2011 Fiscal Year Research-status Report
現代中国における農村医療・衛生事業に関する歴史研究
Project/Area Number |
23701011
|
Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
福士 由紀 総合地球環境学研究所, 研究部, プロジェクト研究員 (60581288)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 農村医療 / 衛生事業 / 日本住血吸虫症 / 雲南省 / 中国 / 国際保健 / プライマリ・ヘルスケア |
Research Abstract |
本研究は、1950年代から70年代の中国における日本住血吸虫症対策に関する歴史資料の分析およびインタビュー調査を通して、農村医療・衛生事業の歴史的実態を検討し、現代中国における農村医療・衛生事業の歴史的展開を実証的に把握することを目的とする。 平成23年度は、(1)1950~70年代の中国における農村医療制度の歴史的展開と同時代の国際社会における中国農村医療体制への認識、(2)雲南省における日本住血吸虫症対策の展開とその農業・農村政策との連関について研究を進めた。 (1)については、(1)1950~60年代の農村医療制度の導入と普及過程について、雲南省における日本住血吸虫症対策の展開を事例に、県―郷―村の三級において農村医療・防疫組織、人員が配置されていく過程を明らかにした。とりわけ、郷、村レベルにおける半農半医の農村保健員・衛生員の育成のありようを重点的に検討した。(2)同時代の中国の農村医療に対する国際認識に関しては、以下のような研究を行った。すなわち、1978年WHOとUNICEFによるアルマ・アタ会議において中国農村医療はプライマリ・ヘルスケアの一つのモデルとして国際的に賞賛されたが、これに至るまでの西側諸国の中国の農村医療への認識、言説を、LancetやInt.J.of Health Serviceなどの医学、公衆衛生学の国際誌および『農村医学』などから抽出し、60年代以降中国の農村医療システムが、西側諸国にとっても一つのモデルとして認識されていくようになる過程を明らかにした。 (2)については、雲南省における日本住血吸虫症対策における糞便管理の問題を事例として研究を進め、1950~60年代を通して、愛国衛生運動や大躍進運動など食糧増産政策の一環として「増産積肥」運動が行われたが、これが住血吸虫症対策とも大きく関連していたことを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、現代中国の農村医療・衛生事業の歴史の制度的展開、同時代の国際社会の中国の農村医療に対する認識の変遷を、内外の政治・経済・社会的変化を踏まえながら把握することを目的に研究を遂行した。そのために本年度は、国内では国立国会図書館、東洋文庫などで、また国外では雲南省図書館、上海図書館などで関連資料の調査収集を行った。公文書資料についても、本研究の協力機関である上海交通大学、雲南大学の協力を得て調査収集を行った。本年度は、5月と11月に雲南省において、かつて感染症対策に従事していた人々、およびいわゆる「はだしの医者」として農村医療に携わった人々のインタビュー調査も行った。これらの資料をもとに、"Rural Health System in China (1950s-70s) and International Society" (第38回エコヘルス研究会・第12回中国環境問題ワークショップ、2011年9月20日、総合地球環境学研究所)として、また日本住血吸虫症対策と農村・農業政策との連関については、"Feces Control and Schistosomiasis Prevention in Yunnan, 1950s-60s"(International Workshop on the History of Schistosomiasis in China, Oct.,8-9, 2011, at Shanghai Jiaotong University)として口頭発表し、現在、更なる資料の分析を加え、論文化を計画している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、平成23年度に進めた研究を基礎として、雲南省大理州の農村社会をメインフィールドとして現代中国の農村医療制度の展開と農村地域社会の政治・経済的変動との連関に焦点をあてて研究を進める。そのために、国内では国立国会図書館、東洋文庫、東洋文化研究所、アジア経済研究所などで、関連資料の調査収集を行い、国外では、中国国家図書館(北京)、上海図書館(上海)、雲南省図書館(昆明)で関連資料の調査収集を行う。これと同時に平成23年度に収集した公文書資料の分析を進める。また雲南省におけるインタビュー調査を年2回、日本住血吸虫症対策に従事した専門職員、かつての「はだしの医者」、村民に対して行う。平成24年度には、平成23年度の成果とあわせて、現代中国農村医療・衛生事業の制度的展開と国際社会の中国認識に関する学術論文、および農業政策、特に糞便管理の展開に焦点をあてた日本住血吸虫症対策と農村社会の変容に関する学術論文を執筆、発表する。 平成25年度は、「大衆動員と衛生事業」というテーマで研究を進める。上述の諸機関において、新聞・雑誌・広告・パンフレット・ポスターなどの資料調査を行うと同時に広く村民に対するインタビュー調査を実施する。具体的には日本住血吸虫症対策の一環として行われた衛生運動―査螺・滅螺・水利工事―での大衆動員方法、運動の実態を明らかにする。 さらに平成25年度は、平成23年度、24年度中に行った研究とあわせて、1950年代から70年代の中国農村医療・衛生事業の歴史的展開についての報告書をまとめる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現代中国政治・経済、農村社会に関する文献購入費・資料複写費・文具等購入費(200,000円)、中国雲南省における2度のインタビュー調査に係る経費(400,000円)、上海(上海図書館)・北京(国家図書館)における資料調査に係る経費(150,000円)、国内(国会図書館、東洋文庫、東洋文化研究所、アジア経済研究所)における資料調査に係る経費(100,000円)、インタビュー調査・国外資料調査の協力者などへの謝金(50,000円)として平成24年度の研究費を使用することを計画している。 なお、平成23年度には、およそ200,000円の未使用額があるが、これは平成23年12月に交通事故に遭い、右足首を脱臼骨折したため平成23年12月末から翌平成24年1月末まで入院し、退院後2か月は安静を保つ必要があったため、国内・国外での資料調査を行うことができなかったためである。
|
Research Products
(4 results)