2012 Fiscal Year Research-status Report
博物館標本の種子を用いた絶滅植物集団の復元と標本管理方法の開発
Project/Area Number |
23701024
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
志賀 隆 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60435881)
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Keywords | 博物館標本 / 植物標本種子 / 発芽 / 絶滅危惧種 / 復元 |
Research Abstract |
●標本種子が発芽可能な種のリストアップ:前年度からの継続調査として、大阪市立自然史博物館の植物標本庫から合計80種263標本の種子を得て発芽試験を行い、18種33標本において発芽が確認された。テトラゾリウム染色試験で生存と判断されたものを含めると生存種子は合計50種104標本であった。 ●標本のコンディションによる発芽率の違い:様々な年代の標本が収蔵されている4種(カワツルモ、コガマ、ホシクサ、ミヤコグサ)の標本から種子を回収して発芽実験を実施した。ホシクサにおいてのみ時間経過と生存率に対数関数的な関係がみられ、他の種では経過年数に加えて標本作製方法が生存率に影響を与えている可能性が示唆された。ホシクサ、カンガレイ、タコノアシ、ヒメノハギ、イヌハギ、スズサイコ、キクモの7種について12種類の方法で標本を作製・管理した後、種子の生存率を調査した。発芽試験の結果、全ての種において高温条件で乾燥処理を施したものは著しく他の条件よりも発芽率・生存率が低下した。 ●野生集団と復元集団の遺伝的組成の比較:スズサイコについて、標本種子から復元した集団と野生集団の遺伝的組成や多様性をマイクロサテライトマーカー9遺伝子座を用いて予備的に比較した。標本由来の集団は野生集団に比べて、対立遺伝子数が有意に少なかったものの、ヘテロ接合度の観察値に差はなく、野生集団に見られない固有対立遺伝子も確認された。 ●栽培と生品展示:大阪市立自然史博物館の実験圃場および、ビオトープにおいて、発芽に成功させた植物からミズキンバイなど数種選抜し、試験栽培を開始した。 ●結果のまとめ:日本陸水学会甲信越支部会(平成24年12月)、日本生態学会(平成25年3月)および日本植物分類学会(平成25年3月)において研究成果を発表した。また、平成24年5月に大阪市立自然史博物館において市民向けの普及講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では(1)どの種が標本の種子から発芽させることが可能なのかを明らかにする、(2)どのような状態の標本ならば利用可能なのかを明らかにする、(3)復元された集団に含まれる遺伝的多様性の程度を比較する、(4)博物館標本から植物保全を行う一連のフレームワークの提案、の4つを大きな目的としている。 当該年度までの2年間の研究で、それぞれ4項目において順調に成果が出すことができた。(1)に関しては80種を調査し、50種で標本の種子が確認された。(2)については経年変化と標本作製方法が標本種子の寿命に大きな影響を与えることを明らかにするとともに、最適な標本作製方法を明らかにするために試験的に標本を作成した。(3)に関してはスズサイコについて標本種子由来の集団と野生集団の遺伝的多様性について試験的に比較した。(4)については試験栽培を開始した。 上記のことから、本研究の達成度について「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は以下の項目について研究を進める。 ●生存種子の発芽方法の検討:テトラゾリウム染色で胚が生存していることがわかっているにも関わらず、発芽できなかった標本種子については、ジベレリン酸添加などのホルモン処理を行うなどして発芽可能かを確認する。 ●野生集団と復元集団の遺伝的組成の比較:スズサイコについて3~5標本由来の実生集団と野生集団の遺伝的多様性をマイクロサテライトマーカーを用いて比較する。 ●最適な標本作製方法、管理方法の開発:昨年度標本を作成した7種に加えて、埋土種子の寿命が明らかになっているハコベ、ナズナ、ビロードモウズイカ、メマツヨイグサ、キンエノコロ、ヤナギタデ、アカメガシワ、タニウツギ、スギの9種について12種類(乾燥処理3条件×保存温度2条件×保存時の酸素条件2条件)の方法で標本を作成し、発芽実験を実施することにより、最適な標本作製方法、管理方法を明らかにする。 ●栽培と生品展示:平成24年度からの活動に加えて、研究成果がまとまる冬季に展示会を企画し、市民に成果を公表する準備を進める。 ●結果のまとめ 日本陸水学会甲信越支部会(平成25年12月)、日本植物分類学会(平成26年3月)において発表する。標本から得た種子の発芽実験の結果、標本のコンディションによる差について論文にまとめて投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
●生存種子の発芽方法の検討:発芽試験に使うシャーレや染色液、植物ホルモン等の試薬を購入する。標本種子を得るために大阪市立自然史博物館に2回調査に行く。 ●野生集団と復元集団の遺伝的組成の比較:DNA実験を行うための試薬を購入するとともに、野生集団のサンプリングのために近畿地方に調査に行く。 ●最適な標本作製方法、管理方法の開発:対象とする9種の野生集団において標本作製するために現地調査を行う。また標本作製に必要な道具を購入する。 ●栽培と生品展示:展示会に用いるパネル類、インクカートリッジ、紙を購入する。 ●結果のまとめ:山梨県で開催される日本陸水学会甲信越支部会(平成25年12月)、熊本市で開催される日本植物分類学会(平成26年3月)に参加する。
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Research Products
(3 results)