2013 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロビームによる細胞局所照射法を用いた細胞質の放射線応答の研究
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23710076
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Research Institution | The Wakasa Wan Energy Research Center |
Principal Investigator |
前田 宗利 公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター, 研究開発部, 主査研究員 (20537055)
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Keywords | マイクロビーム / 細胞局所照射 / 細胞質の放射線応答 / バイスタンダー応答 / 突然変異誘発 / 突然変異抑制 / 選択的細胞死 / 一酸化窒素(NO) |
Research Abstract |
放射線の生物影響は、細胞核内のDNA損傷に起因すると考えられてきたが、我々のこれまでの研究から、細胞質への照射によって誘導される応答も、放射線に対する生物応答において重要な役割を果たしていることが示唆された。そこで、本研究では、独自に開発したX線マイクロビームによる細胞局所照射手法を用いて、照射領域と細胞応答の関係、細胞質の放射線応答に関わる細胞内の情報伝達について解析を進め、以下の成果を得た。 ①細胞質のみを照射したほ乳類細胞の細胞死の線量応答を定量し、核内のDNA損傷が誘導されない状態でも、線量に対して直線的に細胞死が増大することを明らかにした(平成23年度)。②照射された細胞周辺の非照射細胞(バイスタンダー細胞)における突然変異誘発頻度の解析から、バイスタンダー細胞群中の不安定な細胞が、一酸化窒素(NO)による情報伝達を介して選択的に排除されることを明らかにした(平成24年度)。③DNA修復関連タンパク質の可視化解析から、細胞質が照射されている場合、照射されていない場合と比べてより低線量域からDNA修復系が誘導されていることを明らかにした(平成24~25年度)。④PCRアレイを用いた遺伝子発現解析から、バイスタンダー細胞群中の不安定な細胞の排除が、NOシグナルによるTP73の発現亢進を介して誘導されることを明らかにした。以上の結果は、細胞質の放射線応答が、特に低線量域において、細胞の維持・生存に重要な働きをしている事を示している。 これらの成果は、低線量放射線のリスクやヒトへの健康影響の評価において、DNAを標的としたリスクモデルに一石を投じる重要な知見と考えられる。また、更なる研究の推進により細胞質を起点とした情報伝達機構の詳細が明らかになれば、生化学、分子生物学分野への波及効果も期待され、その結果として、ヒトの健康維持、そのための医薬の開発にも繋がると考えられる。
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