2011 Fiscal Year Research-status Report
バレエの回転動作のバイオメカニクス研究―回転を生み出す体肢の協応運動に着目して
Project/Area Number |
23700714
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井村 祥子 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (30586699)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | バレエ / バイオメカニクス / 逆動力学 / 体幹長軸回りの回転 / 角運動量 |
Research Abstract |
平成23年度は,実験を集中して行った.研究の目的は,歩行,ダンス,スポーツなど多くの運動で観察される,地上での体幹長軸周りの回転における体肢の運動について,回転を生み出す仕組みについて調べることである.特にバレエの回転技は,片足または両足接地,並進を含む回転など同軸周りの回転のほとんどの様式を網羅している.そこで実験を行った動作は次の6つとした.ピルエット(片足接地でのその場で行うバレエの回転技)・シェネ(両足接地でのバレエの並進運動を伴う連続回転動作)・ピケターン(片足接地でのバレエの並進運動を伴う連続回転動作) ,男性はこれらに加えザンレール(両足接地で踏み切るジャンプで,空中で2回転する)・ジュテエランセ(ジャンプする前にターンし,空中で開脚する)・アラセコンドターン(片足接地でのその場で行う連続回転動作)も調べた.実験概要:床面に固定可能な床反力計3台と赤外線カメラ8台を用いてそれぞれの動作を記録した.被験者の全身の各セグメントに,反射マーカーを3つ以上(総数60個程度)を貼付し,人種に応じた身体モデルを作成した(ロシア人(Zatsiorsky, 1983), 及び日本人(Ae etal. , 1992) のモデル).床反力計はカメラと電気的に同期し,1台につき片脚のデータを収集した.ピルエットは,連続1,2,3回転(3試行)を床反力計の上で時計回りと反時計回りの二種類行う.シェネは,スタート位置を工夫して回転開始時と連続回転時の運動を撮影する.自由なテンポで,できるだけ速く長い連続回転を行う.ピケターンはスタート位置を工夫し回転開始時と連続回転時の運動を撮影する.納得する動作となるまで撮影を繰り返すことがポイントであった. 実験は女性は概ね完了し,男性はあと2名の協力者が必要である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度分の実験は概ね完了し,研究費の残額を考えてもまだ非熟練者によるターンまで撮影できるほど残っているので順調に運んでいると考えている.分析では,性別・人種によって用いるモデルが異なること,接地足によって入力する床反力計のデータが変わることが,解析するプログラミングでの大きな問題であると考えられる.前者はすでに被験者の種類別に身体モデルを作成してある.後者に関しては,最初の構えのポーズでの各足に対応する床反力計を把握し,並進運動が始まると鉛直方向の床反力成分が0になるタイミングで,それらを入れ替えるというプログラムを組むことで,逆動力学で用いていた従来のプログラムが利用できる.よって本年度の前半に実験の残りの部分を,後半はプログラムを回転動作別に多少工夫して,解析に充てることができる.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の実験は,バレエダンサーで非熟練者女性10名男性8名,プロバレエダンサーで男性2名行う.解析では,節角度及び角速度,体幹及び各体肢の鉛直軸周りの角運動量とその変化のための発揮トルク,各解剖学的軸周りの発揮関節トルク,地面反力,地面から支持足に作用する摩擦による回転作用に関して行う.これらの項目について,上半期で終了し下半期で下記の観点から詳細な考察を行う.1.熟練者及び非熟練者の比較によるバレエの回転技における巧みな身体の使い方の解明. 2.内回り・外回りの違いの検討. 実験に要する時間がとても長くなり,被験者の疲労の影響が無視できないので,歩行時の方向転換については本研究では見送ることとした.その代りに,男性ダンサーが行う回転とジャンプが組み合わさった動きや,以前に申請者が行った女性ダンサーによるフェッテターンをさらに強度を高めた連続回転であるアラセコンドターンを分析する.前者は,空中での角運動量の獲得において,回転に必要な外力(床反力)による回転作用に貢献する鉛直方向の力成分がどれだけであるかを知ることにより,主に下肢の屈伸によって得られる床反力のうちどれだけが角運動量の獲得に貢献するかを調べる.後者は,連続回転のために必要な角運動量の供給が,支持脚の屈伸のみによると考えられる.その時の発揮トルクを調べ,男性ダンサーの体力の指標の一つを提示することができる.また,女性ダンサーのフェッテターンでは遊脚を屈伸させることで回転中の身体重心の位置が変化する.アラセコンドターンでは遊脚が回転中にほぼ同じ位置にあるので身体重心の位置が変化しない.こうした動作様式の違いから,片脚支持中の身体重心の変化に対応する体肢の発揮トルクの違いを調べる.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の大半は,被験者への謝金と研究成果発表に充てられる.被験者謝金予定:400,000円学会発表必要経費予定額:120,000円消耗品・予備費:40,000円昨年度の経験を踏まえ,実験が失敗やデータ欠損を生じた時に再度実験を行えるようにする.そのため,謝金の額は予定額の二倍を想定した.また,非熟練者のダンサーについては熟練ダンサーが提供する技術には至っていないため,謝金額を半額にして被験者数を増やす.予定は熟練者と同数であるが,熟練・非熟練者ともに被験者の時間に余裕があれば,歩行の試行を別の実験日に行う.参加する学会を国内にしたために削減された旅費を,謝金に充てることとした.研究成果発表に関して,2つの関連学会大会に参加予定である.昨年度までに,実験対象としたバレエ動作で共通して用いられるターンアウト(股関節の外旋による下肢全体の外旋)での下肢の屈伸運動が上体の姿勢保持に与える影響についての実験を行っている.実験結果から、十分なターンアウトをすることで骨盤の前後方向の回転角度が小さくなる可能性が示唆された.本実験で行われている運動は,バランス保持の観点から,すべて直立した上体を維持できないと成り立たないが,ダイナミックな動作中は股関節の外旋角度は静的動作中よりも小さくなると推測される.この研究成果は,本研究のテーマである,回転の勢いを生み出すための運動解析と直接の関連はないが,本研究におけるもう一つの重要な研究成果であるバランス保持の仕組みについて,股関節の外旋位が上体の姿勢保持に及ぼす影響を理解するうえで必要な研究成果である.よって本年度に発表する運びとなった.参加予定学会大会は,第63回日本体育学会大会及び第22回日本バイオメカニクス学会大会である.
|