2011 Fiscal Year Research-status Report
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23700491
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Research Institution | National Center for Geriatrics and Gerontology |
Principal Investigator |
山田 貴史 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 脳機能画像診断開発部, 研究員 (50531860)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 加齢性精神疾患 / セロトニン / ドーパミン / PET |
Research Abstract |
現在、うつ病の原因はモノアミンの代謝異常であるという仮説が有力であり、脳内モノアミンを標的とした抗うつ薬が多く用いられている。しかし、一言にモノアミンと言っても、その分子機構は多種多様であり、抗うつ薬の作用機序も多岐にわたるため、的確な抗うつ薬を選択し、最善の治療効果を得るのは難しい。また、高齢者のうつ病では認知症によく似た症状がみられ、その原因もモノアミン代謝異常の関与が示唆されている。そこで我々は、うつ病のリスクとなりやすいモノアミン分子機構が加齢要因によって特徴付けられるのではないかという仮説を立て、これを調べるとともに、臨床診断の可能性を視野に入れた小動物PETイメージングによるうつ関連因子の画像化を検討した。 実験にはF344/N雄性ラット3ヵ月から24ヶ月齢を用いた。小動物用PET/CT装置FX-3200を用い、[11C]DASBによる脳内セロトニントランスポーターの定量と、[11C]β-CFTによる脳内ドーパミントランスポーターの定量を検討した。また一方で、ラットの脳を摘出した後、HPLC-ECDを用い、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンとそれらの代謝物含量について定量を行った。 本研究を遂行した結果として、まず動物PET実験用の薬剤の合成および供給系を確立できた。また、小動物PETイメージングにより、3ヶ月齢に比べ24ヶ月齢のラットの脳内セロトニントランスポーターとドーパミントランスポーターのbinding potentialが増加する傾向が観察されたが12ヶ月と24ヶ月齢の間では有意差は観察されなかった。HPLCによるモノアミン測定結果からは、特に24ヶ月齢において脳の多くの部位で、セロトニンの代謝物の有意な増加が観察された。この結果から、高齢ラットではトランスポーターの発現量は変わらないものの、脳内セロトニン代謝が変動している事が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、うつ関連因子の測定系の確立する事と、これを用いて加齢うつモデル動物の脳内分子機構を解析するという2つの検討課題がある。 前半のうつ関連因子の測定系の確立については、HPLCによるモノアミンの測定系を確立した。動物PET測定では、3つのモノアミンのうちセロトニン、ドーパミントランスポーターについての測定を終了し、ノルアドレナリンについて同測定に着手する段階である。また、モノアミンの受容体とトランスポーターやその他うつ関連因子についてもマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子解析を行い、現在データの解析中である。 以上の事から、前半課題のうつ関連因子の測定系の確立する事に関しては、おおむね達成しており、次年度に検討する加齢うつモデル動物の脳内分子機構の解析を行い、課題全体の目的を達成するために、研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、正常加齢動物の基礎データの大部分を得ているが、まだ足りていない部分の動物PETを用いたノルアドレナリントランスポーターのイメージングおよび、現在解析中のマイクロアレイ解析の結果を基にして、定量的PCRを用いたモノアミン受容体・トランスポーターの遺伝子発現解析またはウェスタンブロットによるタンパク質の定量を行う。 次に、正常加齢動物にストレスを与えることで、加齢性うつモデル動物を作成し、正常加齢動物で行った実験と同様、動物PETイメージング、HPLCによる脳内モノアミンの定量、マイクロアレイ解析、定量的PCRを用いたモノアミン受容体・トランスポーターの遺伝子発現解析またはウェスタンブロットによるタンパク質の定量を行う。 最終的に、正常加齢動物と、加齢性うつモデル動物のうつ関連因子の分布を比較し、加齢性うつモデルのうつ関連因子の変動パターンを評価することで、高齢期のうつリスクの原因因子の特定と、PETなどを用いた高齢期のうつ病診断の可能性について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
加齢動物の購入は、長寿医療研究センター内にある加齢動物育成施設からの購入を予定していたが、昨年度の段階では長寿医療研究センター内の研究資金からしか加齢動物の購入許可が下りなかったために、繰越研究費が生じた。 この分の使用については、比較的高額な費用を要する測定手段であるマイクロアレイ解析に利用することを考えている。 これまでの測定では脳を大脳皮質や海馬などの部位に分けずに脳全体を平均化した測定を行っていたが、本年度の研究課題で得られたデータを解析し、重要であると考えられる脳組織をピックアップして再度マイクロアレイ解析する事で、より詳細かつ明確な研究結果を得ると考えられる。したがって、この部分にかかる経費が必要である。
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