2012 Fiscal Year Research-status Report
障害のあるトップアスリートにおける自己変容プロセスの因果モデルの構築
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23700731
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
内田 若希 九州大学, 健康科学センター, 講師 (30458111)
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Keywords | スポーツドラマチック体験 / 自己概念 |
Research Abstract |
スポーツ競技への参加過程において,試合での逆転劇,予想を覆す試合結果,重要な他者との出会い,厳しい訓練の克服などは,多くの選手が体験する出来事である.このような,練習や試合の中で体験される,人生の転機ともなるような心に残るエピソード,つまり「スポーツドラマチック体験 (橋本, 2005)」は,自己変容を促す環境や時間・人・行動といったダイナミックな関係性をもたらすとされる.そこで本年度は,障害のあるトップアスリートを対象に,周囲の環境や人間関係などのダイナミックな関係性を含むスポーツドラマチック体験を軸とした変容プロセスの因果モデルを解明するために,スポーツドラマチック体験に関連する要因を検討した. 肢体不自由者153名 (男性102名,女性51名; 35.2±11.04歳) を対に,受傷時期,スポーツ経験などの関連要因,スポーツドラマチック体験尺度 (阿南, 2010),および自己肯定意識尺度 (平石, 1990) に回答させた.競技経験年数,受傷経過年数,およびスポーツドラマチック体験を独立変数,自己肯定意識の各因子得点を従属変数として,重回帰分析を行った結果,対自己領域および対他者領域いずれの自己肯定意識においても,スポーツドラマチック体験のみが有意な規定力を示した.性別×個人・団体種目×パラリンピック出場経験有無の三要因多変量分散分析を実施した結果,チーム内問題解決体験で個人・団体種目の有意な主効果が認められ,団体種目の選手が個人種目の選手と比較して,チーム内問題解決体験量が多いことが明らかになった.また,自己貢献体験,フロー体験,チーム内問題解決体験,成功試合体験で,パラリンピック出場経験の有無による有意な主効果が認められた.いずれも,参加経験のある選手のほうが,参加経験のない選手と比較して体験量が多かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度および24年度は,論文精読による要因の精査や調査項目の選定,および日本パラリンピック委員会を通じて障害のあるトップアスリートを対象に大規模調査を実施してきた.スポーツドラマチック体験に関する国内における大規模調査はこれまでに例がなく,貴重な資料を得ることができたといえる. また,これらの内容を統計処理により解析し,各関連学会やシンポジウムで発表を行ったり,報告書としてまとめたりしたことから,概ね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,スポーツドラマチック体験による自己変容プロセスの因果モデルを構築し,この構築されたモデルを,質的アプローチを用いて,実際の生きた体験からさらに検証していく.また,当初の予定にはなかったが,当該研究の世界的権威である西シドニー大学のProfessor Herb Marshと共同研究を行うことができる予定であり,国内での調査にとどまらず国際比較研究に発展させていく計画である. また,研究領域への還元として,関連する国内学会・国際学会での研究発表・研究論文の投稿を行い,障害者スポーツの現場への還元として,指導者や選手が集う障害者スポーツセミナーや障害者スポーツ指導員研修会などで成果の報告を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①国内旅費: インタビュー調査および研究成果発表のためにも旅費を必要とし,5万円を計上する. ②外国旅費: 西シドニー大学における共同研究や国際関連学会への参加の外国旅費として,①および②を除く残額を使用する. ③謝 金 等: インタビュー調査に伴うデータの整理・調査に謝金を必要とし,5万円を計上する.
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Research Products
(7 results)