,自己複製の抑制性制御因子をRNA干渉によって機能阻害することで生体内の筋衛星細胞を増加させる方法の開発を目指す. 平成23年度には,マウス筋衛星細胞由来の細胞株C2C12の培養によって生じるリザーブ細胞を休眠状態の筋衛星細胞のモデルとして使用し,アダプタータンパク質Grb2がリザーブ細胞形成に必須であることを示す実験結果を得ることができた.Grb2の下流で機能する低分子量Gタンパク質Rasの関与が考えられたものの,siRNAによってH-Ras,K-Ras,N-Rasの発現を阻害した場合にはリザーブ細胞数に顕著な変化は見られなかった.そこで平成24年度にはRasタンパク質の過剰発現を試みた.なお,その際には目的遺伝子の発現量および時期を制御することが必要と考え,まずリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子を安定的に発現するC2C12細胞株(C2C12-TetOn細胞)を樹立した.その結果,テトラサイクリン応答因子プロモーター制御下で目的遺伝子を発現するベクターの導入により人工的に目的遺伝子の発現を制御することが可能になった.そして,ドミナントネガティブ型N-Rasの筋分化促進的に働くのに対して,恒常的活性型N-Rasは筋分化を抑制し未分化な単核細胞の産生を促進することを見いだした.これまでにRasが筋分化に対して抑制的に機能することは報告されているものの,筋衛星細胞の自己複製に関連づけた研究はなく,筋衛星細胞自己複製機構の解明に向けて前進することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
リザーブ細胞形成がGrb2ノックダウンおよびファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤によって著しく抑制されることから,初年度には配列特異的なsiRNAを用いたRasノックダウンによりリザーブ細胞形成が抑制されると予想し,H-Ras,N-Ras,K-Rasそれぞれのノックダウンを行った.しかし,いずれのアイソフォームをノックダウンした場合にも期待したような結果は得られなかった.これは一つのRasアイソフォームを単独でノックダウンした場合には別のアイソフォームが代償的に作用したためと考えている.平成25年度には2重あるいは3重ノックダウンを行うことでこの問題を解決することができると考えている.なお, C2C12細胞へのsiRNA導入条件を体系的に検討したことにより,安定的に高効率のノックダウンを実現することが可能になったため,今後は迅速な進展が期待できる. 平成24年度には所属研究室での遺伝子導入実験系の本格的な立ち上げに取り組んだ。各種条件の最適化に試行錯誤が必要となったため,当初に予定していた計画よりも時間がかかってしまったものの,リバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子を安定的に発現するC2C12細胞株(C2C12-TetOn細胞)を樹立することができた.このことによって任意の量およびタイミングで目的遺伝子を発現させることが可能になったため,平成25年度には遺伝子導入実験を効率的に進めることができると考えている. これまでにリザーブ細胞形成に関与する情報伝達系としてプロテインキナーゼCを候補として挙げていること,細胞外の情報として細胞外基質のひとつであるラミニンがリザーブ細胞形成に対して促進的に働くという結果も得ているため,今後はそれぞれの情報伝達系について調べていくことで当初の計画を上回る成果が得られるものと期待している.
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Strategy for Future Research Activity |
リザーブ細胞形成に低分子量Gタンパク質Rasが関与することを証明するために,H-Ras,N-Ras,K-Rasの2重あるいは3重ノックダウンを行う.さらに,それぞれのRasアイソフォームの強制発現を行い,リザーブ細胞形成への影響を調べる.平成24年度には活性型N-Rasの強制発現によってリザーブ細胞形成が促進される可能性を示す結果が得られたため,特に活性型N-Rasの強制発現によって誘導される細胞状態について詳細な調査を行い,N-Rasと筋分化・リザーブ細胞形成の関係を明らかにする. 活性型Rasの下流ではRaf,PI3K,RalGDSなどさまざまなエフェクタータンパク質が活性化されるため,リザーブ細胞形成に関与するRasタンパク質の下流で働くエフェクタータンパク質を探索する.このためには,特異的な阻害剤あるいはsiRNAを用いた機能阻害を体系的に行い,リザーブ細胞の増減を調べる.また,筋細胞においてマイクロRNA-214(miR-214)がN-Rasの発現を抑制的に制御するとの報告があることから,miR-214の阻害についても検討する. in vitroで得られた結果をin vivoで検証するために,マウス骨格筋内でRNA干渉を行い筋衛星細胞自己複製への影響を調べることを検討している.筋衛星細胞自己複製の抑制性制御因子に対するsiRNAを導入した後に骨格筋を摘出し,筋衛星細胞の増減を調べる.筋衛星細胞数の増加が確認できた場合には,カルジオトキシン投与による筋損傷を引き起こし,筋衛星細胞増加による筋再生効率への影響を調べる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は概ね交付申請額通りの金額を使用したものの,20,429円を繰り越した.これは年度末に予定していた発現ベクターのDNAシークエンス解析が諸事情により遅れたことが主要な原因である.準備が整い次第すみやかにDNAシークエンス解析を行う必要があったため,差額については平成24年度内の物品購入費用等には充てず,基金化されたことのメリットを活かして平成25年度に当初目的のために使用することにした. 平成24年度までにC2C12細胞系においては活性型N-Rasの過剰発現によってリザーブ細胞形成が促進される可能性を見いだした.そこで平成25年度にはさらにH-Ras,K-Rasの過剰発現を行うとともに,活性型Rasの下流でリザーブ細胞形成のために働くエフェクタータンパク質を探索する.このために,特異的な阻害剤あるいはsiRNAおよびsiRNA導入試薬を購入する.また,マイクロRNA-214(miR-214)の阻害によって細胞内N-Ras量を上昇させることを試みるため,miR-214特異的な人工合成アンチセンス核酸を購入する. 平成25年度にはsiRNAあるいは人工合成アンチセンス核酸による骨格筋に対するin vivoでのノックダウンを行うための条件検討を行う.その際に必要となるトランスフェクション試薬または先行研究において有用性が示されているアテロコラーゲン,in vivo用途に最適化された修飾siRNA等の試薬,マウス飼育用の餌等を購入する. 平成25年9月に岡山で開催される日本動物学会第84回大会において発表を行う予定であるため,学会参加に要する旅費等として使用する.また,本研究により得られた成果を論文発表するために必要となる英文校閲費,論文掲載料を支出する予定である.
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Research Products
(5 results)