2011 Fiscal Year Research-status Report
脳波筋電図コヒーレンスのメカニズムを筋感覚フィードバックの視点から解明する
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23700683
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
牛山 潤一 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (60407137)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 運動皮質 / Ia求心性神経 / 振動刺激 / 緊張性振動反射 / 運動単位 |
Research Abstract |
静的な随意筋活動中に観察される運動皮質-筋間の同調的神経活動は,脳波筋電図間のコヒーレンス解析により定量評価できる.この発生機序として,従来は,皮質から筋への下行性ドライブがその主要因と考えられてきたが,近年,体性感覚フィードバックの貢献についても議論がなされている.しかし,具体的にどの感覚神経活動が主に影響しているかは明らかではない.本研究は,とくに筋に関する感覚のフィードバックに寄与する「Ia求心性神経」に焦点をあて,脳波筋電図コヒーレンスの発現機序の解明を目指すものである. 平成23年度は,1) 腱への長時間振動刺激によりIa求心性神経を低下させ,その前後に随意筋収縮を行わせた際,脳波筋電図コヒーレンスはどのように変化するか,2) 安静時に,腱への振動刺激によってIa求心性神経活動を賦活させた際に筋電図上に観察される「緊張性振動反射」は,脳波と相関するか,の2点を検討した. 実験1) では,複数の被験者において,長時間刺激後,Ia 求心性神経活動の低下とともに脳波筋電図コヒーレンスの顕著な低下が観察されたが,これがすべての被験者にあてはまる現象ではなかった.このことから,静的随意筋収縮の運動発現・制御方策は被験者間で異なり,よりフィードバック系に依存したストラテジーをとる被験者において,コヒーレンスの低下が観察されたものと思われる. 実験2)では,ほぼすべての被験者において,緊張性振動反射誘発時に,脳波と筋電図間のコヒーレンスが観察された.このことから,緊張性振動反射は,脊髄下の伸張反射ループのみならず,経皮質のループもその発現に寄与していることが示唆された.人工的にIa求心性神経の活動を賦活させるだけでも,皮質-筋間の活動連関が観察されたことから,Ia求心性神経を介したフィードバックループが運動皮質-筋間カップリング生成に重要な役割を担うことが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度実施予定だった実験はすべて順調に進み,無事に終了した.実験1) の結果については,当初立てていた仮説の通りにはならず,長時間振動刺激後の脳波筋電図コヒーレンスの変化には個人差が存在した.この結果は,上述のとおり,静的随意筋収縮の運動発現・制御方策の被験者間差に起因するものと推測されるが,各被験者間の筋活動ストラテジーの違い(中枢制御メインか末梢制御メインか)を評価する指標は現在のところ構築されていない.こうした新たな解析指標を提案したのち,再度データを見直し,本実験から仮説通りの結果が得られなかった原因の究明が必要であろう. 実験2) については,当初の仮説・計画以上に進展したといっていい.我々は,先行研究において,そもそも静的随意筋収縮中の脳波筋電図コヒーレンスには大きな個人差があることを報告しているが(Ushiyama et al., J Neurophysiol 106: 1379-1388, 2011),こうした随意収縮時のコヒーレンス値によらず,すべての被験者において,緊張性振動反射時の脳波と筋電図間には有意な相関性が見いだされた.このことは, Ia 求心性神経を介した感覚フィードバックが,皮質-筋カップリングをうながす重要な機能をもつ,ということを強く示唆するものであると同時に,緊張性振動反射の発現機序の解明といった,もうひとつの重要な生理学的な意味をもつものである.
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Strategy for Future Research Activity |
実験1) については,上述のとおり,被験者ごとの筋活動ストラテジーの違い(中枢制御メインか末梢制御メインか)を評価する指標を考案し,データを再解析した上で,被験者間での振動刺激後の脳波筋電図コヒーレンス変化の差異がどのような生理学的な意味をもつのか,検討していく.実験2) については,ほぼすべての実験が完了したところであり,データを整理した後,論文執筆にとりかかる予定である. あわせて,平成24年度には,新たに実験3) 緊張性振動反射誘発時の運動単位活動の計測,を行う.1本の針電極から記録される3-4つの運動単位について,それぞれの発火閾値(最大筋力の何%を超えると運動単位が発火するか)を同定し,発火閾値の差異によって,振動刺激に対する応答が違うか,検討する.また,振動刺激のタップから運動単位発火までの時間(潜時)を計測することで,それぞれの運動単位の活動が筋-脊髄間のループ(伸張反射回路)由来か,それ以外の系によるものか,それ以外の系の可能性があるなら,それらの活動は脳波とコヒーレントか(すなわち経皮質による発火か),などを検討していく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度後半に,運動単位記録用の生体アンプの購入を予定していたが,既存の生体アンプの不具合や,脳波記録チャンネル数の拡充の必要性を鑑み,脳波/表面筋電図/運動単位とすべてに適用可能なアンプの導入が必要になった.この条件に最適なアンプがみつかったため,当初は,一部直接経費の前倒し請求をおこなっての年度内購入を検討していたが,時期が年度末に迫っていたこともあり,納品が年度を跨ぐ恐れがあったため,購入を4月以降に繰り越すこととした.従って,平成24年度前半には,上記機器備品として,生体アンプ一式(約140万円)の購入を予定している.なお,本機器備品の納入が遅れたことによる研究計画の遅れはない. また,9月に行われる日本体力医学会(岐阜),10月に行われるSociety for Neuroscience(米国・ニューオリンズ)に参加し,成果発表を予定しており,学会参加費および旅費として約50万円の支出を予定している.
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Research Products
(5 results)