2012 Fiscal Year Research-status Report
現代中国における農村医療・衛生事業に関する歴史研究
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23701011
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
福士 由紀 総合地球環境学研究所, 研究推進戦略センター, 拠点研究員 (60581288)
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Keywords | 農村医療 / 中国 / 雲南省 / プライマリヘルスケア / 国際保健 / はだしの医者 / 日本住血吸虫症 |
Research Abstract |
本研究は、1950年代から70年代の中国における日本住血吸虫症対策に関する歴史資料の分析およびインタビュー調査などを通して、建国期から改革開放以前の中国における農村医療・衛生事業の歴史的展開とその地域社会における実態を把握することを目的とする。 平成24年度は、①中国農村医療に対する同時代の国際社会の認識、②近代以降の雲南省における農村医療衛生事業の展開、③雲南省大理自治州(専区)を中心とした1950年代の農村医療サービス導入の実態、について研究を進めた。 ①については、WHOによる刊行物などを中心に調査を進め、1970年代に中国の農村医療システムが国際的に注目を浴びた背景について考察を進めた。その結果、当該時期の「適正技術」に対する世論の注目を背景に、医療衛生分野においてもコミュニティを基盤とした簡便な保健サービスが追及されるようになったことを明らかにした。 ②については、雲南省の各地域の『(新編)地方志』、1960年代社会科学院などによって実施された民族調査報告書、インタビュー調査などから得られたデータを分析し、雲南省においては、日中戦争期の1940年代前半、上海や広東といった沿岸部からの専門家や専門機関、大学の内遷により各地に医療機関が整備されるなどしたが、日中戦争の終結に伴うこれらの再移動、および戦後内戦期のインフレや社会的混乱により中華人民共和国建国当時には、県レベルの医療衛生機関の再編が必要とされていたことを明らかにした。 ③については、大理専区の衛生档案の分析を通じて、1950年代前半の土地改革衛生工作隊による基層衛生人員の訓練配置の実態を明らかにした。土地改革衛生工作隊は各地で貧農青年を中心に訓練を行い、郷レベルでの医療サービス普及に努めたが、中級レベルの人員不足や訓練生の質の問題、「半農半医」の彼らへの待遇問題など様々な課題に直面していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、平成23年度に進めた研究を基礎として、雲南省大理自治州(専区)の農村社会をメインフィールドとして現代中国の農村医療制度とその実態について研究を進めることを主たる目標としていた。そのため、本年度は国内では国立国会図書館、東洋文庫などで、また国外では雲南大学、昆明医科大学、上海図書館などで関連資料の調査収集を行うと同時に、平成23年度およびそれ以前に収集した大理専署衛生科档案などの公文書の分析を進めた。さらに平成23年度に実施した雲南省でのかつての寄生虫対策従事者、「はだしの医者」、現郷村医、村落住民へのインタビューデータの分析も行った。これらの作業により得られたデータをもととして、本年度は「建国初期中国雲南省における農村医療サービスの展開:雲南省大理専区を主たる事例として」(「建国初期中国雲南省農村医療服務的発展:以雲南省大理専区的情況為主要事例」(中国語)李玉尚・飯島渉ら編『環境変化與血吸虫病』上海:上海交通大学出版社、2013年刊行予定)を執筆した。 尚、本年度は雲南省におけるかつての「はだしの医者」、日本住血吸虫症対策に従事した専門職員、村落住民に対するインタビュー調査の実施を計画していたが、日中関係の悪化により一部実施できなかった。しかし、本研究の協力研究機関である雲南大学、上海交通大学、雲南省健康與発展研究会などの協力を得て、関連する多くのデータを得ることができたため、本研究は、本来の研究計画通りに、おおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成23年度、24年度に進めた研究を基礎として、建国初期から改革開放以前の中国農村における医療衛生事業の歴史的展開をまとめる。その際、以下の視角からのアプローチを行う。①日本、台湾などを含めた東アジア各地の戦後の農村医療との比較研究、②その上で見えてくる中国の農村医療衛生事業の特徴のまとめ。 ①については、農村医療サービスのあり方に着目しつつ考察する。これまでの研究を通して、建国初期から改革開放以前における中国における農村医療サービスは、医療の大衆化という特徴を持つことが見えてきた。これは医療サービスという点からすると、「はだしの医者」や基層医療従事者のような大衆の専門家化、と戦後の衛協会での専門医療従事者の再教育による医者の大衆化という二つのベクトルを持つものであった。一方、日本や台湾では戦前より医療の専門化・制度化は比較的進んではいたが、医療における都市農村間格差は中国同様に大きく、農村における医療サービスの普及が課題となっていた。こうした中で、戦後の日本・台湾はどのように農村医療サービスを展開したのかを制度面および地域社会における実態面から解明し、中国との比較研究を行う。本研究に係る資料の調査収集を、国立国会図書館、日本国内の市町村図書館、台湾中央研究院などで行う。 ②については、①に加え、これまでの研究の中で見えてきた中国の農村医療衛生事業の特徴の一つとしての大衆動員に焦点をあててまとめる。具体的には日本住血吸虫症対策を事例として、農村社会で展開された査螺・滅螺・水利工事を主体とした衛生運動と、積肥増産運動と連結して行われた糞便管理を扱う。本研究の成果を論文としてまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現代中国政治・経済・社会に関する文献購入費・資料複写費・文具等購入費(100,000円)、データ保管用PCの購入(150,000円)、中国(上海図書館、北京国家図書館)における資料調査収集に係る旅費(150,000円)、台湾(中央研究院など)における資料調査収集に係る旅費(150,000円)、国内(国立国会図書館、市町村図書館・資料館)における資料調査収集に係る経費(100,000円)、データ整理などに係る謝金(50,000円)として平成25年度の研究費を使用することを計画している。
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